マネー戦争としての第二次世界大戦

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  • ビジネス社
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784828418322

作品紹介・あらすじ

新興国ドイツ・日本が挑んだ世界金融支配体制とはなにか。戦前の日本が震撼した「在米資産凍結」という名の経済封鎖が戦争を起こすきっかけだった!

感想・レビュー・書評

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  • 面白かった。
    ヒトラーは単なる超A級戦犯のように思っていた。
    歴史は教科書で教わった事からの印象が強かったが、いろいろな側面があるのは当然の事で、この本のような見方で歴史を知ることは世の中の本質を掴むのに不可欠と思う。

  • 第一次世界大戦の終結から第二次世界大戦に至る過程(日本では主に満州事変前後から太平洋戦争に至る過程)を、戦争に関係した各国及び世界の経済にフォーカスして読み解く。
    経済にフォーカスすることで、これまで語り尽くされた歴史から距離を置き、第二次世界大戦に対する反省の内容をも問い直す。

  • 2015.12.08 美達大和氏のブログより

  • 歴史というものは勝者が作るもので、敗者が行ったことは小さく扱われるか無視される、というのが歴史に触れていると分かります。一旦「悪者」と烙印を押されてしまうと、当分の間覆ることがないということも、半世紀も過ごしていると実体験を通して理解できるようになりました。

    日本史においても極悪人は何人もいましたが、これは世界史においてもです。この本の著者である武田氏が書かれた、ヒトラーを題材にした本で、彼は当時のドイツ国民に正統な手続きで選ばれたこと、ドイツ経済(失業対策・ハイパーインフレ)を立て直した素晴らしい実績があることを初めて知りました。当然、ユダヤ人のみを虐殺したことは悪であると、していますが、その本では、なぜユダヤ人が標的になったのか、ユダヤ人は欧州でどのような扱いを受けていたのかを知ったのは、その時に初めて知りました。

    この本は同じ武田氏による本ですが、第二次世界大戦の究極の原因は「やはりお金=経済」であったことを解説したものです。歴史の授業においては、イデオロギーの対立とか、民族意識の自立等という、難しいことを習った記憶がかすかにありますが、この本を読んで、すっとお腹に落ちた気がしました。やはり、歴史を作るのは、事件を起こすのは人間であり、いつの時代もあまり変わらないのだなと思いました。歴史は繰り返すですね。

    以下は気になったポイントです。

    ・太平洋戦争前の日米交渉というと、石油の禁輸ばかりがクローズアップされるが、むしろ「在米資産凍結」のほうが日本にはダメージが大きかった(p3)

    ・1919年上半期だけで、ドイツは10億金マルク以上を食料品の輸入に充てたが、連合国側は粗悪な食料しか提供しなかった、そして講和条約としてベルサイユ条約が締結された。これこそがドイツを絶望に叩き落し、ナチスが生じた要因である(p15)

    ・ドイツは植民地をすべて取り上げられ、人口の10%失い、領土の13.5%、農耕地15%、鉄鉱石の鉱床75%を失った、この結果、鉄鋼生産量は戦前の37.5%となった(p15)

    ・ドイツとしては賠償額を、戦争被害の損害賠償にとどめたかったが、英仏の反対にあい、結局、戦費の補償にまで拡大された。1918.11に連合国とドイツの間で交わされた正式な休戦条約でもドイツが負担するのは、米国ウィルソン大統領の提示である損害の賠償になっていた。(p19、20)

    ・1930年代は、ドイツ歳入の半分が賠償金に充てられた、実際に第一次世界大戦の賠償金の利子を21世紀になるまで払い続けた、(これは米国向けであり、他国への債務は2020年まで残っている)(p21)

    ・ウィルソン米大統領は、敗戦国から略奪してはならない、と語ったが、だからといって英仏の負担を減らしてくれなかった、その為に英仏は返済金をどこかから調達しなければならなかった、それがドイツである(p23)

    ・賠償金の支払いは、毎年の定期払い以外に、ドイルの輸出製品に26%の輸出税をかけて、連合国が受け取るものであった。これはドイツ製品の国際競争力を大きく損なった(p24)

