サッカースカウティングレポート 超一流の分析

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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862550378

作品紹介・あらすじ

アトランタ五輪、フランスワールドカップにて、世界の強豪チームを徹底分析した、日本代表スカウティングの第一人者がその理論のすべてを明かす!プロの現場では、どのような情報収集が行なわれているのか。分析する際のポイントはどこなのか。本書を読めば、サッカーの"本質"が見えてくる。

感想・レビュー・書評

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    分析のためには 、相手チ ームの特徴をしっかり把握しなければなりません 。ただし 、特徴をつかむだけでは意味がない 。例えばヘディングの強い選手がいた場合 、 「彼はヘディングが強い 」とわかったところで具体的な対策は思い浮かびません 。大事なことは 、最大の目的であるチ ームの勝利のために 、強力な武器を持っている選手をどう抑えるかなのです 。そのためには 、その選手がどういうときに輝きが増し 、逆にどういう状況になると活躍できていないかを調べる必要があります 。

    相手チ ームの特徴を自分たちの選手に伝えるわけですが 、これが非常に難しい 。通常カギを握る選手を何人かピックアップして 、象徴的なシ ーンなどを映像にまとめて 、ミ ーティングで紹介していきます 。ですが 、何シ ーンも数多く見せたところで 、実際に対戦する選手たちにとっては印象の薄い情報になってしまいます 。だから 、このシ ーンを観れば相手チ ームや選手の特徴がわかるという場面を見つけていくのです 。インパクトのある映像をワンシ ーンで見せる方が 、選手の脳裏に深く特徴が残ります 。


    その人に 「観る眼 」がなければ 、スカウティングはできません 。

    鑑定士は 、偽物をどれだけ見ても目利きにはなれないそうです 。本物をどれだけ見たかで眼が養われると聞いたことがあります 。ハイレベルな本物の試合をたくさん観ているからこそ 、直感的に違和感を覚えるのでしょう 。

    勝負を決めた真のポイントはそのプレ ーの 2つぐらい前 、あるいはボ ールと関係ないところにあることが多い 。 F Wがゴ ール前に斜めに走り込んだ動きだったり 、パスを受ける前のステップだったり 、得点を決めた選手をフリ ーにした囮の動きだったり … … 。

    「観る眼 」というのは 、 「重要なポイントを予測する力 」と言い換えることもできるでしょう 。そのような力を身につけると 、得てしてボ ールのない場所に監督の意図が見えてきます 。

    分析するための情報は多ければ多いほどいいのですが 、伝える情報は短い方が効果的です 。

    以前は 、自分の考えを書き止めるためのノ ート 、相手チ ームを分析するためのノ ートといった具合に細かく分けていたのですが 、結局バラバラで収拾がつかないことに気づきました 。だから今は 、すべてを 1冊のノ ートにまとめて時系列で書き込むスタイルをとっています 。

    チ ームの意図や狙いを理解することも大切です 。まずは自分たちがやりたいサッカ ーのコンセプトを確認する 。それに対して相手はどんなプレ ーをしているか 。相手の動きに合わせて対応するという受身の発想ではなく 、自分たちのコンセプトと照らし合わせたうえで相手のチ ームを分析していくのです 。

    成功しているコ ーチに共通しているのは 、選手たちの心をつかめること 。選手たちが言われてトレ ーニングするのではなく 、自分たちから進んでやっていることです 。私自身 、かなり頭を使いました 。トレ ーニングメニュ ーには緻密さが必要ですが 、緻密そうに見せると選手たちは息が詰まります 。本当は緻密であっても 、現場ではおおざっぱなふりをしておおらかな空気を出さないと選手たちはついてこないこともあるでしょう 。選手たちは繊細なので 、かける言葉は慎重に選ばなければなりません 。言い過ぎてもダメだし 、言葉足らずでも信用してもらえません 。選手たちを混乱させずに 、それでいて正しい方向に導くような声をかけるのです 。

    選手たちをやる気にさせる本当のコ ーチとは 、理論に裏付けられた説得力のある言葉を持つ人のこと 。それともう 1つが 「人間力 」 、人を惹きつける力を持った人です 。最終的に選手たちを動かすのは 「あの人のためにがんばろう 」という気持ちだったりします 。

