- Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
- / ISBN・EAN: 9784832967496
作品紹介・あらすじ
ヨーロッパ統合史は,いま最もスリリングな学問領域の一つである。公開された史料に基づく実証的研究が日進月歩の勢いで積み重ねられていく一方,それまでの歴史叙述を「脱神話化」していく作業も進められている。本書は、そうした実証的・先端的研究を担う若手の研究者を集め,ヨーロッパ統合史研究のあり方を根本的に問い直し,その地平をさらに広げることを企図するものである。
本書のタイトル『複数のヨーロッパ』は,単にヨーロッパ像の多様性を示すものではない。『複数のヨーロッパ』とは、従来の,しばしば単線的で閉鎖的であったヨーロッパ統合史研究をいったん解体し,時系列的・空間的・アプローチ的に開放された新しい統合史研究を打ち立てるために選び取られた,きわめて挑発的な視座である。本書は,時代的には戦間期から1970年代までの長い期間を扱い,空間的には域内/域外、国際/国内を往還しつつ,政治・社会・経済・文化など多様な次元において,無数のアクターとそれらが担う複数の「ヨーロッパ」像が相互作用しながら構築される過程として,ヨーロッパ統合の歴史を描き出す。このため本書には,国際政治,外交史,思想史,経済史,社会史など,多様な専門的バックグラウンドをもつ執筆者が戦略的に集められている。
本書の各部・各章は有機的に構成されている。第1部第1章は、既存のヨーロッパ統合史研究を批判的にレビューしつつ,統合史研究のフロンティアを設定している。それをふまえて第2部では,ヨーロッパが歴史的に抱えてきた「遺産」,すなわち戦争(第2章)や,キリスト教および保守主義(第3章),そして植民地(第4章)が,ヨーロッパ統合の歴史に影を落としていることを示す。そして第3部では,これまで見落とされがちだった経営者(第6章)や労組(第7章)のようなアクター,あるいは農業というセクター(第5章)を取り上げつつ,「正史」に回収されない複線的な統合の系譜を明らかにする。最後に第4部では,東方外交(第8章)やヨーロッパ政治協力(第9章)を題材に、最新の外交史料を駆使しながら,1960~70年代の多極化する世界のなかで模索された「ヨーロッパ」のかたちを浮き彫りにする。こうして,多国,多次元,多領域にまたがる豊かな歴史が立ちあらわれるだろう。
感想・レビュー・書評
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■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
【書籍】
https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1000764382
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「独仏和解」や「不戦共同体」「平和構築」など、まるで筋書き通りの美談であるかのように語られがちなヨーロッパ統合史。本書は取り上げられることの少ない統合の暗部にあえて焦点をあて、統合が数多の失敗と多様な思想・方策の果てに生まれたことを明らかにする。
各章のタイトルには
第二章「ヨーロッパの『暗い遺産』」
第三章「黒いヨーロッパ」
など、少々おどろおどろしい題が並ぶ。
しかし、その他にもアフリカ植民地、農業統合、経営者団体、日欧貿易摩擦、東方外交などとの関係を振り返ることで、単線的でない統合の過程を説明している。
マニアックな内容ではあるけれども、一読すればヨーロッパ統合史の理解に深みを持たせることができるはずだ。