- Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
- / ISBN・EAN: 9784831512550
作品紹介・あらすじ
「日本における哲学の父」か「軍国主義の創始者」か。政治思想史的関心から総体的に捉え直すことで、二つの側面の複雑な関係性を解明し、近代的道徳意識と近代的秩序意識の相剋を描き出す。
感想・レビュー・書評
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西周は、「哲学」をはじめ今日では普通に使われる訳語を次々と生み出した啓蒙的知識人としてのイメージがもたれている。しかし一方で「軍人勅論」を起草した軍国主義者という相反するイメージもある。この一見相反するイメージを、総体的に理解しようと試みるのが本書…というのが帯に書かれた触れ込みなのだけど、実際のところはちょっと違うような印象を持った。
というのも、本書の叙述は、維新期という新しい秩序を自覚的につくる必要に迫られた時期に、〈伝統思想に基づく法観念〉と、〈西洋法思想に基づく法観念〉のあいだを揺れ動く西周、というモチーフが主であるように読めたからである。相反するふたつのイメージを高次に昇華させるのではなく、相反する思想のあいだを揺れ動く西、というようなイメージで理解している、とでも言い換えられよう。
著者としては「軍事社会論をも考察の俎上に載せ、西の思想を総体として捉える」(p.11)と述べていて、確かに軍事社会論と平時社会論の関係性を「秩序」という共通性を見いだすことで統一しようとしている。しかし、むしろ眼目はそこではなく、「秩序」をめぐって伝統思想と西洋法思想のあいだを揺れ動きながら「秩序」形成に呻吟する西である。言い換えれば、「啓蒙主義」と「軍国主義」と対立的構図を入り口に、さらに別の対立的構図によって塗り替えつつ西の思想を描き出したといったほうが、正確なように思えたのである。
なお個別の内容でいえば、西の「人世三宝説」の「公益は私利の総数」という発想が、実は彼の「功利主義」の半分であって、『利学』という著作から、私利を調節する「君子の哲学」を述べた「もうひとつの功利主義」とでもいうべき存在があることを指摘した点は印象に残った。精緻なテクストの読み込みによる、新しい西周の思想の切り拓きという意味で、面白かった。
ところで、地味な本だと思っていたが、手元にあるのは第2刷。西周は存外人気があるのかもしれない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2010.03.07 朝日新聞で紹介されました。