地図帳の深読み 100年の変遷

著者 :
  • 帝国書院
3.57
  • (6)
  • (12)
  • (14)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 266
感想 : 17
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (177ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784807165872

作品紹介・あらすじ

地図帳の老舗・帝国書院と地図研究家・今尾恵介氏がタッグを組んだ『地図帳の深読み』
待望の第2弾!
今回のテーマは、ズバリ「昔の地図帳」。
100年以上の歴史を持つ帝国書院の書庫に眠る大正や戦前戦後の地図帳を、今回も今尾氏ならではの軽妙な筆致で「深読み」します!
日本一高い山、日本の東西南北端、地名、国名、国旗、国境など…現代の地図と読み比べると、あらゆる部分が変わっていることに気づかされます。
各時代の地図帳を「深読み」すると、地図帳が作られた当時の社会情勢、時代背景がまざまざと浮かび上がってきて、歴史好きな方にも読み応えがある一冊に仕上がりました。

皆さんが学生時代に使っていた頃の地図帳も登場するかもしれません。
家の奥に眠るあの地図帳、今もう一度繙いてみませんか。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 地図の専門出版が世に問う「深読みシリーズ」で、地図の歴史的な読み比べが出た。今年8月に発行された時から紐解くのを愉しみにしていたが、感想は「少し残念」というものだった。

    100年前の地図というと、全て旧字体でしかも印刷技術は発達していないから文字が潰れているものも多い。それなのに、前作と同じレイアウトを使い、1ページの1/6ぐらいしか使わない地図が多用されていた。これだと、目の悪い私なんかそれだけで見る気が半減した。地図にある豊富な情報が読み取れないのだ。昔の地図は今回の倍ぐらいは総て拡大するべきだったと思う。

    それでも、面白かったところ。
    ・関東大震災直前とその後区画整理された後の東京・新大橋辺りの地図の比較(25p)。

    ・台湾台中辺りの昭和9年の地図。サトウキビを収穫するため鉄道が発達している(55p)。←旅した時にこの辺りが栄えていた理由がわかった。

    ・台湾に今も残る日本式地名の意味(高雄、松山、板橋等々)。台湾の親日の現れというだけではない。その前の地名は、当時の宗主国清朝が与えた。その現地読みの漢字化が屈辱的だった。高雄の前は「打狗(ターカオ)」。←そういうことは、日本人はきっちり知っておかないといけない。だから、一方で韓国の地名は戦後直ぐに元に戻ったのであるし、韓国民にとっては日本人に三十数年間強制された地名(ソウル市内だけでも青葉町、大和町、並木町、弥生町等々多数)は屈辱だったに違いない。(57p、106p)

    ・沖縄・嘉手納基地の大正8年の地図を初めて見た。銃剣とブルドーザーで接収された土地は野原や畑だけではなかった。数千人の生活を保つ大きな町が2つもあった。(68p)


    ※ ここで、本書の記述を少し超えてハイジさんのリクエストに応えたい。165p、167pの二つの岡山県南地図は本書では珍しく大きな縮尺で、細かい所まで確認できる。地域の産業の変遷が、地図から読み取れる例として使われているのではある。質問されたことに答えるとともにもう少し詳しく解説したい。

    先ず令和3年の地図に特産品として「弁当」が載っている。「弁当の特産品って何?」ハイジさんの指摘では何のことかわからなかったが、弁当と言えばどうせ駅弁のことだろう、だとすると祭り寿司かなと想定して紐解くと、何と弁当産地は大きな町のない田舎、むしろ山の中ではないか!笠岡在住の詳しい友人に質問したが、初めて聞いたという。「昔は下駄の産地だったらしいです(←これは私も初耳)」とのこと。全然違いますね。もしかしたら教科書の誤植である可能性があります。

    県南の児島地区は干拓地なので、塩害の関係で塩に強い産業が発達した。それが、昭和9年の地図に綿花、綿糸、染料、花ござ、真田紐、除虫菊が記入されている理由になっている。最近の干拓地ではなく、戦国から江戸時代にかけての非常に大掛かりなもので、500年の歴史がある。
    それどころではない。実は、岡山県の人口の大半を占める県南地の平野部分のほとんど(現在の岡山市・倉敷市の大部分)は、岡山県にある三本の三大一級河川の土砂でできたものなのである。古く弥生時代前期に遡れば、この平野部分は全部海だった。「吉備の穴海」とも言い、遠浅の海が続いていた。この500年こそは人口干拓だったが、3000年かけての長い干拓地だった、とも言える。だからこそ、2000年前に吉備国が栄えた。1000年以上かけて岡山平野という大きな穀倉地帯が現れたのである。源平合戦の時は、遠浅の海を巡って様々な悲劇が繰り広げられた(←すみません、省略します)。
    閑話休題。
    塩害に強い綿花から綿糸や染料へ産業が広がり、現在は学生服(シェア7割)、ジーンズ(厚手織物の技術の継承)に移りました。
    一方の流れとして、児島の由加神社お土産の真田紐から厚手織りの小倉織、足袋、ジーンズに変遷して行く。ここには書いてないが、厚手織物として帆布の生産も高い。それを使ったトートバッグは多くの商品が出回っている。ジーンズは児島だけでなく、離れた井原も生産地だ。
    また、倉敷から大原孫三郎が出現してクラボウを世界的な企業にしている。だから、大原美術館もできた。
    真田紐から麦わら帽子が発達して、現在もシェアは高い。祖母が長いこと、麦わら帽子の原料の組紐みたいな材料つくりを内職でやっていた(50年前)。除虫菊生産も塩害の関係だろう。近くの玉島に古くて大きな線香の工場があるのを知っている。つい最近まで存在していたけど、最近行っていないなぁ。
    塩害の関係で、イグサの生産量は高かった。その関係で現在も備前畳表は生産量質共に高い。

