- Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
- / ISBN・EAN: 9784834253375
作品紹介・あらすじ
一歳と四歳の娘と始めたパリでの母子生活。
近づく死の影から逃れるための突然の帰国。
夫との断絶の中、フェスと仕事に追われる東京の混迷する日々……。
生きることの孤独と苦悩を綴った著者初のエッセイ集。
西加奈子さん、平野啓一郎さん推薦!!
自分を愛することを認めてくれる人はたくさんいるけれど、自分を愛さないことも認めてくれる人は稀有で、金原ひとみさんはその一人だと思う。
──西加奈子
壊れるように成熟してゆく魂。パリ―東京の憂鬱を潜り抜け、言葉は、痛みと優しさとの間を行き交いつつ、気怠く、力強い。比類なく魅力的な作品。
──平野啓一郎
【本文より】
帰宅すると、ネットでピアスを検索し、サイズ違いのセグメントリングとサーキュラーバーベルとラブレットを二つずつ買った。
とにかく何かをし続けていないと、自分の信じていることをしていないと、窓際ヘの誘惑に負けてしまいそうだった。
これまでしてきたすべての決断は、きっと同じ理由からだったのだろう。
不登校だったことも、リストカットも、摂食障害も薬の乱用もアルコール依存もピアスも小説も、フランスに来たこともフランスから去ることも、
きっと全て窓際から遠ざかるためだったのだ。そうしないと落ちてしまう。潰れてしまう。ぐちゃぐちゃになってしまうからだ。
感想・レビュー・書評
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この人と私、案外近いのかもしれない、と思ったり思わなかったり。
『蛇にピアス』での衝撃的なデビュー以来、「私には関係ない作家」として、横目で眺めてきて20年近く。
様々な書評に惹かれて金原ひとみという人が気になるようになり、何かの書評で紹介されていたこちらのエッセイをついに手に取った。
金原さんがパリで暮らした日々と、東京に帰国してからの出来事や思いを綴る。
どうせ自分はいつか嫌われる、という、どこに根差してんだか分からない絶望感がありつつも、人との関係を継続していける金原さんはすごい。
秀逸な比喩多数。
読み途中、時折本を閉じて表紙の金原さんの目の奥を探りながら読んでしまった。
こんなこと、書いていいの?とか思いながら。
シックな装丁も素敵です。 -
「生きたい」「愛されたい」という欲求と「自分など生きる価値がない」「周りの人びとに害を与えるだけだ」「消えたい」という自己否定や消失への希求衝動がせめぎ合う。アンビバレントな欲求衝動にもだえ苦しむ様が価値判断や情緒を排して記される。
「私なんか・・・」
自暴自棄や諦念がそこここに充満し、「生きること」についてみっともない自分の姿をさらけ出した金原さんのエッセイだった。
読み進みながら私の心の奥底に普段は沈めている自分への抗えない不信感や嫌悪感が金原さんの文章によって攪拌される。
文中多用される金原さんの「生きづらさ」は形は違えど私の中にも存在している。
金原さんの文章でしか満たせない私の「虚ろ」そのもの。
印象的だった箇所:
P.86
皆私のことを嫌いになる。いつか見捨てられる。この確信がいつから芽生えたのかわからない。中略
生きていることに激しい罪悪感がある。払拭できない覆せない罪悪感がある。生きているだけで何かの害悪でしかないという確信だけがある。
P.106
日常が穏やかすぎるゆえの、刺激への耐性の低下。中略
生きているだけで四方八方から侵害されているような閉塞感がある。
P.164
瞬間的な心の充足ではなく、恒常的な魂の充足などあり得るのだろうか。そんなものはこの世に存在せず、間を持たせたり凌いだりして、人生は紡がれていくものなのではないだろうか。全てがまやかしで、全てが退屈しのぎ、退屈しのぎに病み、依存できる何かを探し求め、依存した暁には依存に病む。これまでもこれからも、それ以上の人生を送れる気がしない。
以上抜粋。
当初はフランス語もできず幼いお嬢さん2人を連れて渡仏した金原さんが、「日常」を築き始めた。
