- Amazon.co.jp ・本 (421ページ)
- / ISBN・EAN: 9784840239219
作品紹介・あらすじ
塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。塩は着々と街を飲み込み、社会を崩壊させようとしていた-。"自衛隊三部作"の『陸』にもあたる、有川浩の原点。デビュー作に、番外編短編四篇を加えた大ボリュームで登場。第10回電撃小説大賞"大賞"受賞作を大幅改稿。
感想・レビュー・書評
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コロナウイルスの脅威に怯える現在の状況。本作はコロナウイルスよりもっとたちが悪い塩の結晶の物語り。塩の結晶から暗示性の電波物質が放出され、人間を結晶化させて死に至らしめる。コロナウイルスよりも恐ろしいと思いながらも、目に見えない物質の脅威と現代のウイルスの脅威とが被った。
東京湾、羽田空港沖に建設中の埋立地基礎に巨大な白い隕石らしき物体が落下。塩害が始まった瞬間である。
天に突くように巨大な、白い塔のような塊が東京湾に生え、きらきらと結晶が反射する。
結晶を見た人間は、結晶から放出される物質に感染し体が塩の結晶となり死にいたる。
塩が世界を埋め尽くす塩害の時代に東京で暮らす男性と少女が、結晶と闘う運命に巻き込まれながら、そんな中で次第にお互いが必要とする存在に変わっていく。
ブグログ評価的には他の自衛隊作品よりもほんの少し評価が低かったのだが、私には、本作が一番面白かった。
自衛官・秋庭二尉と少女(高校生)小笠原真奈の恋愛。「超」がつくほど純粋な恋愛小説だったのだが、あまりにありえないくらいの純粋な恋愛であったからであろうか。そこはさておき、本編に加えて、番外編として短編四篇が、本作を補完する物語となってたところが良かった。
それにしても「塩の街」の各章のタイトルがユニークだ。
Scene1 街中に立ち並び風化していく塩の柱は、もはやなんの変哲もないただの景色だ。
Scene2 それでもやり直せてやるって言ったんじゃねえかよ。
Scene3 この世に生きる喜び そして悲しみのことを
Scene4 その機会に無心でいられる時期はもう過ぎた。
Scene5 変わらない明日が来るなんて、もう世界は約束してくれないのを知っていたのに。
Scene6 君たちの恋は君たちを救う。
それは全て各章の会話から抽出した言葉がタイトルとして表記されていて、タイトルを本の中の会話で見つけた時、『ああ、こんな状況の時に、こんな気持ちで言っているのね』と、これが作者の伝えたいことだと解りタイトルとした意味が納得出来る。
例えば、Scene1のタイトルは、この塩害の始まりはつい最近でもなく、それに対する対策が講じられることなくあるいは講じるすべがなく現在に至っているというのがわかる。
本編の始まりは谷田部遼一と小笠原真奈の出会い。秋庭に拾われた真奈は、遼一を拾って、マンションの大家・秋庭のところに連れて帰るのだが、この出会いの描写が現代ぽくなく、昭和初期あるいは終戦後の古い時代の日本の雰囲気のように感じた。
見ず知らずの行き倒れそうな人を連れてって、食事を提供する、挙句にはこの交通手段がない状況下で50kmほど離れた由比ヶ浜まで送っていく。困っている人をほっておけない親切心が他人に関心がない現代とのギャップを感じたからであろうか。
Scene3にいたっては、『グリーン グリーン』の歌詞ではあるが、これも塩害で亡くなった両親、生き残ったら人間の辛さそれを乗り越えて行けば、やがて穏やかな日々がやってくるということであろう。真奈にとって、塩害で両親を亡くしたが、秋庭とは出会えている。そんな意味も含んでいるように感じた。
そして、大家・秋庭の正体はやはり自衛官であった。当初より、放置された車を調達してきたり、ガス欠になったら放置車からガソリンを使うなど、ザバイバル力が高く、場面、場面で匂わせていたが、陸上自衛隊立川駐屯地臨時司令と称する入江慎吾の登場により明らかになる。また、入江の登場により、事態は解決に向かうが、真奈と秋庭の恋物語も進行。恋愛、恋愛したものは苦手だが、秋庭の真奈に対する不器用な表現が可愛くてこれはこれで面白かった。
個人的には入江の性格も、本の中では心惹かれるポジションである。
旅の始まり
カッコを付けたいお年頃の中学生・高橋ノブオは家を飛び出し、災害のルポタージュ修行に家をでる。ヒッチハイクするノブオを拾ったのが、伊丹に向かう秋庭たちであった。
中学生の身勝手な恋愛は大人の恋愛の前にこっぱみじんとなる。
秋庭たちを見て人生が変わったということだが、ノブオは別れた後に何を学んだのであろうか?この中学生の成長が、気になる。10年後に発売された本を読む限り、少しは相手を思いやり、自分の気持ちを素直表現できるようになったのであろうか?
