- Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
- / ISBN・EAN: 9784812297155
作品紹介・あらすじ
「生命」とは何か!?脳死による臓器移植・精子バンクからの人工授精・もはや動物だけではないクローン、医療技術の発達と伝統的倫理の衝突。オーストラリア出版協会賞受賞。欧米では「死んでいる」人が日本では「生きている」。
感想・レビュー・書評
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生まれることと死ぬこと、安楽死と殺人の線引き、「人間」とそう出ないものの境界はどこにあるのか、人格が備わったもの(人間以外の種にも当てはまる)を尊重するなら、現在世界の人間の振る舞いは適切だと言えるのか?
ピーターシンガーと聞くと、パーソン論、動物の権利、を連想する。それらを詳しく解説した内容。
なるほど、なるほど、の連続だった。
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思索
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倫理学者ピーター・シンガーが様々な症例から生と死にについての新しい枠組みを提唱する。
主に取り扱われるのは脳死、中絶、安楽死、動物と人間の命の重みについて。シンガーは「生命の神聖性」ではなく「生命の質」を重視するように訴える。
無脳症の赤ん坊よりチンパンジーの命の方が重いというような意見には一見強いアレルギーを覚えるかもしれない。だが、中絶が認められる一方で、何ヶ月だろうと産まれ出さえすれば命を絶ってはいけないという矛盾。意識が戻らないと分かっていても治療を続けなくてはいけないという現実。医療が進歩し、生と死の境が分からなくなった中で今の倫理が役に立たないこともまた事実だと思う。決して意識の戻らずただただ延命治療を受けている自分の子供の栄養チューブを止める為に、マグナムで病院を脅した男のエピソードが心に残る。
生と死について真剣に考えさせる一冊。 -
主にアメリカでの生命倫理に関する具体例がたくさん載っている。ベイビーMとかベイビー・ドウとか有名例もある。脳死、中絶、安楽死、出生前診断、臓器移植、動物実験、クローンなどの具体例、判例がたくさん載っていて読み応えがある。いちばん最後に新しい倫理として、人命の価値は平等ではない、生命の永続が最善ではない、人間を動物の頂点に置くのはおかしいといったようなことが載っており、とても考えさせられる。しかし、障がい児の中絶などの行動(あるいはその行動を積極的に止めないこと)によって私たちは命の価値をすでに判断しているとも思われる。人はどこから人なのだろうか、動物の命を奪ってまで私たちが生きる権利はあるのだろうか、いよいよ疑問は増すばかりである。私たちがふつうに暮らしているだけで、死にゆく人を見過ごしていること、例えばアフリカなどで死にゆく人がいることを知っているのに何もしないことをも筆者は問題視している。「私」のしたいことと、私が望む世界観の間にずれがある場合、ともかく行動しなければ世界は好転しないことはわかっているが、行動したところで好転するとは限らないし、というよりも何も変わらないということをほぼ確信しているために私はあまり行動していないし、多くの人は行動しないのかもと思うのだけれども、どうなんだろう。リアルに効果のある行動とはいったいなんなのだろう。自己満足で終わらないのだろうか。いやむしろ自己満足がすべてなのか。あとがきによると、筆者は思想と行動が結びついているらしいので、もう少しこの人の本を読んでみたい。