    ・帝国銀行が所有していた、128億マルクの金はフランス軍によって略奪、保管されていた60億マルクの未完成紙幣もフランス警察により奪われ、これを完成紙幣にして流通させた。このことが直後にドイツを襲うハイパーインフレの要因の一つとなった、フランス軍によるルール炭田占領は、サボタージュによる採掘ストップ、フランス軍の占領費がかさんで得るものがなかった(p29)

    ・ハイパーインフレ下で大儲けしたのは、有力な外貨(ドル、ポンド)を持っていたユダヤ実業家であり、ドイツの資産をただのような値段で買い取ることができた。これがユダヤ人迫害の一つの要因となった(p31)

    ・ヒトラーは1914年勃発の第一次世界大戦では、オーストリア国籍のまま、ドイツ帝国志願兵となった、オーストリアからの召集令状を蹴っている。優秀な伝令兵であり、1918年には、一級鉄十字章を授与された、志願兵がこの賞を授与されるのは稀であった(p33)

    ・ドーズ案(1924年)により、ドイツは決められた賠償金を自国マルクで払えることになった、これはマルク価値が下落しないように調整するのが連合国の義務とされた(p38)

    ・1929年の会議において、新しい賠償方法として「ヤング案」が決定された、賠償金額が大幅に減額(当初の3分の1)となったが、トランスファー保護規定が外され、つまり相手国通貨で払うことになった、これ以降、事実上未払いとなった(p39、43)

    ・アメリカはドイツに投資をし、ドイツはそれで英仏に賠償金を払い、英仏はその賠償金でアメリカに戦費の支払いをする循環があった。なのでドイツが破綻すると、この循環が途切れることになる、アメリカの戦債(合計70億ドル、GNPの7%)が不良債権化する(p41)

    ・ベルサイユ条約では陸軍は10万人と制限されたが、ドイツでは全員に下士官以上の教育を行った、下士官は10-20人の兵士を統率する。末端の兵士は1-2年で育成できるので、下士官を10万人持っていれば、100万の軍隊をいつでも持てる(p48)

    ・1932年当時、ナチスの党員は80万人しかいなかったが、大統領選挙では1350万票集めた、国民によってヒトラーは支持された(p50)

    ・当時の共産主義は、武力暴力による革命を目指していたので、破壊活動や誘拐殺人は日常茶飯時であった、ドイツの財界、知識人、一般市民にとって共産主義は恐怖の対象であった(p54)

    ・ナチスは最初のころ、アウトバーン等の公共事業や国民の福祉増進に使っていた、世界で最も充実した福利厚生制度を持っていた、ヒトラー前政権と比較して、かつてない規模(6倍以上)で行った(p59、61)

    ・英仏が宣戦布告する前までのナチスの領土拡張のほとんどは、旧ドイツ帝国の国土回復か、ドイツ語圏地域の併合であった。宣戦布告を受けた後は、資源確保のためにあちこち侵攻した(p67)

    ・1939年、ノーベル平和賞にヒトラーがノミネートされた、1938年にヒトラーは欧州に平和をもたらしたとして世界中から称賛されていたから(p68)

    ・ポーランドとは、旧ドイツ帝国の領土を削減、それにロシアの旧領土を加えて建設された国である、ポーランドが海につながる土地を確保するために、ドイツはポーランド回廊という地域を割譲させられたので、ドイツは東プロイセン地域と遮断された(p75)

    ・ドイツはポーランド回廊の割譲を求めたが、それを拒否、英仏の支援を仰いだので、1939年9月にポーランドへ侵攻、協定を結んでいた英仏はドイツに対して宣戦布告した(p75)

    ・自軍の武器をほどんど国産で賄っていたのは、日本以外には、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどのごく一部の国である(p80)

    ・イギリスのインドでの綿製品を売ることで、イギリス経済は支えられていたが、その分野に日本が対決を挑んだ、さらには中国においても、上海・青島に最新鋭の紡績工場を建設して、イギリス製品を駆逐していた(p83、85)

    ・1929年に100円約49ドルだったのが、1933年には25-23ドルと円安となった(p86)

    ・明治維新で新しい技術が導入されたため、多くの失業があったが、職にあぶれた鉄砲鍛冶の職人は、自転車製造(フレームと鉄砲は共通)に目をつけた(p90)