世界が変わる前後
本編で登場した関口由美士長(野坂由美)と野坂正三曹の出会いの話で、やっぱりこれも恋愛の話。本編の由美のイメージとは少しギャップはあったが、知っている人物の登場、本編では展開されることがない話を違った視点で知ることができるスピンオフは結構好きだ。
浅き夢みし
入江慎吾・陸上自衛隊立川駐屯地臨時司令として、身分を詐称し塩の結晶を撃退するデータに基づく実験を行う。服役中の囚人を被験者とした人体実験もしており、その中にインサイダー取引で摘発された春日井商事の取締役である江崎樹里の父・江崎定和が入っていた。樹里は、入江を拉致するが、やはり入江の方が上手であった。
入江の回想で、高校時代に秋庭との出会いが記されている。入江が高校生の時に後輩女子からの告白の断り方に抗議をしにきた他クラスの女の子たちを大泣ぎさせて追い返した時、「あんまり波風立てるな。…そこでキャンキャンやかましく騒がれたら俺が苦痛だ。俺に席外せって言う筋合いもそっちにもねェだろう。」と言う高校生の秋庭の言葉。この時から、言葉は厳しいが、実は相手のことを考えている優しさが感じられる。この物語では、拉致のことより入江と秋庭の高校時代の話の方が面白かった。
旅の終わり
塩害から10年経った秋庭と父の関係修復の物語。
今まで、たくましく、怖いイメージの秋庭も家族の前では、子供っぽいと感じさせるところがいい。
「こういうの、傍目八目っていうのかな。…身内ならではの遠慮のない言葉の応酬、それでも傍目になんて幸せな光景だろ。もうかんれきを過ぎているであろう秋庭の父さえ微笑ましく見える」真奈の思いの通り最後は父と和解をするのだが、身内だから和解に時間がかかることもあるのだろう、そして、身内だからこそ時間がかかっても和解できたのだろう。
414ページの長編とはなっているが、本編と番外編に分かれていて、気がつくと終わっていた。今は恋愛ものでお腹いっぱいなので、次回は違ったジャンルを読んでみたい。 -
デビュー作品から、有川さんは有川さんだ。ぶれてない。
愛は世界を救わない。愛が救うのは、愛に関わった当事者だけ。けれど、その愛は、結果として、世界までもを救うことに繋がる、というお話。
秋庭さんの引き出しの多いこと。航空自衛隊出身で、車に詳しくて、キーピックもできて、入江さんに一目置かれていて。
入江さんもいい男。辛辣で頭が鬼のように良くて、策士でロマンチストで、自分のしたいことをするためには手段なんぞ選ばない人で。こんなに、世の中なめた男、いますかね・・・?
でも、この作品中で、キング・オブ・いい男は、野坂正さんだ。
「ずいぶん、いい表情してた。惚れ直しそうだった。」って・・・そんなこと、さらっと言わないでー。
世界が変わっても。人は恋をする。それって、とっても素敵なことだ。
真奈が「世界なんかどうでもいい。あなたがいればどうなってもいい」と願うのに対し、秋庭さんは「俺より先に真奈が死ぬのが耐えられないから、命を賭して、塩害の原因を叩く」と願う。
どちらの自分の願いを押し通そうとする。その2人のどうしようもないわがままが、切なくて、そして、愛おしかった。
世界が変わっていくのだとしても、彼らの思いは変わらずに、
そして、彼らはいつまでも、しぶとく、したたかに、懸命に生きていって欲しいと願いました。 -
なるほど電撃文庫大賞だわこれw
若いころにめちゃくちゃ読みあさったなぁ電撃文庫
その頃まだ有川浩さんはデビューされてなかったんだね
女子中高生がすごい好きそうでいい年したおっさんが★5はいかがなものかと思ったがすごい面白かったので素直に評価
すごいニヤニヤしたしw -
とんでもない世の中に。しかしこのおかげで出逢った2人がいて。
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これがデビュー作とは、やっぱり有川さんはすごいなぁ!
図書館戦争シリーズを読んだあとに読み始めたので、最初は女の子女の子している真奈ちゃんにちょっと気恥ずかしさを感じてしまったけれど、ひねくれた(?!)入江さんが出てくるあたりから、俄然おもしろくなってきました。
大仰に「世界を救う!」ではなくて、「世界はともかく、愛する人をなにがなんでも助ける!」というスタンスがとても素直で、好きです。-
こちらこそ、いつも楽しいコメント、うれしいです!ありがとうございます!
有川さんをブレイク前から読んでいたとは、さすが円軌道の外さん!
...こちらこそ、いつも楽しいコメント、うれしいです!ありがとうございます!
有川さんをブレイク前から読んでいたとは、さすが円軌道の外さん!
私は、有川さんは「図書館戦争」から入ったし、この「塩の街」もデビュー作とは思えない出来なので、デビュー時から人気作家さんだったのだと思い込んでました。
あの有川さんにも、不遇な時代があったんですね。。。その頃から応援していたかったなぁ!
そして、大ブレイクした時、うれしさと同時に、「ああ。。。ついにみんなの有川さんになってしまったのね。。。」という、ちょっぴりのさみしさを感じたりしたかったです。
「突拍子もない話にリアリティを与える圧倒的なディテールの緻密さ」。。。そうなんですよね!
