ケン・ローチ: 映画作家が自身を語る

制作 : グレアム フラー 
  • フィルムアート社
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感想 : 1
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784845900114

作品紹介・あらすじ

『ケス』『レイニング・ストーンズ』『レディバード・レディバード』…人々への厳しさとあたたかさをもったリアルなまなざし。映画のアクティヴィストの全証言。

感想・レビュー・書評

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  • この本では、ケン・ローチの長年に渡るインタビューを通して、それぞれに時代に彼がどんな状況の中で映画製作に向き合っていったのかが詳細に語られている。英国のドキュメンタリー界に詳しくないと、正直でてくる脚本家やプロデューサーの個人名についていくのはとても大変だ。

    しかしこの本の面白いのは、彼の関わって来た映画やドキュメンタリーはいつも何かしら政治的にセンシティブな問題を含んでいて、だからこそそれぞれの時代で受けた検閲や製作におけるエピソードに事欠かないことであり、そのエピソードを通じてその時代時代の社会を見つめることができる。

    とくに彼がケニアで児童保護基金のためのドキュメンタリーをつくったくだりは(p.119~)圧巻だった。ケン・ローチが基金の仕事で撮りにいったケニアの学校が、「新植民地主義の実践であり、ほとんど西側を向いた文明化された召使いになる中産階級の人々を育成して」(p.120)いる様子を撮ったこと。
    また彼が演出した戯曲で、反ユダヤ主義の疑いをかけられて混乱に陥ったエピソード(p.133~)は、ヨーロッパにおいて当時からおそらく今でも続いている反ユダヤ的なものへの過剰なまでの敏感さを表していると思った。

    そして、映画監督としてのケン・ローチの独特のあり方、彼の言葉で俳優さんたちの演技を指導したり作り上げるのではなく、演技できる環境を作って、彼らから生まれでる表情や言葉を大切にするスタイルについても、彼自身の言葉できちんと語られている。

    ケン・ローチが90年代に数々の名作映画を手がけたことに関して、
    「攻撃的なサッチャーの政策が万人にもたらした人間的な窮状の凄まじい犠牲を、私たちは本当にスクリーンに投影していなかった」ことで「自分自身を不満に思っていた」ことを理由に挙げている。(p. 191)
    「社会に二つの階級が存在」していて、「一方は他方を犠牲にして生き残」(p.192)っているなかで、ケン・ローチはいつも犠牲にされている人たちと同じ視点から映画を撮っているのだ。


    彼はサッチャー政権を代表するものがもたらした彼の見る「経済的衰退」に対して楽観的ではありえない、とした上で、「長期的見ると人々がいつも食い止めるので」楽観的であるという。そして彼に撮って映画を撮ることは、まさに人々が食い止める行動をしているものを表現することであり、その回復力をものにすることであると述べている。(pp.196-197)

    ケン・ローチの作品に惹かれるのは、彼の映画は盛大なハッピーエンドはくれないが、こういう人々が自分の手で手にした救いを、いつも最後にちょこっとだけ提示してくれたり、希望の光を観るものの目に映してくれるからなのだ。

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