    相手チ ームをスカウティングするときは 、押さえておくべきいくつかのポイントがあります 。あくまで目安ではありますが 、 【システム 】 【プレ ースタイル 】 【攻撃 ・守備の中心選手 】 【攻撃パタ ーン 】 【守備パタ ーン 】 【選手個人の能力 】 【セットプレ ー 】あたりが項目として挙げられます 。

    最初に確かめるのが 、システム (フォ ーメ ーション )です 。 4 ‐ 4 ‐ 2なのか 3 ‐ 5 ‐ 2なのか 、あるいは 4 ‐ 2 ‐ 3 ‐ 1なのか 。私自身並び自体にはそれほど重要性を感じていませんが 、その奥にある意図を探るために押さえておくのです 。

    その次がマッチアップの確認 。自分たちが 3バックで相手が 2トップの場合 、相手の 2トップを D Fの 3人が見ていると判断するのです 。

    フォ ーメ ーションを見るときに大切なのが 、 「サッカ ーは 1 1人対 1 1人で行なう 」という基本を忘れないことです 。

    おおよそのコ ーチは数的優位を作るのに選手を 1人余らせたい (フリ ーの選手を作りたい )と考えるものです 。攻撃を考える場合でも守備を考える場合でも 、数的優位を作るのは重要なポイントになります 。

    フリ ーにしても構わないという選手なり 、ポジションなり 、あるいはエリアなりを決めるのです 。

    1トップの場合 、いくつかの意図に分けて考えることができます 。 1つは 、中盤を厚くすることで守備面のリスクを軽減して 、 1トップをタ ーゲットに少ない人数で攻撃を完結させ 、そのぶん守備を重視しようとする考え方 。

    もう 1つは 、 1トップの周りにあるスペ ースを有効活用して 、 2列目 、 3列目の選手が果敢に飛び出していく攻撃を重視した考え方

    大きく分けると 、自分たちでボ ールをつないで攻めるポゼッションプレ ーと 、できるだけ早く F Wにボ ールを当てて攻めるダイレクトプレ ーが挙げられます 。

    同じダイレクト系であっても 、アクション系 、リアクション系 、個人技主体的 、組織的などがあり 、傾向はあっても特色が独立していることは少ないのです

    攻撃パタ ーンに関して分析する際に 、まず確認するのがビルドアップです 。最終ラインから中盤にかけた構成と 、そこでのビルドアップの方法を観れば 、そのチ ームが 、どこで 、どのように数的優位を作ろうとしているのかが見えてきます 。

    どの方向に追い込み 、ボ ールを奪おうとするのかをチェックすれば 、チ ームとしての守備の志向が見えてきます 。大きく分けると 2種類 。 1つは中から外に追い込み 、縦パスを出させて奪う 、狭いエリアに蓋をするイメ ージのシ ールオフ 。もう 1つは縦パスを出させないように網を張って 、横パスを狙うネットディフェンスとも呼ばれる守り方です (図 8 )

    2つの守り方に共通していることは 、 「ここはやらせない 」 「ここでボ ールを奪うんだ 」という共通意識に基づいてチ ーム全員が連動して守るところです 。

    ブロックの中に入り相手に身体を寄せられながらボ ールを受ける 、そして一瞬で展開を変えるようなパスを出す 。そういう選手がものすごく貴重なのです 。ブロックの中で受けられる選手がいないと 、最後はロングボ ールに頼らざるを得なくなってしまう 。そうなると 、最終的に体格的に優位なチ ームが有利になります 。

