TOOLS AND WEAPONS(ツール・アンド・ウェポン)誰がテクノロジーの暴走を止めるのか

  • プレジデント社
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  • Amazon.co.jp ・本 (468ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784833423830
#IT

感想・レビュー・書評

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  • マイクロソフトの主観カメラではなく、IT業界全体における出来事が(なかなかドラマチックに)描かれていて、その中でマイクロソフトはどのように巻き込まれて、どう動いたか、という目線で展開される。テーマは、プライバシー、サイバーセキュリティ、雇用問題、AI倫理、等々。法律や政治が関わるエピソードが多い。オバマやトランプに始まり、FBI、NSAなどの公的機関が頻繁に関与している辺り、企業の影響力の大きさを感じる。期待していたより、かなり面白かった。(Microsoft CEOサティアが企業文化改革について書いた『HIT REFRESH』より断然面白い)

    第1章 - 米国NSAによる国民監視(PRISM)を暴露したスノーデンに関するエピソード。
    第2章 - プライバシーの観点から、テロリストのメールは捜査機関に開示してよいのか?MSとして情報開示請求に対するプロセスを制定。
    第3章 - CLOUD法成立。
    第4章 - 北朝鮮によるWannaCryによる攻撃。そこで使われていたWindows XPの脆弱性をついた攻撃ツールははNSAによって開発されていた。ロシアによるNotPetyaも同じツールが使われていた。
    第5章 - ロシアの情報機関GRUによる、米国選挙への関与。MS DCU(Digital Crime Unit/犯罪対策部門)による対応。
    第6章 - ソーシャルメディアの影響。ロシア企業がソーシャルメディアを使ってハッキングを行い、米国大統領選挙でプロパガンダを流していた。
    第7章 - デジタル版ジュネーブ諸条約の制定に向けて。 (ジュネーブ諸条約は戦時における文民の保護などが規定されている)
    第8章 - GDPRとカルフォルニア州消費者プライバシー法
    第9章 - デジタルデバイド問題 (田舎にブロードバンドが行き渡っていない)
    第10章 - 人材。移民問題とIT教育問題と住宅問題 (シアトルを始め、テック企業が多い地域は地価が上がりすぎて、高給の人しか住めなくなる。Amazonの姿勢を批判する一面もあったり)
    第11章 - AIが暴走することよりも現実的に懸念すべきことが倫理問題。特に顔認識AIと人種差別の繋がり。
    第12章 - ICE (移民・関税執行局)へAI技術提供の是非。
    第13章 - 馬が自動車に置き換わったように、AIによって失われる職もあるだろうけど多くの人にとっては有益だし、新たな雇用も生まれる。
    第14章 - 米中の2台IT大国。中国ではうまくいったAIボットもアメリカ版は人種差別発言をしてしまった(悪意あるユーザーが覚えさせた)
    第15章 - 多くのデータを持っているほどAIは強化される。データは最も再生可能な資源だ。オープンソース同様オープンデータを推進する。トランプは2016年選挙でデータ共有方式を活用した。オープンデータイニシアティブにつながる。

  • マイクロソフト・プレジデントのブラッド・スミス氏が、マイクロソフトで起きた訴訟対応など、様々な出来事や取り組みについて書いた本。法律家である著者は、マイクロソフトにおいて競争法や知的財産法関連の訴訟に対応するとともに、情報公開や個人情報の提供など、米政府やメディアを相手に仕事をしてきた。マイクロソフトという大成功を収めた巨大企業の闘いの経緯が理解できた。本筋とは関係ない描写も多く、学術的ではない冗長な文章も散見される。読みやすいが、ページ数の割には内容は薄く感じた。

