- Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
- / ISBN・EAN: 9784861829512
作品紹介・あらすじ
サーガはここから始まった!
高校を卒業して自立のときを迎えた双子の兄弟を取り巻く貧困、暴力、薬物――。そして育ての親である祖母への愛情と両親との葛藤。全米図書賞を二度受賞しフォークナーの再来とも評される、現代アメリカ文学を牽引する書き手の鮮烈なデビュー作。
「デビュー作には作家のすべてがある」とはよく聞く言葉だが、本作はただ舞台が同一であるという以上に、後続の作品でも一貫して問われ続ける貧困、人種、格差といったテーマや問い、そして事物(人物、動物、植物、薬物)が描かれている。
(…)南部の黒人コミュニティが人種差別だけでなく階級的にも虐げられた存在であることは、カトリーナ後の政府の対応の酷さによりアメリカのみならず世界中が知ることになった。しかし、そもそもカトリーナ以前から南部の黒人たちが過酷な生を強いられていることを『線が血を流すところ』は痛烈に突きつける。その筆致に、一切の容赦はない。
青木耕平「狼の街(ウルフ・タウン)の慈悲深い神――ジェスミン・ウォードが刈り取れなかった男たち」より
感想・レビュー・書評
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「骨を引き上げろ」「歌え、葬られぬ者たちよ、歌え」のジェスミン・ウォードのデビュー作。
舞台は、アメリカ南部、架空の街ボア・ソバージュ。双子の兄弟クリストフとジョシュアを中心としたデリル一家の物語。
双子の兄弟が高校を卒業するところから物語は始まる。貧困、暴力、薬物。都会へ出た母親。家族を捨てた破滅的な父親。
育ての親である祖母への愛情と、コミュニティの閉塞感が強く印象に残った。
気になるところがひとつあり、、ちゃんと読み取れていないかもしれない。
ジェスミン・ウォードが書いたものをもっと読んでみたいとおもった。回顧録「私たちが刈り取った男たち」は未邦訳、読みたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
Jesmyn Ward | Official Publisher Page | Simon & Schuster
https://www.simonandschuster.com/authors/Jesmyn-Ward/547648874
作品社|線が血を流すところ
https://sakuhinsha.com/oversea/29512.html -
ジェスミン・ウォードの2冊目をやっと読了した。数週間を共にした「線が血を流すところ」。
数ページしか読めない日もあったが、本を開くとミシシッピ川下流の湿地帯が広がり、茶色い川が流れている架空の町「ボア・ソバージュ」があり、18歳の双子の兄弟ジョシュアとクリストフと祖母のマミーが生活をしている世界がそこにはあった。ボア・ソバージュを少し離れるとKKKが跋扈していて、貧困、差別、暴力、薬物が当たり前にようにあり、翻弄されてはいるけれど、最後の一線は超えない日常の家族愛が描かれていた。
それはジェスミン・ウォード曰く、「現実世界では本当に酷いことが私たちに起こっていたから、物語の上で登場人物たちにこれ以上辛い思いをしてほしくなっかた」という彼女の登場人物に対する深い愛があったからだ。
登場人物のジョシュアという名前は、亡くなった彼女の弟と同じ名前。「ボア・ソバージュ」を舞台にした作品は3作品あるが、どの本にも冒頭に弟ジョシュアへの献辞が記されている。彼は19歳の時に泥酔した白人の車に衝突されこの世を去った。裁判では5年の実刑と1万4千ドルの賠償金が課せられたが、結局3年2ヶ月で出所し1ドルも支払うこともなかったそうだ。
この作品は彼女のデビュー作で、2作目からは情け容赦ない語りをするそうだ。すでに3作目は読んでしまったけど、2作目の「骨を引き上げろ」が楽しみだ。 -
『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』を読んでから、ボア・ソバージュ三部作の始まりの物語である本書を読んだ。
高校を卒業する時からの双子の、異なる日々の営み。クリストフの心情、堕ちていく様子に心がヒリつく。
これが南部の黒人たちの日常なのかと思いきや、実際はより過酷であると、別のインタビューで著者が言っている通り、不穏を感じつつも、どこか希望を感じて読み終えることができる。
黒人たちの職、生活、コミュニティの繋がりと親族間の強い絆。外の白人至上主義者。 -
人は苦しい時にこそ本性が出るというが、まさにその部分を出しているなあと感じた本だった。主人公の兄弟の1人は、就職が思うようにいかない時に、素直になれない言葉と行動があり、従兄の世話とは言え、すこしダークサイドに足を踏み入れてしまう。そこが日本と違うのかなと思った。
ただ、黒人を主人公にした物語でありながら、差別が全面的なテーマではなく、むしろ一切その雰囲気を出しておらず、珍しいと思った。閉鎖的であるが故の、人とのつながりが描かれており、そこが良いと思った。