- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784806714590
作品紹介・あらすじ
ピュリッツァー賞 2013年最終候補作品<br>リード環境図書賞、全米アウトドア図書賞を受賞<br><br>“科学と詩の間にあるネイチャーライティングの新ジャンル”<br>――エドワード.O.ウィルソン(ハーバード大学名誉教授)<br><br>アメリカ・テネシー州の原生林の中。<br>1㎡の地面を決めて、1年間通いつめた生物学者が描く、<br>森の生きものたちのめくるめく世界。<br><br>草花、樹木、菌類、カタツムリ、鳥、コヨーテ、風、雪、嵐、地震……<br>さまざまな生き物たちが織り成す小さな自然から見えてくる<br>遺伝、進化、生態系、地球、そして森の真実。<br>原生林の1㎡の地面から、深遠なる自然へと誘なう。<br><br><br>---------------------<br><br><br>森の生態系がもつ物語は、曼荼羅〔マンダラ〕と同じくらいの面積の中に<br>すべて存在している、と私は信じているのだ。<br>葉や岩や水という、小さな沈思の窓を通して、<br>森全体を眺めることができるだろうか?<br>テネシー州の山中の原生林が作る曼荼羅(直径1メートルの円形)の中に、<br>私はこの問いの答えを、あるいは答えの端緒を見つけようとした。<br> * * *<br>曼荼羅にいるときの私のルールはシンプルだ――<br>頻繁に来て、一年間観察すること。静かにして、干渉は最小限に抑えること。<br>生き物を殺さない、曼荼羅から持ち出さない。<br>曼荼羅を掘ったり、這って入ったりしない。……<br>毎週毎週、私は何度もここで観察することにした。<br>この本では、曼荼羅で起きることを、起きたままに伝えていく。<br>(「はじめに」より)<br>
感想・レビュー・書評
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季節の移り変わりとともに変化する森のある一点を観察した記録。
その場所で見える風景だけではなく、見えたものと関係のある物事にどんどん話が広がっていく。
たとえば鹿にかじられた若木から、反芻動物の第一胃のなかでくらす微生物の話へ。
ミクロからマクロへ、古代の生物や太陽や分子の話までしてくれる。
尽きることのない好奇心と、やさしく語られる豊富な知識がすこぶる面白い。
詩的な文章が最初は少々読みにくかった。
たとえば観察する小さな場所を、著者は「曼荼羅」と呼ぶ。
いわんとするところはなんとなくわかるけれど、日本育ちとしてはなまじ曼荼羅を思い浮かべられるだけに違和感がある。
でも慣れてしまえば面白い。読み終わる頃には美しい文章だと感じるようになった。
嵐や木が倒れる様子はドラマチックで、「この世の終わりにおびえるフィリフヨンカ」を思い出す。
「人も自然の一部」「生態系の輪廻」など、ともすれば薄っぺらくなってしまう言葉がしっかり沁みる。
ひとつひとつの小さなものを見て、感じて、考えていく過程を順にたどるから、その発見を素直に受け取れる。
それぞれの生き物が互いの体に影響を及ぼす、たとえば今はいない大型草食動物への適応が木に残っているというような、痕跡を残すという考え方を面白いと思った。
こういうつながりの発見は、テネシー州の原生林という「特別な場所」だけでできるものではないのだそうだ。
道端の雑草だって、それどころか人間だって、こういう目でみることができる。
頭の中から出て、考える前に見る練習をしようと思った。
とても気持ちの良い読書だった。
でも訳者あとがきを読んだら「自然とよりそう日本人」「日本の文化が」「東洋の思想が」みたいなことばかり書いてあって萎えた。
訳自体は良かったのに残念だ。
カッコウは日本にくるカッコウと違う気がする。
面白さの質が「移行化石の発見」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/416373970Xと似てる。
ページをめくるごとに知りたいことが増えていく。
この本を読んだら、その辺の道端の草や羽虫が興味深いものに見えてしかたない。
「雑草のくらし」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4834002365を読みたくなった。
「ビクトリア朝の昆虫学」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4887217854を先に読んだおかげでより面白く読めた部分もある。
冬の、死んでしまったかのような灰色の木々の描写、いっきに訪れる春。
ちょこちょこ動き回るリスや小鳥、じっと座って息を殺しなにもせずいることで場に受け入れてもらう著者。
ちらちらと、「秘密の花園」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4834007588が浮かんだ。
バーネットは森の音を聞ける人だったのかな。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
書かれている内容と文体が両方美しく心地よい。
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【読了メモ】一年間、森の曼荼羅に通った記録。詩的な文章がはじめは読みづらかったが、段々それが心地良くなる。
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翻訳をされた方が「コケの自然誌」と同じ方。どおりで雰囲気がちょっと似てました。
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筆者が、テネシー州の山中の原生林が作る曼荼羅(直径1メートルの円形)を一年間観察した記録。その小さなスペースに森の生態系が持つ物語をすべて存在している。
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テネシー州の森の中1平方メートルを”曼荼羅”と呼び、一年間観察した様子。動植物の生体が詳細に記載されている。
例えば、
ーあまり毛の生えていない毛虫は鳥に捕食されないように植物の葉を端から食べることで、葉にすぐに見つかる穴を作らない。
ーヒメコンドルは死肉の発するエタンチオールに敏感なため、ガスパイプラインから漏洩があるとガスに人工的につけたエタンチオールの匂いによってくる。
ー二色覚者(赤緑色覚異常者)は三色覚者よりカモフラージュを見破るのに優れている。
など。
それにしても、説明している対象の図や写真が欲しい。 -
短いエピソードの積み重ね。最初は、ありがちなナチュラリストの森エッセイかな、と思いつつ読み進めたのだけれど、自分で決めた原生林の中の、畳半畳の観察エリア「曼荼羅」で暮らしたり、通りすがったりする生き物たちのレポートなんだ、と気づいてからがぜん面白くなった。1回に数エピソードずつ、ゆっくりと大事に読み進める。小さい花とか、森の木とか、ナメクジとか、線虫とか、あまり主役をつとめることのない小さいいきものを相手に、大の大人が腹ばいになって何時間も眺めているのがおかしく、愛しい。こういう大人になりたい。
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企業のロゴマーク20個と一般的に見られる動植物20種の名前を聞かれると、大学生はいつも企業はほぼ全部言えるが動植物はゼロに近いと。でも、そんな時代であっても、いやだからこそ、自然を観察し、探求するということがいかに面白いものなのか。原生林の局所を「曼荼羅」と呼び、たびたび訪れてずっと観察し、綴られた本。
菌類をテーマにすることもあれば、地震、チェーンソーといったことをお題に掘り下げたりもする。そして観察をすればするほど、その曼荼羅との親近感と距離感。謙虚な気持ちと高揚感。
すこし距離感が変わるけど、きっと原生林でなくたっていいんだ。自分ちの庭だって、そこらの川や公園だって。そこにある曼荼羅を肴に、事実と想像力に酔う。こりゃたまらないなあ。