    「われわれは数々の問題を切り抜けながら、それなりに経験を積んで知恵もついた。自分たちの理想ばかり追いかけるのではなく、鏡に映った己の姿を見てまわりからどう見られているのか知るべきだと悟った」p16
    「新たなチャンスがもたらされると同時に、喫緊の課題に対処する緊急措置も必要になってくる」p16
    「国家が危機に見舞われているときは、個人の自由と国家の安全保障のどちらを取るか妥協を迫られるものなのだ」p31
    「現在においても人々の間では、エドワード・スノーデンが英雄か売国奴かをめぐって意見が分かれている。いずれにせよ、2014年初めごろには、確かなことが2つあった。1つは、スノーデンが世界を変えたことであり、もう1つは、彼がテクノロジー業界のあり方も変えてしまったことである」p44
    「(WannaCryというマルウエアによるサイバー攻撃)ウィンドウズのセキュリティホールを突くためのツールだという。NSAが敵のコンピュータに忍び込む目的で開発した可能性が高い。このツールがシャドー・ブローカーズという正体不明のハッカー集団によって盗まれ、ブラックマーケットで販売されていた」p98
    「街の人々は事の次第を包み隠さず話してくれたが、サイバー攻撃の被害者を直撃すると、自らのネットワークセキュリティに関してばつが悪いのか多くを語りたがらない人も少なくなかった。これでは問題が解決するどころか、迷宮入りになってしまう」p110
    「ハッカーの動きを分析しているうちに気づいたことがある。標的のメールアカウントに首尾よく侵入できたハッカーは、往々にして「パスワード」というキーワードを検索しているのだ。いろいろなサービスに登録したパスワードが増えてくると、忘備録代わりに「パスワード」というタイトルや本文のメールを自分あてに送っておくユーザーが多いらしく、これがハッカーに簡単に拾われているのである」p119
    「マイクロソフトでは、新たなセキュリティ機能の開発に年10億ドル以上投じ、セキュリティ専門家やエンジニア合わせて3500人以上の専任スタッフを動員している」
    p161
    「移民制度はアメリカのテクノロジー業界で長らく難しい課題となっている。ある面では移民制度はアメリカがテクノロジーで世界をリードするために欠かせないもの
    だ。世界の超一流の人材がアメリカの有力大学で研究に従事し、アメリカのハイテク拠点に定住しているからこそ情報技術の分野でアメリカがグローバルリーダーの座を獲得できているのである」p242
    「(アメリカのテクノロジー教育)何十億ドルもの費用をかけたものの、教育現場でITをめぐる最大の課題は、教室に置くコンピュータを増やすことではなかったのだ。ITを使いこなすスキルを教師に身に付けてもらうことが先だったのだ。そして、教師のスキル習得を阻む最大の壁がこの後に待ち構えているとは思ってもみな
    かった。実は教師自身、コンピュータサイエンスを学ぶ機会が欠如していたのである(教えることのできる教師がいない)」p250
    「コンピュータサイエンスの飛び級をかなえて高いスキルを身に付けた学生は、全米平均と比較して、男子が多く、白人が多く、裕福な家庭の出身者が多く、都市部出身者が多いことになる」p259
    「(ハッカーに倫理感はない)士官学校では倫理学を履修しなければ卒業させてもらえない。アメリカの多くの大学では、コンピュータサイエンス専攻の学生にそんな縛りはないのである」p289
    「ほとんどのテクノロジー企業は政府の介入に対して長年抵抗しているが、マイクロソフトは既にさんざん政府とは戦ったことがあり、いまではより積極的でバランス感覚のある姿勢で規制に向き合う方針を打ち出すようになった」p311
    「(中国)外国からの市場参入を制限し、国内事業者に利益をもたらすという、他国の政府には真似のできない方法を駆使している。その結果、グーグルやフェイスブックといった企業は、世界中に展開しているにもかかわらず、中国だけは空白地帯なのである」p347
    「(李開復(リー・カイフー))AIが生み出す世界秩序は、経済面では米中の圧勝の様相を呈し、両国の一握りの企業に富がかつてないほどに集中する状況が組み合わさる。他の国々はそのおこぼれにあずかるだけ。この見解の根拠はどこにあるのか。基本的にはデータの力だ」p368

