メロディアの笛―白秋とその時代

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  • ながらみ書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784860237486

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  • 銀笛のごとも哀しく単調【【ひとふし】に過ぎもゆきにし夢なりしかな
     北原 白秋

     本年度(2012年度)の第10回日本歌人クラブ評論賞受賞作は、渡英子「メロディアの笛」。北原白秋の20代から30代の仕事にスポットをあて、〈表現者・白秋〉像を描いた著書である。
     白秋は、短歌だけではなく、詩や童謡など多くのジャンルで活躍した。そこから、「自らの感動を核に表現手段を選ぶ表現者」像を導き出した本書は説得力がある。
     芸術至上主義者とも言える白秋は、歌集を編むにも、過去と同じ趣向のものは決して出そうとしなかった。装幀も、美を追求するあまり採算は度外視。出版社側は経営面でリスクも高かったことだろう。
     主宰創刊した雑誌は、数年後にはことごとく廃刊となった。だがそれは、白秋自身の創作意欲が「主宰誌を創刊することと連動」していたからだという。意欲を刺激しない雑誌ならば廃刊、という潔い表現者の生が思われる。
     これまで多くの白秋論が書かれてきたが、20代の白秋が、時代の趨勢【すうせい】と逆行する歌作を試みていたという指摘はたいへん興味深い。たとえば、結社「アララギ」の歌人たちは万葉集偏重に流れていたが、白秋はむしろ、古今集の美意識こそ範と見ていた。掲出歌も、青春が過ぎていく感傷を「夢」であらわすという勅撰和歌集の伝統を受け継いでいる。
     後世には日記を残さなかった白秋。その代わり、濃厚で幅広い交友関係、また何より多彩な作品が、日記を超える存在感を示している。

    (2012年6月3日掲載)

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