この「塩の街」も、塩害の元凶はほんとに突拍子もない設定なんだけど、街のそこここに立つ崩れかけた塩の柱とかが、目の奥にまざまざと浮かび上がってきましたもの!
有川さん、こういうテイストのお話も、また書いてくれないかなぁ。。。
2012/05/02 -
はじめまして! コメントしてくださってありがとうございました!まろんさんのレビューはわかりやすくて共感できるので、文章ベタな私からしたら憧れ...はじめまして! コメントしてくださってありがとうございました!まろんさんのレビューはわかりやすくて共感できるので、文章ベタな私からしたら憧れです^^
まろんさんのようなお母さんがいるだなんて娘さんがとても羨ましいです。。。
私の本棚も気に入ってくださった(?)みたいですが、私のは乙女思考が強すぎて若干恥ずかしいです(苦笑)まろんさんみたいにもうちょっと色々なジャンルに手を伸ばせるといいのですが。。
「塩の街」は有川さんの作品の中で始めて読んだんですけど、世界観がすごいし、あと人間模様?もリアルで実際こういう世界がありそうだと思って、楽しんで読んでいました。最近の有川さんはリアルな現代モノ?を書かれていることが多いみたいなので、私も「塩の街」のような、少しファンタジー?の入ったお話をまた読んでみたいですね。2013/02/13 -
ミツキさん☆
いえいえ、こちらこそ、光栄なコメントをありがとうございます♪うれしいです!
娘は、叱られるたびに「ママのこどもなんかに生まれ...ミツキさん☆
いえいえ、こちらこそ、光栄なコメントをありがとうございます♪うれしいです!
娘は、叱られるたびに「ママのこどもなんかに生まれなきゃよかったー!きー!」
と叫んでいるので、ミツキさんのこのありがたいコメントを見せて、どうだ!と威張ることにします(笑)
私もこの歳になっても、頭の中は乙女乙女しているくらいなので
ミツキさんは、胸を張って乙女まっしぐらでいてください♪
「塩の街」は、今でも手に取った瞬間、本の中から
さらさらと塩の柱が崩れる音がするような気がする、印象的な本です。
ほんとに有川さん、トンデモ設定をぐいぐい展開させるようなファンタジックな作品を
そろそろ書いてほしいですよね(*'-')フフ♪2013/02/14
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有川浩さんのデビュー作で第10回電撃小説大賞の大賞に選ばれて、一度電撃文庫から出版されましたが、加筆修正し、その後のエピソードも加えハードカバー化されたものです。有川さんの自衛隊3部作、陸上自衛隊編。
東京湾などに落ちてきた巨大な白い塔。まるでオブジェのようなそれは塩の結晶。しかもそれを目にした者は次第に体が塩と化して行く。人はこの災害を塩害と呼び慣わしていた。
無法地帯と化した東京で、真奈は重い荷物を背負った遼一を拾った。だがその真奈自身も、訳あって秋庭のマンションに居候していた身だったのだ。
有川さんの、原点が見えるなあと感じました。秋庭は強い上にふと見せる優しさがツンデレで、こういうのをギャップ萌えっていうんですか。有川さん、そういう登場人物が得意だなあって(笑)。 -
王子様がやってきた。いやぁ、かっこいいですね~秋庭さん
好みもあるだろうけれど何だかんだ言っても、こういう人に対象にされると女子はみんな黙るでしょう。ほぼ、間違いなく。
で、現実には王子様はいません。
内容は有川さんらしくてグイグイ読めました。
塩害終結がやや早過ぎな感はありますが、
ラブストーリーの付属が、塩害との戦いならOKです。
楽しく読みました。デビュー作なんですねぇ。 -
自然災害に巻き込まれ、死ぬかもしれない状況で何のために世界を守るのか?面白くて次から次へとページをめくってしまいました。
登場する人々の表情が手に取るように感じ取ることができましたし、苦しいシーンでは私まで苦しくなりました。架空の自然災害であり、まさに本だからこそできる世界に引き込まれていきました。 -
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シンプルで素敵なコメントですね♪
>塩の街で,塩の人になり,奇麗な海に帰りたい。
そうですよね・・・。
シンプルで素敵なコメントですね♪
>塩の街で,塩の人になり,奇麗な海に帰りたい。
そうですよね・・・。
2012/09/15 -
「塩の街」の最初の話を読んで,「駄目だ。自分ではこの境地に達することができない」と感じました。書いた有川浩さんを尊敬するのみ。「塩の街」の最初の話を読んで,「駄目だ。自分ではこの境地に達することができない」と感じました。書いた有川浩さんを尊敬するのみ。2012/09/20
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いつもありがとうございます。コメントありがとうございました。
さて、有川さんの自衛隊三部作全て...
いつもありがとうございます。コメントありがとうございました。
さて、有川さんの自衛隊三部作全て読破されたのですね。私はまだこの塩の街だけですが、とても印象深かったです。なんだか塩というのが妙なリアルさを感じました。書かれているとおり、章のタイトルもいいですよね。私の記憶もまだ新鮮なうちにこうしてkurumicookiesさんのレビューが読めて再度楽しむことができました。ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。