武器としてのエネルギー地政学

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784828424705

作品紹介・あらすじ

2050年の資源覇権と私たちの生活

◆ウクライナ戦争に学ぶ「武器としての戦略資源」
◆なぜロシアはシェールガス埋蔵量世界一なのに生産ゼロなのか?
◆「シェール独り勝ち国」アメリカの思惑
◆中国はエネルギー不足に立ち向かえるのか?
◆「資源の宝庫」アフリカの強みと弱み
◆2050年「カーボンニュートラル」の理想と幻想
◆「資源ゼロ国家」日本の選択

感想・レビュー・書評

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  • 話題の本:『武器としてのエネルギー地政学』 岩瀬昇著 ビジネス社 1760円 | 週刊エコノミスト Online
    https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20230215/se1/00m/020/002000d

    『武器としてのエネルギー地政学』エネルギーの超基本を徹底解説 - HONZ
    https://honz.jp/articles/-/53019

    武器としてのエネルギー地政学|株式会社ビジネス社
    https://www.business-sha.co.jp/books/category01/item_a001034

  • 意外に知られてないクリーンエネルギの本質がわかる。

  • 第1章 「プーチンの戦争」で激変したエネルギー地政学/第2章 「環境先進国」ヨーロッパの理想と限界/第3章 「世界最大の産油国」アメリカの次なる野望/第4章 「エネルギー百年の計」を着実に進めるしたたかな中国/第5章 脱石油を目指す「中東の雄」サウジアラビアの復権/第6章 世界の未来を変える「グリーン政策」の光と影/第7章 「持たざる国」日本の進むべき道

  • p46 ロシア人というのは、相手はいつも自分を騙そうとしている、と思っている人たちです。だから、それならこちらから先にだましてやろうとする


    p67 熱量単位で考えると、ガス価格を6倍するとおおよその原油価格になる

    p93 日本が輸入しているLNGは、マイナス162度以下に冷却することにより生ガスの容量を600分の1にしたものだ。
    LNGタンクといえども外気の影響により毎日0.1-0.,2%蒸発してしまう。一ヶ月で3-6%

    p93 アメリカの石油会社は、不必要な探鉱作業への資本投資を抑えている。確認埋蔵量は10年分もあればいい。だからアメリカの可採年数は、いつもの年も10年なのである

    p109 ベネズエラ リットル2円
    イギリス、ノルウェー 300円 香港 400円

    p114サウジはMBSが右向けと行ったら右を向く
    ロシアは、プーチンが右向けといったら、半分右を向く
    アメリカは大統領が右向けといったら、うるさい、それはオレたちがきめることだと半髪する国

    p215 エネルギー革命は次の5回 火の利用、濃厚の開始、蒸気機関の発明、電気の利用拡大、化石燃料からの肥料製造

    p222 大正時代の地理学者 志賀重昂 油の供給の豊富な国家は光り栄え、油の無き国は自然に消滅す。誰がいいはじめけん、油断大敵と、大敵どころか油が断たれれば、国が断ゆるのである 油断断国

    p231 日本全国の新築の6割に太陽光パネルを設置したところで、まかなえる電力は発電量=消費量全体の約1%にすぎない

    p242 日本の電力は、発電設備容量が約2億6000万KWで、発電力量は年間約1兆KWhだ

    日本の地熱発電を最大限に活用できたとしても日本全体の発電容量の9%弱

  • ピークオイル論からの探索で岩瀬氏の著書を知り、最新版と手にしてから、エネルギー業界で知るべき事が豊富かつ端的に述べられていて読むところが多く、入浴中に水没して買い直すなどもあり、やっと読了。
    氏の解説とまとめは本当にその通りだと膝を打つが、はて、賢人が集まってエネ庁と政治家は何故この主張を実行に移せないままなのだろう、と訝る。民間からのプレッシャーが足りていないのか、国民の無知が政治家を放免しているからか。エネルギー安全保障と脱炭素の両立に対する複合災害とも言える人災。これを変えるには教育だろうか、外圧だろうか、と思案して自らの行動に反映し、業界の一人として課題解決への不作為に歯止めをかけていこう。