    アウトサイドを誰が見るか 、ボランチを誰が見るか 、そこも面白いポイントです 。私自身 、ゲ ームをざっくりと読むため 、最も意識して観るポイントです 。

    そのチ ームのウイ ークポイントを探るときは 、スペ ース 、マ ークのずれ 、ボ ールウォッチングの 3点だけは必ず押さえるべきポイントとなるでしょう 。

    スカウティング分析ポイント相手チ ームを分析する際のポイントは数多くあります 。さまざまな要素が絡み合うため 、あくまで目安にはなりますが 、 2章の内容をまとめていますので 、観戦の際に活用してみてください 。システム相手チ ームのシステム (並び )を見て 、情報を集めていく ▼フォ ーメ ーション ( 4 ‐ 4 ‐ 2 、 3 ‐ 5 ‐ 2 、 4 ‐ 2 ‐ 3 ‐ 1 … e c t )自チ ームと並びを比較して 、マッチアップを確認 。 「ボ ールがここにある場合 」を何パタ ーンか想定して 、両チ ームの選手たちが取るだろうポジションをイメ ージする 。それによって数的優位 ・数的不利がどこに作られているのかが見えてくる 。 ▼トップの配置 ( 1トップ 、 2トップ 、 3トップ … e c t )トップの配置から 、おおよその攻撃の意図を把握していく 。同じ 1トップでも 、守備を重視するためだったり 、前線に飛び出すためだったりするので 、どのパタ ーンなのかを見極める 。プレ ースタイルチ ーム全体として 、どのようなプレ ーを志向しているのかを確認する ▼プレ ースタイル (ポゼッションプレ ー 、ダイレクトプレ ー … e c t )大きく分けると 、ボ ールをつないで攻めるポゼッションプレ ーと 、できるだけ F Wに早くボ ールを当てて攻めるダイレクトプレ ーが挙げられる 。おおよその傾向を把握することで 、対策が立てやすくなる 。 ▼得点パタ ーン ・失点パタ ーンチ ームの長所と短所が如実に表われることの多い得点パタ ーン ・失点パタ ーンは 、細かい分析のための入り口になる 。数試合分のデ ータを蓄積することで精度が高まっていく 。攻撃 ・守備の中心選手攻守のキ ーマンは誰か 。どのようなタイプの選手かを把握する ▼プレ ーメ ーカ ーチ ームの中心として 、攻撃を組み立てる選手のこと 。オンザボ ールだけではなく 、オフザボ ールの動きによって 、チャンスメイクしていることがある 。 ▼プゴ ールゲッタ ー得点能力の高い選手のこと 。ゴ ールへの嗅覚を持つ選手は要注意 。 ▼ホットラインの特徴を把握する絶妙なコンビネ ーションを持つ 2人が誰かを把握する 。チ ームの得点源となっているので 、特別の予測を立てる必要がある 。 ▼ D Fリ ーダ ーラインをコント ールしている選手が誰かを把握する 。 D Fリ ーダ ーにボ ールを持たせないようにプレッシングをかけて 、仕事をさせないという戦い方もある 。攻撃パタ ーン攻撃に関してどのようなパタ ーンがあるのかを見抜く ▼ビルドアップの方法最終ラインから中盤にかけた構成と 、ビルドアップの仕方を観れば 、数的優位をどように作ろうとしているのかがわかる 。 ▼スペ ースクリエイトのパタ ーンどのようにスペ ースを作り 、どのようにスペ ースを作っているのか 。チ ームの約束事であったり 、特定の選手の動きが決まっている場合もあるので 、選手の組み合わせをつかむ 。 ▼カウンタ ーのパタ ーンショ ートカウンタ ー 、ロングボ ールからのカウンタ ー 、コレクティブカウンタ ーなど 、相手が得意なパタ ーンをつかんでおく 。起点となる選手が誰なのかを 、把握する 。 ▼サイドの使い方とクロスの傾向いろいろな選手が飛び出してくるのか 、ウイングを張っているのかを把握する 。クロスは 、ア ーリ ークロスやハイクロスなど 、得意なパタ ーンを確認する 。