- Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
- / ISBN・EAN: 9784835638126
作品紹介・あらすじ
神戸の西にある小さな町「塩屋」。海沿いにある築100年超の洋館、「旧グッゲンハイム」邸。建築の再生と、まちづくりの物語。
感想・レビュー・書評
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神戸市西部の塩屋という町にある旧グッゲンハイム邸の管理人を務める著者が、管理に至った経緯や活用内容、塩屋のまちづくりの取り組みについてまとめた本。巻末に元塩屋の住人で建築家の島田陽さん、音楽家で僧侶の二階堂和美さんとの対談も掲載されている。
神戸市は海と山の距離が近いが、塩屋はその中でも海に山がせまっている地域で、明治期には海沿いに異人館が建てられ、昭和初期には山に向かって外国人向けの集落が開発された。
海沿いでは今でも漁業や海苔の養殖が盛んで、平地が少ないことから大きな道路はなく、車も入れないような細い坂道で構成されている。そのためか大きな開発から逃れ、現在も昔ながらの景観を残す地域なのだそうだ。
旧グッゲンハイム邸は、明治42年ごろ塩屋の海沿いの丘に建てられた異人館で、昭和27年ごろまで住み継がれ、その後会社の寮施設として使われた。しかし使われなくなった後は次第に老朽化が進んでいったという。
塩屋で育った著者は、父親がベルギー人ということもあってベルギーの大学に留学、芸術家として活動した後、塩屋に戻ってステンドグラス作家の母のアトリエを手伝っていた。しかしその頃は旧グッゲンハイム邸にそれほど思い入れがなかったという。
一方、彼の母と妹は昔からこの洋館にあこがれを抱いており、旧グッゲンハイム邸が取り壊しの危機にあったときには所有者に働きかけ、私財を投げうって購入してしまった。
基本的に受け身の性格であるという著者は、成り行き上建物の管理を任されることになった。敷地内に建てられた男子寮の建物をシェアハウスにリフォームしたのを皮切りに、洋館を結婚パーティ会場やイベントスペースとして貸し出し、自主イベントを開催するなどして運営するようになる。現在はライブハウスとしての認知度が高いそうだ。
家族が購入してしまう話もびっくりだが、受動的なスタンスなのに10年以上管理し続ける著者もすごいな、と思う。もちろん、思い入れがなかったとはいっても、ベルギーでの活動や阪神淡路大震災で壊滅した町がまっさらになってしまった時の違和感など、これまでの経験が著者の中にしみこんでいて、なるべくしてなったのだということも読んでいくと腑に落ちる。
著者の活動は建物から塩屋のまちづくりに広がり、「塩屋百人百景」という撮影イベントや、音楽・アート・トークイベントなどの総合芸術祭「しおさい」、塩屋のまちの各所を歩き回りながら音楽を楽しむ「しおや歩き回り音楽会」など、さまざまなイベントの企画・運営に携わっている。
しだいに町に若い人が集まり、活気を取り戻している町だが、古参のメンバーとの意見の調整は大変なことも多いようで、具体的なことは書いていないものの、まちづくり推進委員会の場では心無い言葉をたくさん浴びせられたそう。普通ならそこでいやになって投げ出してしまいそうだが、生来の投げ出すことを良しとしない性格が幸いし、今に至っているようだ。
現在は神奈川県真鶴町にならい、景観についてのルールをまとめた「しおや景観ガイドライン」の策定、コミュニティバス「しおかぜ」の運行に尽力するなど、「人間サイズの町」を目指してさまざまなまちづくり活動に取り組んでいるそうだ。
巻末の対談では、音楽家・僧侶の二階堂和美さんとの対談の中で二階堂さんが言った『自分がそこに住んで、暮らしている縁というか、因縁みたいなものを、どうにかして自分に引き寄せていく』という言葉が印象的だった。こういうしなやかな感性がいろいろなことを徐々に変えていく力になるのだと思う。
関西人ながら、塩屋の町のことは全く知らなかった。一度まちを歩いてみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
神戸市の西、塩屋と言う町の旧グッゲンハイム邸を維持管理する作者によるノンフィクション。
巻末に建築家や音楽家・僧侶の方との対談あり。「未来に生きる建築と、小さな町の豊かな暮らし」と言う副題がそのまま表している。 -
塩屋は大阪まで45分ほどで行けるし、30坪くらいある庭付きの古家が数百万で買えてしまう
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真鶴町の「美の基準」ガイドライン