ネコ・かわいい殺し屋―生態系への影響を科学する

  • 築地書館
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784806715801

作品紹介・あらすじ

約9500年前に家畜化され、文明の伝播とともに世界中に広がったネコ。
人を魅了してやまない彼らの存在は、鳥類や哺乳類をはじめとする生物群にどのような影響をもたらすのか。
捕食による希少種の絶滅や、人や海棲哺乳類への病気の媒介、TNR(捕獲・不妊去勢・再放逐)の有効性など、野放しネコと環境との関わりを科学的に検証するとともに、各国で行われている対応策とその効果を紹介する。

ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)、
ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス、
フォーブス誌ベストブック・トップ10(2016年、保全と環境)大絶賛!

感想・レビュー・書評

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  • 猫が好きな人ほど、読んだ方がいいかもしれない。

    ふと図書館で目に入った本書のタイトル。
    猫大好きで、地域猫にも関わっている私は、だからこそこの本を読むべきかもしれないと思い手に取った。
    内容としては、家の中で飼われているネコと野放しネコ(野良猫と放し飼いの猫など)とを区別し、野放しネコが生態系や人間に媒介する感染症に与える影響について、それらの影響を無くすためにどうすればいいのか?TNR(捕獲・不妊去勢・再放逐…日本でいう地域猫と考えていいだろう)の是非、各国の野放し猫への対応などについて論じている。

    タイトルや内容からもしかして著者はネコが嫌いなのか?と思われるかもしれないが、決してネコ自体を非難しているわけではない。
    家の中で飼われているネコに対しては何も言及していない。
    野放し猫に対して論じている鳥類学者の中にも、ネコが好きな人はたくさんいる。
    しかし、生態系への影響、また野放しにされることによって、人間や、他ならぬネコ自身にデメリットしかないことを語っている。
    私も地域猫と触れ合う中で、今野放し猫に対してできることはこれくらいしかないから地域猫を見守っているが、異常気象やネコ嫌いの人間たちから受ける暴力などをみていく中で、地域猫たちの過酷な生存環境については頭を悩ましてきた。
    TNRは好まれるが、何も解決しない。
    その通りだと思う。
    これは私の考えだが、一番は飼い主による無責任な猫の遺棄さえなければ、地域猫や野良猫などとしてネコたちは生きる必要はなかったのだ。
    ネコを蔓延らせたのは、ネコを無自覚な殺戮者や迷惑者にしてしまったのは人間だ。

    「今日、悪気のない人たちの行動、あるいはそれと同じくらい重要な、「行動しないこと」が、世界中で生態学的健全さのつづれ織りを少しずつほころびさせ、人々の健康を脅かすという意図しない結果をもたらしている。家の中でネコは素晴らしいペットになる。野外に放たれれば、自らの過ちではないのに、無慈悲な殺し屋、病気の温床となる。」

    本書は主にアメリカやオーストラリア、ニュージーランドなど英語圏のネコによる生態系異常について語られているが、日本でもことの重大さは変わらない。
    ネコについて、ひいては地球、自然について、一番に責任を負い、考えるべきは人間たち。
    そう再認識させられる本だった。

    以下備忘録がてら目次をば。

    第1章 イエネコによる絶滅の記録
    第2章 イエネコの誕生と北米大陸での脅威
    第3章 愛鳥家と愛猫家の闘い
    第4章 ネコによる大量捕殺の実態
    第5章 深刻な病気を媒介するネコー人獣共通感染症
    第6章 駆除vs愛護ー何を目標としているのか
    第7章 TNRは好まれるが、何も解決しない
    第8章 鳥、人そしてネコにとって望ましい世界
    第9章 どのような自然が待ち受けているのか?

  • "Cat Wars"
    The Devastating Consequences of a Cuddly Killer
    ©️2016 by Peter P. Marra and Chris Santella

