自己中心の文学: 日記が語る明治・大正・昭和

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  • 博文館新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861151620

作品紹介・あらすじ

日記文の真価は自己中心の描写にあり。日記-記録。独白。そして体から出た汗のしずく。

感想・レビュー・書評

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  • 2015/3/13購入

  • わがためにともに撮りたる写真【え】にそむきわれのみひとり逃れけるかな
     河田誠一

     私事ながら、学生時代の趣味の一つは古書店めぐりだった。元の持ち主の書き込みがあっても楽しく、たまに、百円札などがしおり代わりに挟んであると喜んで買ったものだ。とはいえ、古書に故人の日記帳が紛れているとは、気付かずにいた―
     古書店主で、著書も多数ある青木正美のエッセー集に、他人の日記をテーマとしたものがある。有名無名にかかわらず、遺族が本と勘違いして売ってしまったのだろう。夭折の詩人河田誠一の日記も、ひっそりと段ボールに入っていたという。
     河田は1911年(明治44年)、香川県生まれ。10代から詩歌雑誌の投稿者として知られ、当時の日記には、多数の文芸雑誌を読んだことや、編集者とのやりとりも書かれていた。さらに、軍事教練で「くつずれは悲し、足痛し」と弱音を吐いたり、従妹【いとこ】との複雑な恋の話題なども。
     日記はそこで終わり、上京。大学予科にあたる第二早稲田高等学院で、後の「肉体の門」の作家田村泰次郎と出会い、親友となった。
     小説も書き始め、田村や坂口安吾らと同人誌を創刊。河田の詩の才能と早熟さについては、後に田村も回想しているが、満22歳で結核に命を奪われてしまった。没後、仲間の尽力で詩集が刊行されたが、今となっては知られざる詩集でもある。
     掲出歌は晩年の作。仲間と撮った写真を手に、自分1人、早々に彼岸に渡ってしまうことへの悲しみだろう。この短歌連作のタイトルは、「哭【な】く」であった。

    (2014年9月7日掲載)

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著者プロフィール

1933年東京生まれ。53年、葛飾区堀切に古本屋を開業。商売のかたわら近代作家の原稿・書簡、無名人の自筆日記などの蒐集に励む。『肉筆で読む作家の手紙』(本の雑誌社)、『古本屋群雄伝』(ちくま文庫)、『東京下町古本屋三十年』(青木書店)など、著書多数。

「2018年 『文藝春秋作家原稿流出始末記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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