- Amazon.co.jp ・本 (600ページ)
- / ISBN・EAN: 9784815805944
作品紹介・あらすじ
飛躍的に増大した、イスラーム世界に関する情報の中から、最も信頼できる知識を立体的に案内。誰でもアクセスでき、さらに研究の先端へと進んでいける待望の一冊。通読してイスラーム世界をめぐる知の状況を把握する、という使い方だけではなく、「マニュアルとして」引いたり、必要箇所だけを参照する、という使い勝手がよいように編集されている。
感想・レビュー・書評
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9位
評論家の斎藤美奈子に、カタログ文化を礼賛する
楽しいエッセイがあるのを御存知ですか?
あの死ぬほど分厚い書評集『本の本』の
364ページ、「カタログ好きの百科礼賛」という
チャームな短文で、その魅力を熱く語っています。
「そもそもカタログ文化は、人間の根本的な欲求に根ざしているような気がするのである。(略)知識欲? そんな立派なものじゃありませんね。よくできた事典には(そして、よくできた商品カタログにも)「世界を丸ごと手に入れる」快感があるのですよ」
世界を手に入れる快感。わかるわかる!
さて、私はイスラームのことなんてなにも知らない。
「通はイスラムじゃなくイスラームと言うんだな」
くらいの認識のみ。
推理小説ファンがミステリーを
ミステリと呼ぶようなものでしょうか……
なんていうと怒られそう。
それでも私がこの本を面白く眺められたのは
(面白く読めたのは、ではないのが悲しい)
ミーナのいう「世界を丸ごと手に入れる」
快感があるからです。
そもそもこの本は研究家の卵のために
「今の研究はここまで進んでるよ」
と教えるための本なので、
なんだか身分を偽って潜入した
スパイのような心境になり、ちょっとドキドキ。
「この時代に関する研究書としては、まずMadelung[1997]が比較的新しく、内容的に非常に充実している。この時代を専門とするHindsには[1972]などの論文がある」
なんて書かれていても、
MadelungさんやHindsさんの本を読むわけではなく
(第一外国語なので読めない)
世の中には自分の知らない本があるんだなあ、
と感慨にふけるだけです。
ミシェル・ペン「日本の漫画とイスラム教の表現」
という論文は読んでみたいけど、
掲載されているのが
『昭和薬科大学紀要』34号ですからねえ。
ちょっと難しいかも。
この本を書評集と分類しても、
かなり強引だけど、
あながち間違いではないと思います。
もう一つ、私がこの本を読んで思ったのが、
日本の翻訳事情がかなりお粗末だ、
ということです。
イスラーム以前のアラブの信仰についての
古典的名著だというJ.Wellhausen“Reste Arabischen Heidentums”
は(ドイツ語かな?)1897年刊行だというのに、
未だに邦訳がない! 19世紀の本でしょ?
なんでとっとと翻訳しないんだろう。
文学研究の分野でもそう。
一人の研究家が複数の言語に
習熟するのは難しいらしく
「アラビア語・ペルシア語・トルコ語・ウルドゥー語等の文献を駆使してイスラーム世界の文学全体を広く眺望できたのは、先年物故したアンネマリー・シンメル(Schimmel)ぐらいであったろう」
とあるけど、このシンメルさんも邦訳がない。
「いずれも中東諸語の文学作品を自在に引用し、
広大な視野を描いてくれる」らしいので、
気になるんですけどね。
個人では限界があるにしても、
学会で翻訳チームかなにか作って
取り組んでもらえないかなあ。
私みたいな「なんちゃって読者」が言うのも
厚かましい話ですが、
日本が翻訳大国だというのは嘘だと思う。
無知なくせに偉そうなこと言ってごめんなさい、と
とりあえず謝っておくけれど、
でも、本当にそう思います。