  • ガスと石油の違いや、日本における再エネの立ち位置など、勉強になりました。

  • 著者の本を読むのは久しぶりが気がする。
    とある書評で著者を「エネルギー界の池上彰」と評していた記憶があるが、今回もわかりやすさは健在だった。
    言葉の定義から丁寧な解説、原典をひもといた分析は素人にも理解が進む。
    原油をはじめエネルギーは日常にありふれて文字通りのコモディティであることと、戦略物質であることは紙一重。エネルギー問題に対して、ナイーブな議論や表面だけの取り繕いがどれほど危険なことか。自分の知識・意識が追いついていないことがよくわかる。

  • 商社で長く石油のトレードに関わってきた筆者が述べる通り、石油は平常時はコモディティだが、一朝事が起こると戦略物資に変わる。石油以外のエネルギー資源も、その動きはそれぞれ異なるものの、単なる商品の枠を超えた存在であることは同様だろう。

    さらに、現在の世界は引き続き高まるエネルギー需要と脱炭素化という二つの長期的な課題にも直面している。筆者は“More Energy Less Carbon”と表現しているこの課題は、エネルギー問題を考える時に必ず外さずに考えなければならない。

    この本では、このような認識をもとに、ヨーロッパ、アメリカ、中国、中東などの世界のエネルギー市場における主要なプレーヤーの現状と戦略、そして「持たざる国」である日本がどのようにこの状況に対峙していくべきかをまとめている。


    ヨーロッパ諸国にとって、エネルギー供給の問題はロシアのウクライナ侵攻の前からすでに大きな課題であった。特に天然ガスの供給は大きな課題であり、2021年にもヨーロッパではガス代、電気代の高騰が起こっている。その背景には、ヨーロッパが経済のグリーン化を志向して天然ガスの長期契約を減らし、スポットによる取引に軸足を移していったことがあるという。天然ガスは原油とは異なり、市場で取引される商品にはまだなり切れていない。そのため、スポット市場の変動は非常に大きく、供給量も少ない。このことによる価格変動が、ヨーロッパ経済を直面しているのだ。

    さらにロシアのウクライナ侵攻を受けてノルドストリームをエネルギー供給の長期戦略から外したヨーロッパであるが、現在は原子力を含めたエネルギー調達先の「多様化」で中期的な供給の安定を何とか確保しながら、再生可能エネルギーの導入を最大限早めるべく取り組みを進めているという状態である。この道は非常に狭く、”More Energy Less Carbon”のギャップに最も直面している地域であるとも言えるだろう。


    一方のアメリカは、ヨーロッパとは全く異なる環境に直面している。アメリカはシェール革命によって世界最大の産油国に躍り出たため、エネルギー安全保障の面では優位性があると言える。ただし、アメリカは市場主義の最も徹底した国であり、政府が増産を呼び掛けたからと言って、民間企業がそれに従うとは限らない。

    アメリカも、政権によって方向性のブレはありながらも、長期的には脱化石燃料を進めていく方向性にあることは間違いない。そのような中で、長期の需要を確保しなければ採算が取れないエネルギー開発には、ますます民間の投資が向かなくなってきている。石油は「欠乏の時代」から「余剰の時代」に突入したと言われており、「持てる国」であるアメリカにおいても、供給サイドの新規開発に対する投資がどのように推移するかについては不確実性が高くなってきているとのことである。


    もう一つの「持てる国」である中国でも、エネルギーの長期戦略は非常に複雑な要因を孕んでいる。当面は引き続き経済が拡大すると考えられている中国は、アメリカ以上に”More Energy“のプレッシャーが強い。そのため、中国のエネルギー政策の最大の課題は、この将来需要をどのように予測し、必要となる供給を確保するかということにある。

    このために中国が取り組んでいるのが、天然ガス輸入の拡大である。特に、トルクメニスタンをはじめとする中央アジア諸国との関係の強化に、筆者は注目している。天然ガスは気体であるため輸送、貯蔵のためのインフラが巨大であり、長期的に取引を継続する前提でなければ投資はできない。このような点も鑑みると、中国の今後のエネルギー計画は、長期的なアジアの地政学に大きな影響を与えることになるだろう。


    本書で取り上げられる地域の中では最後の1つである中東は、石油の埋蔵量や採掘コストの面では、圧倒的に優位性を持つ地域である。中でもサウジアラビアがその産油量、国家の規模の面でも「中東の雄」である。しかし、長く指摘をされているように、石油収入に依存した国家経営は、石油の市場動向に国家財政が大きく左右されるというだけではなく、産業、教育システム、政治体制に至るまで、サウジアラビアの国家の仕組みを大きく停滞させている。石油産業以外の未来が描けていない現状の国家の現状は、中東諸国の大きな課題であると言えるだろう。