守備パタ ーン守備に関してどのようなパタ ーンがあるのかを見抜く ▼守備のスタイル (フォアチェック 、リトリ ート … e t c )高い位置からプレッシングをかけてボ ールを奪おうとするフォアチェックをしているのか 。ラインを決めてしっかり引き 、そこにブロックを作って守るリトリ ートをしているのか 。 ▼プレッシングのかけ方中から外に追い込み 、縦パスを出させて奪うシ ールオフか 、縦パスを出させないように網を張って 、横パスを狙うネットディフェンスか 、プレッシングのかけ方を確認する 。どの方向に追い込み 、ボ ールを奪おうとしているのか 、守備の志向を把握する 。 ▼アウトサイドとボランチをどの選手が見るのか 1人が 1人につきづらいポジションである 、アウトサイドとボランチを誰が見ているのか 。そこでの対応から 、チ ームコンセプトと同時にウィ ークポイントも見えてくる 。 ▼最終ライン 3バック 、 4バックあるいは 5バックが基本 。守り方には 、 「ボ ールを中心にする 」 「ゴ ールを守ることを中心にする 」 「スペ ースをいかに埋めるかを中心にする 」 「人と人を中心にする 」の 4通りくらいの発想がある 。 ▼高さへの対応身長のある選手に対して 、どの選手が対応し 、どのようにマ ークを受け渡しているのかを確認する 。 ▼ G Kと D Fの連係を確認する G Kがビルドアップにどれだけ参加しているのかを確認する 。 ▼ D Fのウィ ークポイントを確認するどこにスペ ースができるか 。マ ークのずれは起きていないか 。 D Fの選手が振り向くときに苦手方向があるか 。ボ ールウォッチングの癖があるか 。選手個人の能力選手それぞれの能力がどれくらいかを把握する ▼身体能力身長や体重 、そして体の強さや 、ヘディングするときの高さなどを確認する 。 ▼スピ ードドリブルスピ ードや 、ランニングスピ ードが卓越した選手は 、注意が必要 。オンザボ ールとオフザボ ールでのスピ ードの違いにも注目する 。 ▼テクニックボ ールコントロ ールの技術 、パスの精度や質 、キックの正確性を確認 。オンザボ ールとオフザボ ールでのテクニックの違いにも注目する 。 ▼判断力 (インテリジェンス )技術を活かすために重要な要素 。グッドプレ ーヤ ーかどうかを見極めるための条件として大きなウエイトを占める 。特に 、ボ ールを受けたとき 、オフザボ ールのときの動き方を確認する 。 ▼利き足 、及び利き足依存度利き足はどちらか 。利き足により 、フェイントのかけ方も変わってくる 。それによって 、プレッシャ ーをかける方向を考えていく 。 ▼メンタリティチ ームが苦しいときに強いメンタリティを発揮できるか 。ただし先入観を持つことは危険 。積み重ねから判断する 。セットプレ ー攻撃に関して ▼キッカ ーの蹴り足と球質右足キッカ ー 、左足キッカ ー 、そのどちらもがいるのか 。またキッカ ーのボ ールスピ ードやボ ールの曲がり具合なども確認する 。 ▼トリックプレ ーのパタ ーンチ ームとしてのトリックプレ ーのパタ ーンを確認する 。練習時にわかることが多い 。 ▼スペ ースの作り方フリ ーキックのときは 、一度サイドに振ってから折り返すなどでフリ ーの選手を作る動きを把握する 。コ ーナ ーキックのときは 、ゴ ール前にいる選手が 、どのようにスペ ースを作ろうとしているのかを確認する 。セットプレ ー守備に関して ▼壁の作り方壁に必要な枚数は決まっているので 、どのような攻防を演じているかを確認する 。 ▼カウンタ ーの狙い方 F Wの残り方から 、カウンタ ーをどのように狙っているのかを確認する 。 ▼ G Kの守備範囲 G Kの飛び出し方 、シュ ートに対する反応速度 、得意不得意なコ ースなどを確認する 。 ▼ポジション取り選手たちのポジション取り 、ショ ートコ ーナ ーなどへの対応 、マ ークの甘い選手がいるかも把握しておく 。