    絶滅種の14%に関与

    多くの人にとってもショッキングな数字だと思う。
    非常に興味深かった。最近、日本でもヤンバルクイナやアマミノクロウサギを狩るネコの画などをみた人は多いと思う。世界各地で在来種を脅かす侵略的外来種としての”ネコ”、伝染病の媒介者としての”ネコ”が注目されている。日本でもテレビのCMスポットで、ネコは室内で飼育しましょう、と歌われているが、まだまだ外で放し飼いにされていたり、飼い主のないノネコを多く目にする。
    希少種とノネコ、ノラネコ
    ノネコや放し飼いにされているペットネコが希少種を狩る姿を幾度か目にしたことがある。なんとなく、狩られているらしい、ではなく、本書は科学的にどれぐらいの被害があるか、どういう歴史があったか、などから始まって、色々な科学的側面から野に放たれているネコについて説明されていて、非常に興味深い。訳書だけあって、和名がよくわからないので、その都度読書的集中を阻害されてはしまうが、基本的には読みやすいとは思う。ほんと、いつも思うが、鳥種やかく生物の種名や地名などは英語を併記してほしい(密かな願い)。
     私自身、鳥類の保護活動は行っているが、哺乳類も大好きである。現在は無犬期ではあるが、大の愛犬家であり、ネコも大好きで、いつかネコとイヌと一緒に暮らしてみたいという野望もある。なので、ネコを愛する者としても、ネコを外で放し飼いにすることに、遺憾である。ネコを外で自由にさせることで、ネコだけでなく飼い主もリスクを負うことは、あまりにも知られていなさすぎるように感じる。本書にはネコの健康被害、日本には少ないが野生のネコ科動物にも及ぶ伝染病なども細かく言及されている。さらに、人間にもうつる伝染病についても説明がある。完全室内飼いにすると、回避できる病気である、狂犬病や腺ペスト、バルトネラ菌やトキソプラズマなど。トキソプラズマはフランスが特に陽性率が多く80%以上、日本でも10%の陽性率で、ネコが終宿主でネコの体内でオーシストが形成されて糞で拡散される、というのは一時公園などの砂場がネコのトイレになり、砂場を利用する子供たちに感染が広がっているという報道を目にされた人も多いと思う。
    ほんの数十年前、私が子供の頃は野犬がたくさんいた。現在はほとんど目にすることはない、ざっくりいうと、狂犬病予防法を根拠として、単独で外をうろつくイヌは速やかに捕獲されているからである。レイビィ、日本語でいうと狂犬病なので、犬だけがかかる病気として多くの日本人に認識されているように思う。実は、コウモリやネコもキャリアになるし、外国ではネコから狂犬病に感染して死亡するケースも多い。アメリカでは1988年以降ネコは人に狂犬病を感染させる家畜の筆頭で、2013年に報告された狂犬病家畜のうちの53%がネコ。日本でもネコから人間に感染する病気が周知になってくれば、飼い猫を不用意に外で遊ばせる飼い主が減ると、私は思う(今でも、犬を放し飼いにする人がいなくならないように、一定数の不届きものはいなくならないだろうが)。もちろんネコはネコ科に致死的病原体も媒介するのを忘れてはならない。
     自分自身とネコのために、外に出さないというのも、本当にネコのためになるという科学的根拠がある。そして、室内で長寿ハッピーに暮らすネコだけになれば、飼い主もハッピーになり、在来種もハッピーになり、みな幸せになるということだ。
     知るということは大切だとつくづく感じた1冊だった。

    内容の面白さとは関係がないが、妙にひっかかった箇所。
    P116に出てくる、『コロラド州チャフィー群を訪れていた三一歳の男性ジョン・ドゥ』。John Doeだと思うんだが、本当に実名がジョンドゥだったら笑える(あはは)。ドゥの原文の綴りがしりたいなぁ。ないとは思うが、実名だったら子供の頃にからかわれたことと思われる。ていうか、大人になっても名乗った時に、相手の方を怒らせることもあるかと、、(想像するだけで悲惨)。普通ジョンドゥは仮名。日本語で言うと名無しの権兵衛さん。Doeが架空ファミリーネームでJohnがありふれた名前の筆頭なので、紀州太郎とか新潟花子とかそういう雰囲気だな。ということで、カタカナなので実際の原文がなんて名前なのか、ちょっと知りたいです。

    オーストラリアの公共放送、ABCオーストラリアの特集
    ABC Australia
    Feral cats- Australia's native animal annihilators
    https://youtu.be/VaB9J8JHVxI
    とてもわかりやすい良い特集、書籍内で言及されている人物も登場。
    日本も逃げ場のない島で、特殊な種も多いので手遅れになる前にコントロールするべきかと思う。

  •  多くのネコ好きにとっては目を背けたくなる本。しかしネコを大事に思うなら、いま世界で起こっているネコによる生態系の被害にしっかりと目を向けなければいけないだろう。

