- Amazon.co.jp ・本 (314ページ)
- / ISBN・EAN: 9784806030072
感想・レビュー・書評
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収録作品がひとつ多いちくま文庫版がお得かと思いつつ、結局こっちにしてみた。沖積舎のこういう本はけっこう好き。中身も旧字と旧仮名遣いにフォントが似合いで美しい。
とはいえ戯曲「ウスナの家」も気になる。ちくま文庫版にも手を出したい。
「海豹」「女王スカアァの笑ひ」「最後の晩餐」「髪あかきダフウト」「魚と蠅の祝日」「漁師」「精」「約束」「琴」「浅瀬に洗ふ女」「剣のうた」「かなしき女王」を収録。
しんと静まりかえった、透きとおる空気を演出する語りが印象的。物思いに沈んで沈んで、その内へ内へと潜っていく中に見る心象風景が物語世界を形作るかのよう。アイルランドのフェアリーテイルが陽の下の花なら、こちらは星明りに探す露の光の風情。マクファーソンの『オシアン』からも、これに通じる哀感を覚えた気がする。スコットランドの風土がそうさせるんだろうか。
とはいえ、物語としては意外なほど後ろ向きでもない。死の先で精に生まれ変わるなら、キリストだってケルトの民の生まれ変わりでないなんてことがあるわけない。キリスト教の影響下に置かれながら、その精神性は不滅であるのだと謳う、これはいかにもロマンチックで魅惑的な香りがする。ケルト文芸復興運動の精華というべき魅力だと思う。当時の読者の反応がちょっと気になる。
その点、「女王スカアァの笑ひ」と「かなしき女王」は後ろ向きに振り切れた感じのする異色作。クー・フーリンを恋い慕っているとさせているのは、当時からもすでに遠く隔たりすぎた神話の輝きを偲ぶ思いの表れであるのかもしれない。琴手コンラの歌う恋の歌が沁みる。
イスの女王のお話があったり(「髪あかきダフウト」)、バン・シーの姿をマリアと重ね合わせたり、色々見どころがあってとても面白かった。どこか詩的な響きのある訳も素敵。「最後の晩餐」の冒頭のあたりは特に美しかった。詳細をみるコメント0件をすべて表示