    西ドイツ代表の監督としてワ ールドカップ優勝も経験しているヘルム ート ・シェ ーンは 、こう言っていました 。 「私は 1 1人の選手を選び 、あとはリザ ーブでも耐え得る選手でチ ームを構成する 」

    小さな自信を与えることで 、 1つの小さな成功が生まれる 。そしてそれがさらに少し大きな自信へとつながる 。その地道な作業を繰り返していきながら 、自分たち本来の溌剌としたサッカ ーを作り上げていくこと以外に方法はなかったのです 。

    そこで活用したのがビデオです 。対戦相手のビデオも観ましたが 、自分たちのトレ ーニング風景を録画して 、選手たちの動きを細かくチェックしました 。紅白戦のときは屋根の上に登って 、全体の動きがわかるような画を撮りました 。それが大きかった 。ビデオを観ながら 、 「最初はこんな問題点があったけど 、ハ ーフタイムを挟んでからはこんなに良くなっている 」と伝えるのです 。問題点を指摘するのではなく 、自分たちで解決する力があることを 、ビデオという証拠を見せることで確認する 。

    2枚同時に代えることで 、大きくシフトチェンジする場合 。 2トップを 3トップにするなど 、大幅に戦術を変えて戦う場合です 。また 、本当の意図を隠すという方法もあります 。これは戦術としては面白い 。しかも 、相手に対して意図を隠す場合と 、味方に対して意図を隠す場合の 2パタ ーンあります 。

    ミ ーティングのとき 、監督が話す内容は人によってさまざまですが 、おおよそは試合のコンテクスト (背景 、行間の言葉 ) 、そして基本となるチ ームコンセプトの再確認 、対戦相手の注意点や狙い目などになると思います 。試合のコンテクストとは 、この試合が自分たちにとって 、あるいは相手にとってどのような状況で起こっているものなのか 、どのような位置づけなのかということ 。




  • 日本代表でも、数々の試合でスカウティングをした小野剛氏のスカウティングのやりかた、実際の経験の本。

    スカウティングは、試合等や相手を分析し、最後に勝利のためには集めた情報をどのように整理するかが鍵である。そのためには、集めた情報を取捨選択することの必要性をまとめている。また、スカウティングのポイント等もまとめている。

    実際に、スカウティングをするような人にはよいが、他の人には若干ものたりないかもしれない。スカウティングではこのようなことをやっていると学には良い本だと思う。

  • 今回のワールドカップをきっかけに、サッカーを勉強したいと思って買った本の中の一冊。
    『サッカーの見方は1日で変えられる』(木崎 伸也)も同時並行して読んでいたが、木崎さんの本がよりサッカーのプラクティカルな戦術面に注目して、見方をわかりやすく説明しているのに比べ、この本はサッカーがいかに深遠なスポーツかを、しっかり味あわせてくれる本だった。

    サッカーが、ただスポーツではなくて、そこには当たり前だけれど生身の人間が深くかかわっていて、サッカーというのはそういう人と人とのつながりの有機的な部分を理解してはじめて、サッカーの本当の面白さに気づくのだ、ということを気づかせてくれた。

    1章から、スカウティングのノウハウを通した戦術、選手の能力の見分け方など、かなりテクニカルで初心者には少し難しいことを含め、たくさんの見方を提示してくれる。
    そしてクライマックスは最終章である5章で、ここでは世界での戦いに勝つために、ということでフランスワールドカップの実録が載っているのだけれど、この章があったことで、今まで読んできたことが一気に収斂された気がした。

    わたしたちはいつも結果だけを観てしまうし、結果だけを見ることで生まれること、わかることももちろんあるけれど、プレーしている選手や監督やチーム全体が抱えているのは、やっぱりわたしたちには抱えきれない、聖域なんだな、ということが分かった。
    それを応援するってことは、勝ってるときだけ盛り上がって、負けると非難して、結果だけを見ることじゃない。


    正しい戦術がいつもいい戦術とは限らないこと、国家代表としてのサッカーとは何なのか、そしてそれが持つ吸引力は何か、今回日本代表が「ひとつになった」「いいチームだった」っていっていたことが、いかに意味深いものだったかを知らされた。

    そしてサッカーが反映しているものは、そのマクロではその選手たちの出身国社会の問題だったり、ミクロでは人と人とのインターアクションをどう構築するか、自分自身をどう表現するか、ってこと。

    そういう意味で、誰かの関係とか、この世の中のまわり方とかを考えるときに、サッカーが共通しているものって意外と多いなと思った。
    サッカーはもちろん答えをくれるわけではないけど、サッカーを見ることで、自分が生きていてぶつかる色んな問題がどこかで何かとつながっていること、を教えてくれる。
    そういう意味で、サッカーを見ることは非常に教育的だ。