そこで見たもの、耳にしたもの、感じた事柄は日本で「当たり前」と思い込んできた価値観とは異なる新基軸であったことに気づく様が彼女の巧みな筆で記される。
そして金原さんが抱いてきた生きづらさは生きること自体への生きづらさではなく、日本で感じた「普通」への違和感であったこともあり、またその逆もしかり。
全てが溶け出すように解決するわけではないが、自分が抱いてきた怒りや違和感の正体がフランスとの対比や日本との距離により浮き上がってくる。
「場所を変えること」の重要性を再認識する。
駐仏の日本人女性との結婚や恋愛を巡るやり取りは実に興味深かった。「異なること」への怒りがあり、同時に許容や諦めも生き延びるための手段としていく。自分と同じ他者などいない。
そしてご主人との混じり合わない一線への怒り、と同時に他者としての「異物」から得られる視野の広がりと許容。
自分の身体から生み出された異なる存在の娘2人との関り。
ご家族と距離が近すぎず遠すぎず、金原さんの別の一面を垣間見た。かぶとむしのゼリーや交尾に関する描写にはクスリ。
金原さんの作品、もっと読みたくなる1冊でした。-
ごはんさん
こんにちは~
金原さんの唯一無二の作風が好きで、でもエッセイってまだ読んだことないんですよね。
(実は今文庫待ちです)
以...ごはんさん
こんにちは~
金原さんの唯一無二の作風が好きで、でもエッセイってまだ読んだことないんですよね。
(実は今文庫待ちです)
以前、インタビュー記事か何かで拝見したところによると、金原さんご自身は作品のキャラクターと一致しているわけではないのかな、と思ったのですが、どうやらエッセイだとより重たく強く、自傷的な感覚が伝わってきそうです。
わたしも同じように自傷的に捉えるのですが、目の前にいる誰かには、決してそうは思わないんですよね。なんで自分にだけ思うんだろう。
西加奈子さんが以前「自分を愛そう愛そうという現代の中で、これほど自分を愛さない作品があることは、自分を愛せない人の救いになる」みたいなことを仰っててまさしくそうだなと思いました。
だから傷だらけになっても読んでしまうんだろうな、って。
すみません、長くなりました…
早く文庫化しないかなぁ…2023/03/31 -
naonaonao16gさん
こんばんは。コメントありがとうございました。
西さんの「自分を愛そう」という現代に「自分を愛せない」人の救いに...naonaonao16gさん
こんばんは。コメントありがとうございました。
西さんの「自分を愛そう」という現代に「自分を愛せない」人の救いになる
というくだり、納得です。
著作中に他人に腹を立てても相手を憎むより自分で消えたくなるというような表現があって、それは決して慈愛とかではなく、自分への嫌悪が強すぎて圧倒されてしまう様子かなと読みました。
他の作家のエッセイとは一線を画す金原さんらしい感覚や表現に痺れます。文芸作品の中の登場人物たちのそこかしこにも金原さんが混じっているし、このエッセイも色々な金原さんが存在しています。それが興味深かったですね。
特にお嬢さんたちの母親としての描写は意外でした。お二人ともちゃんと学校に行っているし、中学受験の塾通いのお弁当も作っていらっしゃる様子で笑。
Naoさんは文庫本待ちとのこと。
私は図書館で借りました。金原さんにとって執筆もとても辛そうな作業ですが、書くことで生きているともあり、私も読むことで今日と明日もやり過ごしながら繋いでます笑。
このエッセイは誰かと語りたくなる1冊です。長くなりました。2023/03/31 -
ごはんさん
こんにちは!
返信ありがとうございます!!
相手を憎むより、自分が消えたいと思う気持ちの方が強い、の部分になるほどなと思いま...ごはんさん
こんにちは!
返信ありがとうございます!!
相手を憎むより、自分が消えたいと思う気持ちの方が強い、の部分になるほどなと思いました。
わたしがそこまで思わなくて済むのは、相手を憎みたくなるような出来事があった時に、その話を聞いてくれる友人や、一緒に相手を憎んでくれる人がいるからかもしれません。
ただ、「自分が悪い」で済ませることはしょっちゅうです笑
金原さんのお弁当づくりの話が興味深いです!
意外な一面ですよね!
