ユラギ♂ノ♀カラダ 1 (芳文社コミックス)

著者 :
  • 芳文社
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本棚登録 : 9
感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784832203433

作品紹介・あらすじ

花 子太郎は月に一度、夢に現れるスロットで体つきや脳内が男女でまぜこぜになる特異体質の持ち主。この困った体質により半径5メートルで騒動が勃発! 奥森ボウイがお届けする新境地! セクシャリティが変わると人生変わる!? オトコとオンナの間で惑う、ココロとカラダのあべこべコメディ、待望の第1巻!

感想・レビュー・書評

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  • このふしぎなスロットは、ぜんぶ揃えば当たりなのかすらわからないのです。

    「TSF(後天的性転換を題材としたフィクション)」というジャンルにドンピシャでハマっていることは確かなんですが、結構ジャンル分けが難しい漫画と感じました。「LGBT」という性別にまつわるカテゴライズが提唱される一方、どう評価すべきか定まっていない2023年今現在の時代性を踏まえた物語でもありますね。

    ただ、ジャンルにフィクションが入っていることと、なによりエンタメであることは確かなので、過度に現実に寄りかかることを抜きにして楽しむのが吉でしょう。
    まず最初に私が思ったことなのですが、作品のメインギミックになっている主人公「花子太郎(はな・こたろう)」の性別シャッフル体質ではなく。
    それが生んだ社会の軋轢についての評価が公平に、なによりバランスよくなされていると感じたことです。

    と。プロローグと第一話を読めばわかりますが、主人公の体質とはこれつまり。
    「出生時の性?」を除く「体つきの性(内性器)」、「外性器」、「脳の性」という三つのパラメーターが月一の夢で見るスロット(主人公は「ゆらぎスロット」と命名)で男女どちらかに入れ替わるというものです。

    主人公の性自認自体は男性なんですが彼自身が混乱している通りにややこしいですね。
    ましてや何も知らない周囲が対応できるかといったらいささかじゃなく厳しいですね。
    スロットという直感的にわかりやすい脳内イメージがあろうと、体は女性なのに男性器があったりする(生理もある)など、主人公の口からどう説明すればいいのか困る組み合わせがあったりしますから。

    それでも事情を知ったうえで主人公と向き合ってくれる理解者がけっこう現れてくれるのでありがたいのですけれど。コミカルな味付けも加えてくださっているので、全体的には物語を読み進める上での適度なストレスに収まっていると思います。付属して性的なマイノリティーの視点も加わることで物語に奥行きを増します。

    なお、作者の「奥森ボウイ」氏のキャリアから期待できるアダルティなところは話にかなり絡みますし、濡れ場もきっちり描かれていますが、セクシュアリティについてかなり真摯に向き合っておられる印象です。
    お色気シーンに話の上で必然性があるほか、主人公に辛く当たる側にもきちんと言い分はあって(あからさまな犯罪者は除く)、きちんとフォローも入っている辺りも先述したバランス感覚といいましょうか。

    たとえば、見るからに危ないマッドサイエンティストが主人公のファンタジーすぎる体質に学術的なお墨付きを与えて、社会的な後ろ盾になってくれたりします。善悪ではくくれない何かを感じちゃいますね。

    あとは社会人主人公だからこそ、学生身分なら可視化されない赤裸々な問題が描ける面もあります。
    一方的に相手を論破して終わりということはなく職場の人間関係は続く。暴力に訴えかけることで好転する事態はない。などと、性別を抜きにした大人としての社会常識と正論が幅を効かせているのは悪くない。

    反面、若くて感情的になりやすくって、性別に振り回される青さも主人公の強みでしょうね。主人公の青さは物語をいい方向にも悪い方向にも転がす不確定のゆらぎ要素になっていて好ましいとも感じました。
    女性寄りの体になる機会が多いのにちょっと迂闊なんじゃないか? と思わないでもないですが、突発トラブルに巻き込まれる路線で単発の話はかなり作れそうなのでその辺の作劇の都合も含めればまぁ好きです。

    以上。
    物語がどう着地するのか気にさせる読者への訴求力自体はかなり高い作品だと思いました。
    クオリティは高い反面、不定期連載で続刊がいつ出るのかわからないことがネックだとしてもです。
    その分展開はスムーズに進んでいると感じたりもしましたが。

    なぜなら、あるがままを受け入れるには主人公の抱えるパラメータが複雑すぎる一方、同性愛だろうと異性愛だろうとパートナーの理解と信頼さえあれば大丈夫だろうと思わせる踏み込みは早くもされているのです。
    そのため話を締めくくろうと思えばすっきり終えられる作品であることも確かです。

    一方、性別にまつわる問題提起を連ねることで長期連載に発展させることも叶うのでしょうけれどね。
    一巻の時点にして提示された、物語の抱える潜在的ポテンシャル自体は高めといえます。

    話の大枠もかなり固まっています。具体的には周囲が主人公を男女どちらに認識しているかと現在の肉体的な性別が噛み合わない。そういった誤解されるシチュエーションが発生したことで、生まれるドラマです。
    たとえば、この巻においても近年認知度の高まっている性自認と性的嗜好の問題が、満員電車や銭湯など特定の場所と結びつく犯罪という形で続々とやってきました。特に銭湯は考えさせられる話でしたね。

    個々の話自体はピンチを作って逆転に至るまでのハラハラを味わうというもので一貫して王道ですが、他方では本筋らしきものも進行しているようなのでそちらのストーリーラインも見逃せません。
    そんなわけで二巻以降は、この巻でもチラ見せした謎の女と絡める形でゆらぎスロットの謎に踏み込んでいくようです。詳細は語りませんが、この場合はスロットに恵比寿さんがいることにはきっと意味があります。

    性別に普遍的な答えは出ないし、そもそも個人個人の問題に還元するしかないのかなあと思い馳せている私だったりしますが、たった今は言葉を濁すとして。代わりにありていな最大公約数的な意見で締めくくらせていただきますと、続刊に期待ということでどうかよろしくお願いいたします。

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