歌人紫宮透の短くはるかな生涯 (立東舎)

著者 :
  • 立東舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784845632596

感想・レビュー・書評

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  • <トヨザキが読む!豊﨑由美>高原英理 澁澤と種村を継ぐ幻視者 80年代サブカルが残した叡智:東京新聞 TOKYO Web
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/84664?rct=book

    歌人紫宮透の短くはるかな生涯 | 立東舎
    http://rittorsha.jp/items/17317428.html

  • 穂村弘が帯にいわく「極度に文系な魂のための青春のバイブル、ただし80年代限定版。」
    豊崎由美が書評にいわく「1960年代生まれのサブカルクソ野郎が泣いて喜ぶ仕掛けがたっぷり」
    作者1959年生まれ、ほむほむ1962年生まれ、トヨザキ社長1961年生まれ。
    自分の母親の世代なのだなー。

    作りとしては、
    ・ある作家、による、プロローグ(とエピローグ)。
    という枠物語の間に、 
    ・評伝作家、による、代表的な和歌の紹介と、脱線多めの記述。
    ・各回、評伝作家が行ったインタビューや、歌人自身の文章を引用。
    という各章が挟まれる、という構成。
    下段の注釈の情報も豊富。(という点では、田中康夫「なんとなく、クリスタル」っぽくもある)
    だんだんと歌人の年齢が上がっていくが、伝記小説と単純には言い難い。
    ボツッと出てきてブツッと途切れた伝説的歌人、というには、先行研究多すぎじゃねという疑問が浮かんでしまう。
    また謎としての歌人を浮かび上がらせるには、カバーイラストはむしろ邪魔なのではないかと思う。
    とはいえ深甚なる謎を提示するというよりは、ポップで軽薄な時代と、そんな中でゴシックを体現しようとした人物とを、折衷的に描いている、ということなのだろう。
    各章が断片的すぎて深みがない、と思ったが、その浅さこそに意味がある作品なんだろう。
    ……と、いまひとつ乗り切れなかったが、それは自分の現状に拠るから、とは判る。
    著者の近刊「詩歌探偵フラヌール」にも手を伸ばしたい。

  • 架空の歌人・紫宮透の作品および彼についての証言録。
    ツイッターで見かけてなんとなく興味を惹かれ、手元に置いてみれば、帯の煽りがふるっていた。「極度に文系な魂のための青春のバイブル、ただし80年代限定版」。
    謎めいた気配をさらに深めつつ、読みすすめていけば腑に落ちたような、最後には一周まわって、つかめたような気がしたものが実は手からすり抜けていたことに気づいたような……。
    紫宮透についてたしかなものは彼がなした作品ばかり、というのが面白いところだと思う。誰による証言も、その中で紹介された紫宮透本人の言葉も、私に届いた時すでに別のバイアスを通過しているからか、そのつかみどころのなさでもって逆に印象深い。まるで怪談。
    死が迫っていると思わせられていたのに、いざその記述を迎えた時の呆気なさには衝撃さえ覚えた。突然宙に放り出されたような。そんな中で「掲出歌」、そして此岸と彼岸のあわいが意識されて仕方ない。

    80年代の文化、都市生活の描写も含めてとても面白かった。自分がこの時代に青春を送っていたとして、こういう暮らしではなかっただろうけど、だからこそ楽しめる疑似追体験だったのかも。

  • 永遠に遅れる列車わたくしの十六歳が駅に待つてゐる
     紫宮【しぐう】透(高原英理)

     1990年、28歳の若さで事故死した伝説の歌人・紫宮透。高原英理の新刊小説に登場する人物名である。

     作中人物なので、当然架空の人物のはずだが、紫宮透作とされる短歌にまつわる関連情報や、80年代の雑誌、漫画などサブカルチャー情報がぎっしり書き込まれ、あたかも「紫宮透」が実在したかのような錯覚にとらわれる。