    ・当時の英連邦は、イギリス・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・アイルランド・インド・ニューファウンドランド・南アフリカ・南ローデシア・ビルマ・マレー半島・シンガポール・香港・エジプトで、世界の4分の1を占めていた、この地域が自由貿易を拒絶した。これに日本は大きな影響を受けた(p93)

    ・日本は国際経済から孤立しないために、あえて、国際連盟を脱退した。国際連盟には、違反国に対して経済制裁をできるという条文がある。これを避けるために先手を打つ形で脱退した。連盟内にある諸団体(ILOなど)にはとどまっていた、正式脱退までは分担金も払い続けていた(p99)

    ・戦前の日本には、都市部の多くに貧民街があった、東京には、深川・浅草・芝・小石川・下谷・京橋・麻布・牛込・本郷・四谷・神田・赤坂など、絶望的な貧富の格差により社会の不満がたまり、それを解消してくれる存在として軍部が台頭した(134)

    ・終戦時、三井・三菱・住友・安田の4大財閥のみで、全国会社払込資本金の49.7%を占めていた、資産額はもっと高い比率であった(p134)

    ・軍人(武官)と、文官(軍人以外の官僚)では、大佐を除いて、文官の方が給料(月額報酬)は高い’(p141)

    ・アメリカは、ルールを破り(貿易黒字により金保有量が増加→通貨量が増える→インフレとなり輸出品割高→国際競争力落ちて貿易黒字減少)金が流入しているにも拘わらず、通貨量を増やさなかった(p145)

    ・欧州新経済秩序により、ドイツマルクが欧州中で使われるようになると、ドイツ工業製品が欧州市場を独占するだろう、世界の金の4割を持っていたアメリカは、金本位だったからこそ世界一の繁栄を謳歌できていた(p159)

    ・日本は金融資産を凍結されたために、中立国から間接的にアメリカの物品を輸入することもできなくなった(p167)

    ・大正時代に竣工した戦艦「金剛」「伊勢」「榛名」は石炭、重油の混焼ボイラーが取り付けられていたが、昭和に入ってからは、ほとんどの主力艦は重油専用、大和や武蔵(p183)

    ・昭和2年(1927)には、フォードに続いてGMも日本上陸を果たし、ノックダウン方式による大量生産を開始、この2社で日本の自動車市場は占められた(p185)

    ・自動車製造業法で許可を受けたのは、トヨタ、日産、ディーゼル自動車(いすず)の3つであり、戦時中の軍用車両の製造をほぼ独占した(p186)

    ・ナチスの人工石油は、ドイツが第二次世界大戦中に使用した航空機の燃料のほとんどをまかなった、オクタン価96で優秀(現在の日本のハイオク基準をクリアー)であったが、最後まで採算はとれなかった(p197)

    ・第二次世界大戦は、自由主義対全体主義の戦いではなく、帝国主義崩壊の戦いであった(p216)

    2017年7月22日作成

  • YBC

  • 若干とんでも本の芳香がするものの読み物としては悪くない。今まで知らなかった事実を知ることができた。まずは、第二次世界大戦に至るドイツの歩み。国内には「日本は石油を求めてアメリカと開戦した」故にナチスとは違うとする主張があるが、著者に言わせればドイツの参戦理由も同じく経済制裁であり英仏との経済戦争である。ちなみに、第一次世界大戦のドイツの賠償金の最後の支払いは2010年であり、かつまだ若干未払いが残っている(WIKIで確認)。ヒトラーのズデーテン・ポーランド侵攻は、第一次大戦で(不条理に)失った自国領土の回復運動。(ポーランド回廊だけにしときゃ良かったのに)だいたい、1939年にはヒトラーはノーベル平和賞にノミネートされている。もし彼が、ホロコーストに手を染めなければ時代の評価も変わっていたのかもしれない。

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著者プロフィール

1967年生まれ、福岡県出身。出版社勤務などを経て、フリーライターとなる。歴史の秘密、経済の裏側を主なテーマとして執筆している。主な著書に『ナチスの発明』『戦前の日本』『大日本帝国の真実』『大日本帝国の発明』『福沢諭吉が見た150年前の世界』(ともに彩図社)、『ヒトラーの経済政策』『大日本帝国の経済戦略』(ともに祥伝社)等がある。

「2022年 『吉田松陰に学ぶ最強のリーダーシップ論【超訳】留魂録』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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