習近平の敗北 - 紅い帝国・中国の危機 -

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  • ワニブックス
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  • Amazon.co.jp ・本 (351ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784847098154

感想・レビュー・書評

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  • 中国の習近平政権が抱える様々なリスクについて解説した書。2019年刊行なので、2年前の状況が描かれている。

    著者は、習近平政権は「経済の急減速、権力闘争の激化、解放軍内の不満・不穏、国家指導者としてのカリスマ不足など」に直面しているという。そして、今の中国は「大木がシロアリにむしばまれて中はボロボロ。でも、見た目は立派に立っている」状況なのだと。要するに、いつ崩壊してもおかしくない状況とのこと。習近平政権の権力基盤は磐石で、国家経営も安定しているように見えているので、ここまでのリスクを抱えているとは、ちょっと意外だった。本書刊行後に起こったコロナ禍でも、中国は感染源であるにも関わらずいち早く立ち直り、欧米や日本を尻目に経済が堅調ように見える。実際のところどうなんだろう。本書が指摘するリスクは小さくなったのだろうか?

    「過去10年来、中国企業は高速で拡張し、資産も負債も拡張してきたが、それは技術力によるものでも、成長エンジンのおかげでも、利益や自己資金によるものでもない。それは銀行から金を借り、社債を発行しまくり、シャドーバンクに頼ってきたから」なのだという。中国経済の成長は、ひとえに銀行と不動産業が支えてきたのであり、普通の企業の利潤はほとんどないのだと。中国には、潤沢な資金が投下されて政府の庇護の下順調に成長した優良ハイテク企業が多いのかと思っていたが、実態はどうやら違うようだ。力強く見える中国経済は張りぼての虎だったのかも知れないな。 「中国人は資産の8割前後を不動産でもっていて、家計債務の7割が不動産、地方財政収入の7割が土地譲渡」というから、不動産バブルがはじけたら、中国経済はひとたまりもない、ということだ。

    また、習近平政権が推し進める、国有企業を優先させ、民営企業へのコントロールを強化する「国進民退」方針も、民間企業の活力を削いでしまうかなりヤバい政策なのではないか。そういえば、中国当局を批判したジャック・マー氏(アリババ創業者)が一時行方不明になっていたようだし。政府による管理・統制が強まると、イノベーション力は確実に落ちると思うけどな。どの国においても、ミクロ経済に政府が介入して上手くいった試しはないはず。

    「国産品の供給量を増やし、外資を組み込まない国内産業チェーンを構築し、外国製品、輸入製品を市場から追い出し、中国の巨大市場を中国国内産業チェーンで支えていく」"サプライサイドの構造改革" も、「民営企業の国有化や小規模国有企業を併合して、産業をメガ国有企業に独占させる形で、産業界全体に対する党の指導を強化する」ということだから、企業間の競争が失われ産業を弱体化させてしまうのではないだろうか。

    中国のビジネスリスクを改めて考える必要がありそうだ。

    「中国でAIやITが発展した最大の理由は、「人民をコントロールせねばならない」という切実な事情があったからではないか」という指摘もなるほどと思った。

  • 足で稼いだ情報が多い。
    取材源を秘匿する必要上、確定的な情報を得ていたとしても、伝聞調だったりぼかして書いたりせざるを得ないのは仕方ないのかな、と。

    読者の関心のありそうなテーマごとに一応区切って書いてはいるが、それぞれ断定的な口調ではないので散漫な印象は残ってしまう。
    ただ、これは著者の責任というよりは、Chinaの現状そのものの反映なのだろう。

    Chinaの明日を一本筋で書けるほど習近平の思い通りには動いていない、と。

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著者プロフィール

ジャーナリスト、中国ウォッチャー、文筆家。
1967年、奈良市生まれ。大阪大学文学部卒業後、1991年、産経新聞社に入社。上海復旦大学に業務留学後、香港支局長、中国総局(北京)駐在記者、政治部記者などを経て2009年に退社。以降はフリージャーナリストとして月刊誌、週刊誌に寄稿。ラジオ、テレビでのコメンテーターも務める。
著書に、『習近平 最後の戦い』(徳間書店)、『台湾に何が起きているのか』『ウイグル人に何が起きているのか』(以上、PHP新書)、『習近平王朝の危険な野望』(さくら舎)、『孔子を捨てた国』(飛鳥新社)など多数。
ウェブマガジン「福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップス)」を連載中。

「2023年 『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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