     しかも、紫宮透は高校生のころ、塚本邦雄(実在した歌人)の短歌と出合って作歌を始めたという設定と、その傾倒ぶりにはリアリティがある。また、「人間存在自体の邪悪さを詠み続けた」塚本邦雄の営為が多数の脚注で解説され、現代短歌論としても読みごたえがある。

     加えて注目されるのは、本書が80年代カルチャーへの愛惜というか、再評価につながっている点である。紫宮透は、62年、和歌山県生まれという設定。東京の大学での友人が、「WAVE」(輸入レコード店)と「ぽえむぱろうる」(詩歌集専門の書店)に通い、それらの文化を摂取しながら青春期を送ったという設定も、当時の文系青年を濃厚に再現している。

     引用された膨大な固有名詞は私にも親しいものばかりだが、私たちは、もう過去には戻れない。掲出歌からは、多感な青春期を振り返ることはできるが、過去という列車には乗ることができない喪失感すら感じられる。
     
     とはいえ、さまざまな記憶が喚起され、創作意欲を大いに刺激された。(2018年12月2日掲載)

  • ゴス歌人・紫宮透という架空のニューウェーブ・アイコンを中心として紡がれる80年代サブカル曼荼羅。

    別に「エモコア水墨画」とか「グラムメタル演歌」とかでも良かったのかもしれないが、別の時代では咲きえなかった徒花として「ゴス」の刹那性に説得力がある。

    人生の終え方が「らしいなぁ」と思わせる。

  • 満ちきたる波の大きを見上げたり見上ぐるままに溺れてゐたり (紫宮透)

    本作はあくまでフィクショナルな人物として1980年代を活躍した「天才ゴス歌人」こと紫宮透の、短く、そしてはるかな生涯を追っていく作品です。メタ的な読み方は慎むべきですが、それでも、本文中の紫宮の短歌からそれに関する批評から註釈までが、著者である高原さんから産み出されたのだと考えると圧巻ですよね。実在の人物や歴史的背景に造詣があるからこそ、本作のような「極度に文系な魂」のこもった素晴らしい作品が出来上がったのだと思います。
    ここからは作品自体の感想ですが、本作、何よりも紫宮透という人物の魅力が間然とすることなく際立っています。 紫宮透の歌人としての出発点が塚本邦雄というところが、まさしくゴス的かつ高原さんの他著(特に『ゴシックスピリット』)にあるようなイメージを体現させるようであり、高原さんの著作の耽読者である私からみて、とても魅力的なキャラクターでした。本作では彼の歌を初期のものから順番に繙いていくわけですが、晩年に向かうにつれ、初期にあった物々しさやおどろおどろしい作風がガラリと変化したり、解脱を思わせる感性の作品が増えていくところなどは、なるほど「その手」の作家たちの生涯と似通っている部分もあって頷ける部分もあり…とにかく80年代のゴス作家の雰囲気が余すところなく伝わってくるのです…。
    彼岸と此岸を彷徨い、あっけなくその存在を晦ませてしまった紫宮透の生涯は、短くもやはりはるかな、永遠のものとなりました。それはまるで、満ちてきた大波のような、力強く刹那的な生命の奔流…。本作と彼の歌とを通して、私もまたひとつの永遠に溺れることができたように思います。

  • リリース:和朗さん

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著者プロフィール

高原英理(たかはら・えいり):1959年生。小説家・文芸評論家。立教大学文学部卒業、東京工業大学大学院社会理工学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。85年、第1回幻想文学新人賞を受賞。96年、第39回群像新人文学賞評論部門優秀作を受賞。編纂書に『リテラリーゴシック・イン・ジャパン 文学的ゴシック作品選』『ファイン/ キュート 素敵かわいい作品選』、著書に『 ゴシックスピリット』『少女領域』『高原英理恐怖譚集成』『エイリア綺譚集』『観念結晶大系』『日々のきのこ』ほか多数。

「2022年 『ゴシックハート』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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