  • とても面白かった。試合の見方、試合に向けての分析と選手への対応、そして、アトランタ五輪、フランスW杯での戦いの背景と内容的には十分過ぎる。守備的重視の戦いに見えていた岡田ジャパンの攻撃的戦略部分など見方を改めなければならない部分もあった。また、選手へのアプローチに関して、全体を通じて重要な示唆を提供しているので子供のサッカー指導をしている人にも読んでもらいたい。

  • とても勉強になる。サッカー観戦がより面白くなった。

  • こういう視野を若いうちから手に入れとくべき。凡人は研究、実践、研究。

  • 小野剛さんという、サッカー指導者の方の、まあ思い出話ですね。

    ●1996年のアトランタ五輪男子サッカー
    ●1998フランスワールドカップアジア予選
    ●1998年のフランスワールドカップ

    などで、「スカウティング」という、要は対戦相手を事前に分析して、自軍の対策を考える仕事をしていた方なんですね。

    それでまあ、思い出話。
    サッカーはミーハーに好きだし、丁度上記の頃はそれなりに日本代表は観ていたので。そこそこ面白かったです。
    というか、そういう世代が多いから商品として成立する本なんでしょうけどね。

    仕事が激しく忙しくなってくると、純粋に気分転換で、難しくない娯楽的な活字を読みたくなることがありまして。
    小説のフィクションに入り込む気力も出せないし。
    モノゴトを思考したりする精神力もない。
    そういうときには割と、こういう類のサッカー本とか読んだりします。

    まあ、漫画本でもいいんですけど。
    旅仕事の途中とかだと、とにかく荷物を増やしたくなくて、
    スマホで読める範囲に限定して読書するもので。
    漫画本だと画面が小さくって。。。

  • 戦術の勉強になると思って読み始めたが、タイトルとは裏腹に、筆者である小野剛さんのサッカーやフットボーラーに対する思いが伝わる「熱い」本だった。
    もちろんゲームの見方や分析のポイントがちりばめられていてとても勉強になったが、それ以上に、毎試合ごとに采配にツッコミを入れる僕ら「オレオレ監督」が考えもしないようなことを監督や選手が考えたり感じたりしていることがよく分かったのが何よりの収穫。
    そう、「選手はチェスの駒ではない」のですね。ウイイレやゲーム分析ばっかりやっていると忘れがちな当たり前のこと。もっと早く読んでいればよかったと後悔させられた素晴らしい一冊。全サッカーファン必読と言いたい。

    余談。ちょうど直前に「FOOT x BRAIN」という番組で小野さんの中国クラブチームでの奮闘が紹介されていたのを見ていたが、この本で書かれているサッカーへの情熱は間違いなくホンモノだった。

  • 日本代表コーチやサンフレッチェ広島監督を歴任した著者によるサッカーのスカウティング論。サッカー(観戦)好きとしてはもちろん面白かったし、サッカーにかぎらず凄い普遍的なことが指摘されていると感じた。

    スカウティングの目的は、選手を堂々とピッチに送り出すこと。相手が凄いと強調しすぎて萎縮させても、相手がしょぼいと侮らせてもいけないし、細かく指示を出しすぎて硬くさせてもいけない。

    何百本も動画を見て対戦相手の癖を見抜き、それがわかるシーンを集める。その中から端的に伝えたい事が伝わるように2,3シーンを選ぶ。選手には可能なかぎりシンプルな情報を提供するべきだ。