    筆者は、石油の「余剰の時代」においても、サウジアラビアの石油プロジェクトは、生産性の高さ、需要地の近さ、排出炭素量の少なさなど、様々な点で優位性があると考えている。さらに、再生可能エネルギーの拡大が可能な国土や、CCSの候補地として有望な採掘済みの油田、ガス田といった強みも持っている。このような強みを生かしながら徐々に再生エネルギー大国へと移行するとともに、政治の民主化を進めていくことが、サウジアラビアの生き残っていく道であろうと述べている。


    これらが世界のエネルギー市場を左右する主要なプレーヤーの現状であるが、翻って「持たざる国」である日本は、この環境の中でどのように長期的な戦略を立てて行けばよいのか。筆者はまず、日本のエネルギー基本計画はあまりに視座が長すぎるという課題を指摘している。エネルギー基本計画の対象期間は概ね10年程度となっているが、中国などは5年ごとに計画を立てており、さらにその都度具体的に実施する項目が定められ、その結果が5年後にはレビューされる。一方の日本の基本計画は、10年後に向けた定性的な計画が中心となっており、実効性の面で課題がある。

    また、一次エネルギー全体のエネルギーミックスの将来像が示されておらず、電力の脱炭素化のみにスポットが当てられているかのような計画になっている点も、課題であると述べている。エネルギーには航空輸送や工業生産など、電力では代替できないエネルギーも多くあり、電力のみでの脱炭素化では、”Less Carbon”の課題への現実的な道筋は見えてこない。

    筆者は、日本のエネルギー戦略において大切なこととして、まず日本は持たざる国であるということ、エネルギーの途絶は国家の危機に直結するという危機認識を、国民に丁寧に説明していくことが必要であると考えている。

    その上で、持たざる国である日本にとって、国際貿易は国の生命線であるということを改めて認識し、供給源の多様化を含めた自由で開かれた国際貿易の推進を、外交政策の基本に据えるべきであるとしている。

    これらの取り組みに加えて、技術の革新も、日本がエネルギー安全保障を強化し、また世界に貢献できる大きな領域である。日本は「GDPエネルギー強度(同一のGDPを生みだすために必要なエネルギー量)」において世界でも突出しているが、これをさらに改善していくことで、持たざる国として生き延びていくための力をつけるべきである。

    最後に、国民レベルでこれらの取り組みを支えるためにも、エネルギー政策を「消費者が選択」し、「カーボンプライシングを通じ、最大の汚染者が最大の費用を負担する」という取り組みを通じて、「ネットゼロ戦略」とエネルギーの安全保障を、「わがこと」として捉えられるようにしていく必要があると述べている。

    国民が当事者として参加していない安全保障は、実効性が伴うものにはならない。特に、エネルギー安全保障においては、消費者として実際に多くの割合を占めるという意味で、全ての国民が直接的な当事者である。筆者は著書やブログなどの活動を通じて国民のエネルギーリテラシーを高めるための活動を続けているが、この本での筆者の主張も、それらの活動の延長線上にあると思う。

    ロシアのウクライナ侵攻を受けて、エネルギーの将来像について一気に不透明性が高まったかのような議論がなされている。しかし、この本ではそれらの直近の要因だけでなく、エネルギー供給自体の構造的な特性や、脱炭素の取り組みを踏まえた長期的な変化などを、分かりやすく解説してくれている。

    筆者も述べるように、当事者としてこの問題に対するリテラシーを高め、”More Energy Less Carbon”という人類全体が直面している長期的な課題をしっかりと認識しながら、現実に即した政策を選択していくという姿勢が求められているということを、改めて感じさせてくれる本だった。

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著者プロフィール

エネルギーアナリスト。1948年、埼玉県生まれ。埼玉県立浦和高等学校、東京大学法学部卒業。1971年、三井物産に入社後、2002年より三井石油開発に出向、2010年より常務執行役員、2012年より顧問、2014年6月に退任。三井物産に入社以来、香港、台湾、二度のロンドン、ニューヨーク、テヘラン、バンコクでの延べ21年間にわたる海外勤務を含め、一貫してエネルギー関連業務に従事。現在は、新興国・エネルギー関連の勉強会「金曜懇話会」の代表世話人として後進の育成、講演・執筆活動を続ける。
著書に『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?』『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』『原油暴落の謎を解く』(以上、文春新書)など。

「2022年 『武器としてのエネルギー地政学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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