- Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
- / ISBN・EAN: 9784805112427
感想・レビュー・書評
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本書は、デジタル空間を通じた選挙への干渉は、自由で開かれた民主主義国家の在り方に多大な影響を及ぼすおそれがあるとの問題意識の下、土屋大洋慶應大学教授を中心とする「選挙干渉研究会」における研究成果を踏まえて、広く問題提起を行うことを目的に編まれたものである。
選挙アクターの意図が、①特定候補の当落・特定政策の誘導、②民主主義・選挙への不信を高めることにあること、2016年、2020年米国大統領選挙を始め、ヨーロッパやアジアの選挙でも干渉、介入が見られること、ソーシャルメディアを用いたディスインフーメーション等について、具体例とともに論じられる。
日本においても、憲法改正の国民投票が実施されるような重大な争点がある場合などを考えると、決して対岸の火事ではないとする。
そうした分析、検討を踏まえて、第8章では、「日本での選挙介入への備え」として、政府がとるべき対策、国会がとるべき対策、メディアとソーシャルメディアプラットフォーマー等がとるべき対策、有権者・国民がとるべき対策等、それぞれについて具体的な提言がなされている。
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東2法経図・6F開架:314.8A/Ts32h//K
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脅威を過大視も過小視もせず、冷静に論じた良書。
明確な偽情報流布やサイバー攻撃による情報摂取・改ざんの類は分かりやすいが、リスクはこれらに限らず、たとえば「ナラティブ」もある。2020年台湾総統選時に支配的だった言説は「民主主義は失敗だ」というものだったという。こういった言説の流布は昔からあったとしても、デジタル社会で一層容易になっているのだろう。
その曖昧さ故に介入の有無や程度は分かりにくい。2020年米大統領選への米情報コミュニティの評価は、露やイラン等は別として、中国は干渉も影響力行使もしなかったというものだが、異論はあるという。更には選挙結果の如何を問わず、選挙の正統性が傷つくだけで介入者の目的達成とも本書は指摘する。
対策が比較的なされているような台湾でも、選挙干渉やディスインフォメーションが政争の具となっている、また親中テレビメディアの放送免許を政府が更新しない、という負の面も本書で指摘。
また日本への政策提言の章では、サイバーセキュリティ能力と共に、ファクトチェックや情報リテラシー向上といった内容も含まれているが、少なくとも後者については米の状況を見ると悲観的になってしまう。