エッセイはそういった意外な一面が見られるのが好きですね~
文庫化、もうすぐだと思うんですよねー
どうにか2023年中には文庫化してほしいです2023/04/01
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一気に読まされてしまった。うまく感想を言葉にできないけど特に感じたことは二つ、これほどまでに自分を言語化出来るという、構造化力というか知性に対する憧れと、読んでいて感じた僕自身の薄っぺらさというか軽く意気消沈…
また小説も読みたい… -
西加奈子さんのPodcastでおすすめされてたので読んでみた
やっぱり作家さんって基本みんなネガティブなんかな ネガティブな人が書く文章っておもしろいと思う(おもしろいって言っちゃダメな内容もあるけど広義的な意味で) 自分もどっちかというとネガティブ側だと思うからそう思うのかもしれん
これはこうかな?でもこうかも、ああ〜なんで自分はいつもこうなんだろう、他にもこんなことがあって、みたいな暗い人の思考回路がずっと淡々と書かれて、うわ〜わかるわ〜ってとこも結構あっておもしろい 本気で死んじゃいたい人ってこういう風に考えてるんだなとかあまりにも言語化されてるから自分とは違う感覚もめっちゃすっと入ってくる
結構こういう文章に救われる人って多いと思う 実際自分もそこまで死にたいって本気で思ったことはないけど読んでるとなんか安心してくる
この人の作品を薬みたいにして読んでる人は結構いるだろうなって体感として思った そういうのは本とか絵とか音楽みたいな芸術にしかできないことだなって思いますね
自身でも書いてるけどこんなに精神が不安定そうに見える人でも2人の子どもがいて仕事しながらきっちり育てられてるのすごい
でもなんとなく自分も過去の自分を振り返ってよくこんなことできたなとか、よく頑張れたなみたいなことってあるからわからんでもない
根っからのポジティブな人とは分かり合えない気がしてるけどみんなどっかしらネガティブな部分ってあるんかな
なんかハッピーな話しかしない人ってあんまり信用できないんだよな 嘘臭さを感じてしまうというか、あなたもほんとは苦しいことの方が多いですよね?って思ってしまう だからネガティブな面を持ってる上でそれでもがんばってる人のことをすごく好きになってしまいますね
この本が必要じゃない人もいるだろうけど、たとえそうでなくても このひと何言ってるん?笑 こわいし意味わかんねーって感じの人にはなりたくないよな 自分は持ってない傷とか痛みを想像したりわかろうとする姿勢が尊いと思うし、それを優しさっていうんだと思う -
同じ年ということもあり、彼女の作品は芥川賞をとった「蛇にピアス」の頃からなんだかんだとほとんどの作品を読んでいる。
同世代の彼女がどんな視点で生きてきたのか、思考の変化や変わらない部分に興味があったので、このタイミングでのエッセイは嬉しい。
全てに同調せずとも流れる空気感や言葉のセンス、常にどこかで陰をまとった世界観は健在で魅力的。
エッセイといえど、これまでの作品で漂わせていた雰囲気をそのままに帯びていて良かった。
日常の他愛もないワンシーンや会話でも、何か引っかかり思考を巡らせているところなんかは、素直に素敵だと思う。
そうやって考えあぐねることが生きるということなのかなと。忙しなくただ過ぎていく日常をやりすごすのはあまりにもからっぽだと気付かされる。 -
ひぇー。。
これエッセイだよね?小説じゃないよね?こんな赤裸々に書いていいの??フィクション?って読み手が不安になる、不穏さ。ピアスのシーン、ピアスの名前知らなかったから一つずつググって画像検索してひぇーってなっての繰り返し。蛇にピアスから進化し続けてる、怖いくらいに。これはわたしのこと?って思うくらいどこかがシンクロして、暴かないでって泣きそうになった。死にたい、自ら死を選ぶことはなくなったけど夫に殺してほしいって思うって気持ち、すごくわかってしまう。消えたいくらいに絶望するこの鬱々とした世界、なんなんだろうね。 -
金原ひとみ作品は『蛇にピアス』からファンでずっと読んでいる。これは著者の内面を垣間見ることができるエッセイ。生活の中でのぐらぐら揺れる感情をこんなにつぶさに捉えられるのは羨ましい。貪るように読んだ。昔の過激な作品をなんども読み返した身としては、著者が子育てしている文章がとても新鮮に感じられた。これからもエッセイとか日記を読んでみたい。あとはこの装丁がとてもかっこいいと思う。
