- Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
- / ISBN・EAN: 9784810702941
感想・レビュー・書評
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そう遠くない昔、昭和30年代ごろまで、沖縄では洗骨の習俗があった。死者の遺体を墓室内に数年放置しておき、遺体が腐敗しきった頃に墓を開けて骨を洗うのである。洗骨は、合理的な理由もなく、女性がやるべき仕事とされた。洗骨は、愛する家族の変わり果てた姿を至近距離で目の当たりにするという、過酷な精神的負担を女性たちに強いるものであった。
書名の「イナグヤナナバチ」は、女性は生まれながらに七つの罰を背負っている、というある種の諦念を表現した言葉である。月経や妊娠、出産の苦しみといった生理的な苦痛に加え、洗骨が「ナナバチ」の一つに数えられた。
洗骨を女に押し付けるな、と立ち上がった女性たちが大宜味村喜如嘉にいた。洗骨をやめて火葬にしようという運動が起こったのである。最初の運動は戦前に起こった。戦前に女性たちの願いが叶うことはなかったが、戦後、再び運動の熱が高まった。女性たちは大多数の男性の無関心や、老人たちの反対と闘い続けた。運動は功を奏し、喜如嘉に火葬場が建設されるに至った。
運動の成功が、知識層の進歩的な女性リーダーたちの、エネルギッシュな活躍によるところが大きいということは論をまたない。しかし、男尊女卑の風潮が現在よりも強かった時代、彼女たちはいかにして男性中心的な社会に影響を及ぼしていったのか?
その背景には、当時の沖縄の近代化=ヤマト化推進の風潮と、翼賛体制下だからこそ婦人会が発言力を増していたという歴史があった。
民俗学的興味と、フェミニズムに対する関心から本書を手に取ったが、著者の綿密な調査と優れた洞察により、沖縄の近代化=ヤマト化の歴史という、より大きな問題について多角的に考えさせられた。
文章は著者の思考を追体験するような書き方となっており、スリリングな読書を体験することができた。詳細をみるコメント0件をすべて表示