     ネコは約9500万年前に家畜化され、以来小型の捕食獣として、人間の同伴者として世界中で生き長らえてきた。そういう意味では外来種という印象は薄く、その愛くるしい姿や手間のかからなさ、孤独をまぎらす相手として、日本でも近年は飼いイヌの数を上回るほどの人気だ。
     ただ、日本ではまだあまり知られていないが、海外では野生化したネコや野外に出た飼いネコから野鳥などの希少生物を守ろうとする運動が高まっているという。もともと肉食で繁殖率の高いネコによる生態系への被害は甚大で、これまで世界で絶滅した生物の14%はネコによる被害だと知って驚いた。
     ネコによる被害の話と言うと、なんとなく愛猫家と愛鳥家の小さな争いかと思っていたが、想像以上に生態系に被害を及ぼしていることを本書で初めて知った。アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドではすでに国や州レベルで、野放しネコへの対策が実施されている。

     著者は、野生化したネコの数を減らすことと、飼いネコを野外に出さないように主張している一人だ。本書でも主張を裏付けるための膨大な統計データや論文を紹介しているが、いまいち決定的なデータに欠けるのが気になる。
     さらに著者自身が、愛護生物(野鳥など)を守るためにもうひとつの駆除生物(ネコ)の行動に、果たして人間が制限をつけていいものかというジレンマに悩まされている。
     そもそも弱肉強食の自然の世界に、最も自然を破壊している人間が介入すること自体が奢りであり、本来の生態系を歪めているのではないかと何度も自問自答しているのだが、目の前で絶滅危惧種がネコによって脅かされているのも現実であり、捕獲・不妊、啓蒙活動など、より良い共存の道を今でも模索している。

     日本では、ネコは単なる愛玩動物としての魅力でしか語られていないが、ネコに寄生するトキソプラズマ原虫による人間への影響は、感染予防のためにももっと周知されるべきだ。『心を操る寄生生物』(キャサリン・マコーリフ著)でその存在を知った時から、(ネコが悪い訳ではないが)ネコだけでなくネコを飼っている人にも近づきたくなくなった。このトキソプラズマ症の事実が広まると、ペット業界とその周りの産業は壊滅的な打撃を受けるだろうから、日本では当分知られないままになるだろう。
     いずれにしろ、可愛いからと屋外で見かけたネコに餌をあげるのはやめた方がいいし(まして捨てネコを拾ってくるというドラマやマンガのシチュエーションもそろそろ考え直した方がいい)、ネコを飼っている人は絶対に野外でネコを自由にさせてはいけない。少なくともこの二つは守ってほしい。

  • 下記 築地書館サイトより転載。

    約9500年前に家畜化され、文明の伝播とともに世界中に広がったネコ。
    人を魅了してやまない彼らの存在は、
    鳥類や哺乳類をはじめとする生物群にどのような影響をもたらすのか。
    捕食による希少種の絶滅や、人や海棲哺乳類への病気の媒介、
    TNR(捕獲・不妊去勢・再放逐)の有効性など、
    野放しネコと環境との関わりを科学的に検証するとともに、
    各国で行われている対応策とその効果を紹介する。

    ネコたち、多くが飼い主のいない野放しネコたちは、
    アメリカで毎年40億羽にのぼる鳥を殺している。
    このことに何かするとして、何をすべきだろうか? 本書はこの難問に取り組んでいる。
    あなたがネコ好き、鳥好き、哲学者、倫理学者、
    あるいは腸(はらわた)がねじれそうな難問にとにかく関心がある者なら、
    本書に心をつかまれるだろう。
    ――ジャレド・ダイアモンド (『銃・病原菌・鉄』著者)

    私たちは自然の劇場が、生きることに勤しむ肉食や雑食の動物たちのせいで、
    刺々しいのを知っている。
    タカは鳥の餌台からショウジョウコウカンチョウをさっと捕まえ、
    リスはカラスの巣から卵を引っつかみ、
    カラスはリスの巣から子をくわえ出す。
    何が野放しネコを、鳥や他の野生動物を脅かす、際立って危険な存在にしているのか?
    本書はいくつかの要因を説明している。
    ――ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス ナタリー・アンジェ
    (サイエンスライター、ピューリッツァー賞受賞)