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金原ひとみの書く文章が、とても好きだ。
用いる語句や表現の全てが、まさにその言葉でしか表現ができないだろうという絶妙な構成で仕組まれているように感じる。
他の作品のような物語も良いのだが、自身の事やその日常語るエッセイにこそ、その真価を発揮しているのではないだろうか。
図書館で借りた本だったが、読後本屋で購入した。 -
著者の作品を初めて読んだ。
感情とある種の無感情の交差が時にはゆっくり時にはスピードを増して、心に迫り来るのが、私の読書史上、エッセイとしてはかつてない衝撃を受けた。
他人によく思われたいと意識していないとしても、人はどこか無意識にありのままの気持ちを曝け出すことに抵抗を感じてしまうところがある。
しかし、著者の心の中や思考を全て知ることはできない前提があるうえで、直感的に、こんなにも包み隠すことなく自身を表現できる人に私は出会ったことがない。それがあまりにも真っ直ぐすぎて、こちらの心が何かしらの準備や抵抗をする前に、言葉が身体に入ってきてしまう。だからこそ、人から人へと伝染していってしまうはずの負の言葉さえも、単純に本来そう受け止めるべきはずである著者の自己否定の感情としてすんなりと受け容れることができた。
人間を見せられた。それに尽きるだろう。
パリがどうとか東京がどうだとかいう以前に、どこにいても1人の人として生き惑う金原ひとみという人物と、生まれついた自身を生かす存在としての作家・金原ひとみという人物。2色の流れる血が彼女の身体を巡る限り、読み手の中に流れる血の色が命に疼き続ける。 -
私は19歳を迎えるよりも前に蛇にピアスと出会い、映画を見てから原作を読み始めた。私があの頃感じていた生きづらさをもう10代の若い少女ではない今も感じ続けていて、こんな大人になったのに情緒不安定で情けない。みんなはもっとしっかり大人になっているのに私だけ鬱鬱とした日々を和かにこなしていることにしんどさを感じていた。そんな生活を肯定してくれたこのエッセイは宝物です。何度も泣きそうになりながら読んだ、良かったと思った。こうやって理由のないわからない、苛立ちや鬱鬱とした気分があること、ちゃんと逃げ場所として音楽やお酒、小説がある金原ひとみを見ていると安心する。あの時死ねば良かった、生きていて良かったを繰り返して、生きてるんだからいいよね。
舌にピアスを開けるシーンとかがあって、そうなんだと思ってたん...
舌にピアスを開けるシーンとかがあって、そうなんだと思ってたんですが、吉高由里子ちゃんのエロいシーンがあるんですね。
道理で、『蛇にピアス』をネット検索したら、「画像」が検索ワードの二番目に出てくるはずです。笑
金原さんは、旦那さんに「恋愛至上主義者」と評されたそうです。
旦那さんは編集者なんですね。
このエッセイでもそんな記述が出てきました。
あくまで「ちょっと含む」です。
彼女の作品を、生きて行くための気付け薬のように必要としている方たちから見たら、一緒にすんなよって感じかもしれませんが。
あっ、ところで辻村深月さんの『噛み合わない会話と~』のレビューで「私がこのタイトルにグッとくるのもサブカル好きだからなのか」というようなことを書かれていたような気がしますが、それって元ネタがあるってことですが?
気になって検索したけど何も出てこなかったです。
あと、蜷川さん繋がりで藤原竜也と小栗旬がめちゃチョイ役で友情出演みたいなことしてます!
画像検索で2番目は笑います...
あと、蜷川さん繋がりで藤原竜也と小栗旬がめちゃチョイ役で友情出演みたいなことしてます!
画像検索で2番目は笑います笑笑笑
あそこまでの痛みを忠実に描写できるってすごいです…!しかも、それを客観視する視点がほとんど 入らないのもいいです(爆)
辻村さんの「噛み合わない~」についての元ネタは特にないです!ただ、なんかタイトルと、特にそのリズム感がサブカル感に溢れていて好きです笑
ありがとうございました!
ありがとうございました!