    「観る目」をどう養うか?
     全体を俯瞰(前線でボールが回っている時のDFラインやGKの位置も見る)し、良い試合をたくさん見る。そうすると「正常」状態がわかる。それがわかってはじめて、なにか違うな?と気がつくようになる。なにか違うな?と思った時間帯をメモしておき、あとから見なおして何が起きていたか考える。多くの場合FWとDFとの駆け引きがなされている。
     結果だけでなく、「プレーの本質」をみきわめる。どうしてもシュートや、その前のアシストに注目が行きがちだが、鍵となるプレーはその2つ3つ前だったり、ボールと直接絡んでいない選手の動きだったりする。(サッカー五輪代表マレーシア戦の清武→東のゴールシーンは、始めの頃清武のアシストばかり注目されていたけど、山本元五輪監督が、その前の扇原の縦パスで一気に局面が変わったと指摘して以降そのシーンが注目されるようになった気がする。)
     岡田監督とかは、試合前日に100通りくらいの試合の流れのパターンを考えてそれぞれどうするか考えている。その中から選手に予め何を伝えるかはまた考えなければいけない(0-2になったら、とかは伝えないでしょ、予めは)

     ノートは数冊で分類していたこともあったが結局1冊のノートに全てを時系列順に書くことに落ち着いている

     「マイアミの奇跡」は相手のミスが絡んだ奇跡だが、日本はそれを狙っていた(そちらがわから蹴り込むと一瞬ボールを見失う選手がいて、かつ、DFとGKの連携がいまいちという分析結果が出ていたから意識的にそこに放り込んでいた)

     フランスワールドカップ前は、日本も世界で基本では勝負できて、基本でないところが勝負を分けると思っていたが、実際は基本の差が圧倒的な差に結びつくことがわかった。

  • 元日本代表コーチだった小野さんが明かすサッカー分析法についての1冊です。
    実際にアトランタ五輪などの戦略を練っていた方なので、書いてあることが非常に詳細で具体的で、参考になりました。

    サッカーは観るの難しいですよね
    選手個人の身体能力、技能とは別に、チームの戦略を観ないとならない。
    でもゲームの流れは速い。
    速くても大まかな戦略は分かりますが、オフ・ザ・ボールでの動きや、隠された狙い、細かい処まではなかなかとらえきれない。
    より深く理解する為には、そういう処まで観たいと思うわけです。

    たとえば1トップのフォーメーションを組むチームがあったとします。
    1トップ=守備的?と思う反面、攻撃的なチームもあるよなあ、と記憶を手繰る。
    するとこの本では、トッティのローマとF・トーレスにジェラード、カイトがからむリバプールの例を出して説明されます
    FWをターゲットにする場合と、周囲の空いたスペースを生かす場合とがあるわけですが、そもそも何故1トップの戦略をとったのか、という事情から説明されて、本質の違いが良く分かります。

    4バックと3バックも良く話題にのぼりますね。
    結局、現代の戦術は、数的有利をどこで作るか、ということなんです。
    そうなると、3バックか4バックかは、相手チームの特徴と中盤との兼ね合いになります。
    すべては関連しているのですが、その関連の仕方が良く解説されている。

    プレスの掛け方でも、シールオフ(中から外に追い込み縦パスを奪う)かネットディフェンス(縦パスを防ぎ横パスを奪う)か、フォアチェック(高い位置から)かリトリート(ブロックを造る)かでの発想の違い。
    ふらふらしているFWの役割や、アルゼンチン独特の、前線プレスのダイレクト・プレー志向の指摘なんてオモシロかったです。(普通はポセッションするなら前線プレスだし、ダイレクト志向なら引き気味にしますが、アルゼンチンはハイブリッド)

    この本を読んだ後、録画の残っていたWカップ、ウルグアイvsガーナの延長を観たのですが、分かった気になれました(笑

    日本人の書いたサッカー本では、本物と言って良いと思います。
    アートから文学、音楽から他のスポーツに至るまで、全ての鑑賞対象物は見る目を養うと楽しみが増します。
    そして見る目を養うには、良いモノを沢山観ることが大切ですが、基本的な知識を身に付けておくと理解が早く、より深くなります。

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著者プロフィール

8章担当
IBITA基礎講習会インストラクター
1993年3月 群馬大学医療技術短期大学部作業療法科卒業
1993年4月 ボバース記念病院リハビリテーション部入職
2003年3月 人間環境情報学修士取得
2006年4月 森之宮病院リハビリテーション部異動
2010年 国際ボバース成人基礎講習会インストラクター認定

「2013年 『英国ボバース講師会議による ボバース概念』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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