    私は生涯のほとんどをネコたちと暮らしてきた。
    ニューヨーク市に住んでいた頃は、自分の知識を
    プロのネコ世話係として働くことに使って家計の足しにした。
    とはいいながら、飼いネコや野良ネコが土地の野生動物を捕食していく
    紛うことなき破壊力に私はいつも感じ入っていた(良い意味ではなく)。
    著者らは本書で、地球の生物多様性、環境、
    そして公衆衛生に野放しネコが及ぼす脅威について詳細な検討結果を披瀝している。
    著者らは、個体数モデリングを用いた多くの科学研究、ネコに関わる疾病、
    そして絶滅について説明する。
    また、小規模だが非常に声の大きい専門利益団体が、
    野生化ネコや野放しネコの個体数大爆発に取り組もうとする如何なる動きをも、
    どのように巧みに阻止するかについて、その歴史を伝えてくれる。
    本書は、この複雑で世界的な問題を検討し、
    解決に向けて科学的根拠に基づいた現実的な提案を行っている。
    丹念に調査され、またわかりやすいこの本は、
    すべてのペット所有者(ネコを飼っていてもいなくても)の必読書であり、
    野生動物にとって、人間にとって、そしてネコ自身にとって最善なのは、
    ネコの飼い主が自分のペットを常に屋内に留め置くことだという鉄壁の論考である。
    ――フォーブス誌ベストブック・トップ10(2016年、保全と環境)

  •  私は動物好きであり、生態学も概論ではあるが一応勉強した。
     猫は嫌いではなく、将来的に飼いたいとも思っている(もちろん室内で)。
     野良猫は問題であり、放し飼いや餌やりはするべきではない。
     TNRと呼ばれる、野良猫を避妊去勢した後野外へ放し、その後「地域猫」として飼育されるのは次善の策であり、少なくとも放し飼いよりはマシだと思っていた。
     しかし、そんな私の認識は甘かったと思わせられる本だった。
     地域猫は子猫を産まないかもしれない。
     しかし、子供を産まず野外で人の餌やりを受けながら過ごしている間に食事のためや遊びでも鳥類や爬虫類などの動物は殺すし、猫以外の動物や人にうつる感染症を媒介する。
     また、これらの問題を無視しても、かなりの数の猫が避妊去勢を受けないと、数年したら猫がいなくなるとは言い切れない。
     地域猫活動は放し飼いよりマシではなく、放し飼いと同じ程度の意味しかないと知った。
     また、野外の猫による鳥類爬虫類の被害が相当なものだというのも、あまり頭になかった。
     野良猫とは都会にいるものであり、都会には動物があまりいないという印象が合ったのだと思い、自分の考えの浅さを反省した。
     このように、この本にはいくつかの章に分けて、主に放し飼いの(文中では放し飼いや餌だけ挙げられている野良猫、また完全に人に依存していない野良猫も含めて『野放し猫』と言われている)猫が環境や人に与える影響について書かれている。
     文章はほとんどが論文からの引用に基づいて、客観的なデータと共に書かれており、巻末に引用論文や、単語の索引などもあるため猫が外にいて何が悪いのか、猫が引き起こす問題とは何か、を学ぶには絶好の入門書になっていると思う。
     著者は鳥類学者とサイエンスライターで、しばしば自らの思い込みで話す猫愛護団体関係者に関し多少皮肉っぽく書いてあることもあるが、猫擁護派の意見も書いてあるし、猫を絶滅させろのような過激な意見も言っておらず、割と中立的に書いてあると思う。
     読む限り、野放し猫に関する研究は研究数自体が足りないという印象を受けた。
     そのため、猫反対派はもちろん、「猫は外にいるのが自然なこと」「餌やりをして何が悪いの」そう思っている人にこそ、読んでほしい。そして、猫と身近な立場を利用して研究して、本の内容を覆せばいい。

  • ◎信州大学附属図書館OPACのリンクはこちら:
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB28071753

  • 人間にとって愛玩動物であるネコを、外来捕食者、伝染病の媒介者としての面をクローズアップしている本。洋書らしく表現が日本語とちょっと違うので読みづらくはあるが、終始ネコに批判的な論調であることがわかる。

    ただ、一番厄介なのは野生のネコよりも「犬と違って散歩の手間が省ける」と放し飼いにされる家ネコのようだ。野生のネコは野鳥や小動物を補食しながらも自然の食物連鎖の一部となり得るが、家ネコは十分な栄養を与えられた上にその習性から補食(あるいは狩り)を行う。さらに、人間の引っ越しと共に外からついてくると、その地域の「外来捕食者」となって生態系を崩していくということが延々と述べられている。

    批判がネコに向いていると思いきや、これは飼う人間の側の問題を提起している本なのかもしれない。

  • 猫好きには辛い現実...

  • 展示テーマ:猫

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著者プロフィール

鳥類学者。アメリカ・スミソニアン動物園・保全生物学研究所の渡り鳥研究センター所長を務める。
これまでに175編以上の多数の研究論文や書籍を刊行。共著書に『Birds of Two Worlds(2 つの世界の鳥類)』がある。

「2019年 『ネコ・かわいい殺し屋』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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