    ‥‥こう書くと、改めて3000年にわたる土地を活かした産業への、庶民の「工夫」が、我々の生活を作っているのだな、と感じた。

    • ハイジさん
      kuma0504さん
      待ってました‼︎
      岡山の歴史、深いですね〜
      弥生時代まで遡ってくださいました!
      干拓地による塩害から塩に強い産業が発達...
      kuma0504さん
      待ってました‼︎
      岡山の歴史、深いですね〜
      弥生時代まで遡ってくださいました!
      干拓地による塩害から塩に強い産業が発達…
      なるほど
      そしてクラボウさんに至るまで
      納得の筋道です
      こうやって理解すると人は忘れないものです
      非常に楽しくレビュー読ませていただきました♪
      2021/10/19
    • kuma0504さん
      ハイジさん、
      納得していただきホッとしています。
      こちらこそ有難うございます。
      というのは、
      リクエストしていただき、
      本来ならやってはいけ...
      ハイジさん、
      納得していただきホッとしています。
      こちらこそ有難うございます。
      というのは、
      リクエストしていただき、
      本来ならやってはいけない本文にも言及していないことを書けたからです。「吉備の穴海」を紹介できてよかった。
      ホントはあと10-20行欲しいところですが、
      流石にそれは自粛しました(^^;)。
      2021/10/20
  • 「地図帳の深読み」第一弾がなかなか面白かったのでこちらも手に取る
    こちらは「古い地図帳」とあり期待したのだが…

    一部抜粋してみる
    (日本のみにしたが、実際は世界のさまざまな地図帳について書かれている)


    ■日本の変化
    ・主婦の一日
     昭和25年 中学校社会科地図帳
     農家の主婦の生活がグラフ化
     田畑の仕事30%
     家事35%
     睡眠時間20%
    (これは4時間48分しかない 現代よりひどくない?)
     さらに家事の内訳まである
     とにかく家電の普及しない時代だ
     「生きるため」だけに生活していることがうかがえる

    ・新しい台所の生活
     整頓された台所の例
     「こんな感じに整理すると使いやすいよ!」という絵が載っている
     昭和なほのぼの感がイイ

    ・戦後の衝撃的なグラフとして、結核死亡者数の多さがあげられる

    ・人口や出生率の変化も興味深い


    ■川の長さの変化

    ◎石狩川…365kmから268kmへ
     河川改修により直線化されたため
    ◎阿武隈川…196kmから239kmへ
     源流部の認定が変更され、異なる支流が改めて計測されたため
    ◎利根川…変化なし
     大正時代に測ったきり、改訂されていないのでは

    他にも計測ミスやその補正もありそうだ
    個人的に川は気になることだらけなのだ


    ■地図帳に残る地域の名産品

    ※例)岡山県
    【昭和9年】
    花筵(はなむしろ・花ゴザのこと)、染料、錦糸、真田紐、除虫菊(蚊取り線香の原料らしい)

    【令和3年】
    ジーンズ、学生服、桃、ブドウ、クワイ、弁当?
    弁当マークがあったのだがさっぱりわからない
    弁当の名産品てなんだ?


    非常にバラエティに富んだ内容である
    国境など「堺目」の変化で歴史をを感じることができる
    地名の変化では時代背景を知ることができる
    地形の変化では自然環境だけではない理由を教えてもらえる

    このように多角的な視点から地図帳を深読みするのだが…
    やはりこういう形式の読み物は浅く広くでストーリー制もないため
    知識がないとぜんぜん楽しめない
    地図を見るのは楽しいのだが読みモノとしては「へー」で終わってしまうかなぁ
    個人的には第一弾の方が楽しめた
    (こちらにレビューが一件もなく、この内容をUPするのはいささか気が引けるが…)