  • 本書は、マイクロソフト社でコンプライアンスを担当するブラッド・スミス氏と、同社で広報を担当するキャロル・アン・ブラウン氏による本です。技術は中立であって、それを良い目的に使うか悪しき目的に使うかは人間しだいなのですが、AIやSNSなどのデジタル技術についても同様で、利器(ツール)になるか、武器(ウェポン)になるかは我々人間の取り組み次第だ、という話です。これだけなら当たり前ではあるのですが、本書ではマイクロソフト社が実際に体験した、あるいは巻き込まれた事案がかなり生々しく描かれているため、その点だけでも読む価値はあります。つまりマイクロソフトの作っている技術が「武器」として使われてしまった際の対処、あるいは「武器」として使われそうになった場面などが事例として紹介されています。

    本書で著者が繰り返し述べていますが、マイクロソフトはかつて独禁法訴訟など世界の政府とやりあった経験がある。そしてそこから学んだ教訓は、デジタル技術が「適切に」規制されるよう、テクノロジー企業も積極的に関与すべきだということです。本書では19世紀の鉄道を例に挙げていますが、もともと(米国)州政府が規制していた鉄道事業が全米に展開するにつれて、ついに連邦政府が規制主体として権限を持つに至った。ITについてはこれまで国ごとに規制が行われていますが、今後はEUなどのように複数国家をまたがる機関、あるいは国際会議を通じて規制されるべきだということです。ただし政府の規制の在り方については鉄道時代とは異なる。具体的には、ソフトウェア業界のMVP(ミニマム・バイアブル・プロダクト)方式のように、最低限のプロダクツ(規制)をとにかく早く導入し、その後それを改善していくべきだという主張は興味深かったです。本書の著者が、テクノロジー企業の老舗であるマイクロソフトでコンプライアンスを担当している役員であること、またこれまでIT技術が利器にも武器にもなってしまった状況を現実に体験している人だということで、説得力と含蓄、そしてバランス感覚を本書から読み取りました。面白かったです。


  • GAFAに対する風当たりや規制が強まる中で、どのような変遷をしているのか?が大枠で見ることができました。
    海外はこの辺に対してかなり先を読みつつ対策をしている印象でした。

  • マイクロソフト役員であり、弁護士の著者。
    前半は巨大であるがゆえにいろんな所からチャチャ(?)入れられるIT企業の
    切った張った!
    のスピード感あるドキュメンタリー。
    よくぞここまでオープンに出来たと思うほど、実名&社名が出てきます。課題解決の為に競合と連盟組んだり、歴史上の出来事に解決の糸口を見出したり。現代版ゲーム・オブ・スローンズ。

    後半は、ホットなテクノロジーと社会との付き合い方を漏れなく無駄なく紹介&提案してます。

    全般を通して、とてもポジティブで推進力のある内容です。どんなに大変でも絶対に悲観一辺倒にならない。

    こういう方がいないと、AI監獄ウイグル みたいな世界になりかねない。ある意味社会のガーディアンです。

  • MSで四半世紀という著者は法務の専門。プライバシーへの姿勢、オープンソース、オープンデータへの取り組みからAIと向き合うこれからのことなど、テクノロジーについて多様な角度から経験や見解が述べられていて読み応え満点でした。
    未来を予測する事は難しく、変化から学び適応して行くことが、どんな職業職種であれ、求められています。

  • 著者のブラッド・スミスさんは、超大手IT企業・マイクロソフトの法務部門に入社した後は、ビル・ゲイツさんの片腕として独禁法訴訟やプライバシー保護、サイバーセキュリティ等、多くの問題について合衆国政府や他国政府、ライバル企業との交渉に尽力された方です。この本では著者が長年IT業界の一線で活躍された経験とテクノロジーの持つ可能性と驚異について書かれた本です。多くの方の個人情報を把握している所有しており、その情報で顧客を幸せにする事も不幸にする事も出来るパワーを持った企業の法務責任者として、合衆国政府が求める危険人物情報の提供に対し、プライバシー保護との葛藤は大変なものがあったと容易に想像出来ます。どちらも人々の安心安全と利益を考えての行動なので何方が良い・悪いは簡単にいえないですよね。。。

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