    • kuma0504さん
      ハイジさん、おはようございます♪
      この本はハイジさんが登録した時から注目していて、今図書館で絶賛お取り寄せ中なのですが、なかなかやってきませ...
      ハイジさん、おはようございます♪
      この本はハイジさんが登録した時から注目していて、今図書館で絶賛お取り寄せ中なのですが、なかなかやってきません。岡山県の記事があるんですですね。楽しみです。岡山県の名物、だいたいわかるんですが、弁当は私もわかりません。楽しみです。
      2021/09/23
    • ハイジさん
      コメントありがとうございます!
      そーでしたそーでした!
      岡山のことはkuma0504さんにお聞きすれば良いのでした(笑)
      この「弁当」マーク...
      コメントありがとうございます!
      そーでしたそーでした!
      岡山のことはkuma0504さんにお聞きすれば良いのでした(笑)
      この「弁当」マークに関して、本書では何も触れられておらず、非常に気になっております。
      ぜひご覧いただき、ご教示くださいませ!
      真田紐も岡山の名産だったのですね。
      こちらも驚きでした。
      残念ながら私はそこまで楽しめませんでしたが、
      kuma0504さんにはお楽しみいただける気がします!
      レビュー楽しみにしております(^ ^)
      2021/09/23
  •  今尾恵介さんが書かれた、帝国書院の地図本。
     前作『地図帳の深読み』に引き続き、帝国書院が今まで発行してきた地図をもとに地理的なことからわかる国土、交通、産業などについてかかれています。
     今作は特に、100年の間に帝国書院で出版してきた地図帳からわかる歴史を、詳しく書かれています。

     パナマ運河ができていく過程など、世界的な開発を地図から読み取る。
     時代で変わる国境を地図から見る。時の政権に翻弄されて名前が変わっていく都市を見る。

     明治以降、日本の国境が、樺太、千島列島、台湾、南方の様々な島、朝鮮半島など拡大していくのを地図でも描かれているのを複雑な思いで読みました。

     場所は同じはずなのに、その時々でどんどん変わっていくのだなあ。
     また、それぞれの時代で地図として描かれているのだなあと感じました。

     それから、帝国書院の地図、時代によって描き方は変わっているのだけど、どの時代もきれいです。好きですねぇ。

  • 端的に、ガチで興味深かった。

    前作は文章と図の対応が非常に読みづらかったが、大きく改善されている。
    主な地図や表が数枚に対して、説明の文章が3−4ページ。
    分量も構成も丁度いい。

    現代とは違い、領土を血で奪い合う歴史がよく分かる。

    ・満洲
    ・パナマ運河
    ・戦前日本の東西南北端
    ・台湾統治とサトウキビ、鉄道
    ・日本産レアメタル
    ・沖縄、奄美、小笠原の無い日本
    ・樺太
    ・磐梯山
    ・新高山
    ・日本人移民

  • もっと大きい図であったなら、と思ってしまいます。
    戦争を通じたネタが多かったですね。

  • 大好きな帝国書院の地図帳。ながめているだけでも嬉しい。しかしながら、話の展開が飛び過ぎてしまい読み辛かった。

  • 地図帳の変遷に関する考察本です。結局、地図帳の領海線って領地の変遷なので、歴史そのものだったりする。

  • 前作に続き、地図帳から読み取れることを歴史と交えて解説し、地図の面白さを伝えようとする本。今作は古い地図帳を多く引用し、当時の世相や、地名・地形・境界の変化などに焦点を当てている。「深読み」というタイトルに相応しく、どの項目も詳細に分析されていて、内容の濃い一冊となっている。

    本書を通じて学んだ点は次のとおり。
    - 1923年の関東大震災を機で市街地の多くが焼失したのを機に、東京では復興と共に防火対策が行われた。昭和通りや隅田公園、浜町公園を設けたり、街路樹にイチョウが選ばれたのがその例である。
    - 三角州には様々な種類があり、円弧状、カスプ状、鳥趾状の3つが代表的。円弧状は太田川など日本でも多く見られたが、埋立地として工業地帯化され、あまり原形をとどめていない。カスプ状はテヴェレ川、鳥趾状はミシシッピ川が有名。

  • 戦争の歴史が地図に色濃く反映されていた。

  •  100年前の古い地図からいろいろなことを読み解く本。全編カラーで古い地図もたくさん載っている。4ページごとくらいに話題が次々と変わり、地図を楽しむことができる。ただ挿入されている地図はどうしても部分的な小さなものであり、せっかくの地図の本なのにそこが不満。解説を半分にしてでも、あるいは話題を半分にしてでも、見開きで大きく古い地図をのせてくれたほうが、地図好きの私としては楽しめた気がする。

全17件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

今尾 恵介(いまお・けいすけ):1959年横浜市生まれ。地図研究家、エッセイスト、フリーライター。中学生の頃から国土地理院の地形図に親しみ、時刻表を愛読する。音楽出版社勤務を経てフリーライターとして独立、イラストマップ作成や地図・鉄道関連の著作に携わってきた。著書に『日本の地名おもしろ探訪記』『日本地図のたのしみ』『ふしぎ地名巡り』(以上ちくま文庫)、『地名の楽しみ』(ちくまプリマー新書)ほか著書多数。

「2023年 『ふらり珍地名の旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

今尾恵介の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
芦田 愛菜
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×