集まる場所が必要だ――孤立を防ぎ、暮らしを守る「開かれた場」の社会学

  • 英治出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862763075

作品紹介・あらすじ

ここでは、誰もに居場所がある。
災害が頻発し、二極化が進む社会で、

私たちはどうすれば、安心安全に暮らせる

レジリエントなまちをつくることができるのか。



図書館、学校、運動場、託児所……。

あらゆる人種や性別、年齢や職業が歓迎される場所

「社会的インフラ」の価値を、社会学者が解き明かす。



1995年のシカゴ熱波で生死を分けた要因の一つが社会的孤立にあることを突き止めた著者。

多様な人々とつながることで、安心で安全な社会をつくり、私たちの暮らしと命を守るメカニズムが研究を通して徐々に明らかになっていく。



コロナ禍を経験した今こそ、私たちには集まる場所が必要だ。

感想・レビュー・書評

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  • 社会における、コミュニティーというものの大切さ。

    …それをわかっている人は多いと思う。けど、この本は、コミュニティーを作るのは概念的なものではなく、「物理的に」作ることが大事だと言っている。

    わたし個人的にも、人が集まる場所、第3の居場所、コミュニティー、というものをつくりたいと考えていたことがあるけど、建物の形や置くもの(またはなくさなければいけないもの)、雰囲気づくりなどをこんなに具体的に、問題の改善にダイレクトに繋がる対策が、まさかこんなに物理的なものだとは思ってもなかった。

    それと、図書館好きな者として、図書館の重要性を感じられたのは、なんだか嬉しかった。図書館は、万人にとってスーパーみたいに生活に欠かせないわけではないかもしれないし、病院みたいに必要不可欠な場所ではないかもしれない。でも、やっぱり、図書館はわたしにとってももちろんだし、社会にとってもなくてはならないものだと思う。むしろ、そういう文化的な場所があるからこそ、ひととして楽しく生きられるのだと感じるし、健康的に過ごしていけるのだろうな。

  • 以前から漠然と感じていた「貧困地区は一律リスクあるのか?」という疑問が、スッキリ解決しました。コミュニティを作るための環境を作るのは大事。自分も何らかお役に立ちたい。。

  • インフラには物理的(橋や道路、電力、通信など)と社会的(図書館、学校、公園など)に分けられ、本書では後者の、人々の交流を生む場である『社会的インフラ』の重要性について論じられている。

    社会的インフラが衰えると、人々が公共の場で過ごさなくなり、自宅に籠る時間が増え、社会的ネットワークが弱くなる。犯罪が増える。高齢者や病人の孤立。若者の違法薬物使用。社会に対する不信感、などにつながるとのこと。

    これは社会的インフラにあたるのかな?と身の回りで、置き換えて考えてみると面白い。生身の人間関係は億劫だと感じていたけど、無意識のうちに癒されたり、人との会話が心の健康に繋がっている感もある。

    興味深い点
    ●図書館がいかに可能性に満ちている場所か
    ●植物(緑)や景観が犯罪を抑止する効果があるという様々な研究結果
    ●歴史的な人種問題の影響、映画バーバーショップの話(P225)
    ●人間関係の構築には基本的には、物理的空間における繰り返しの関わりが必須だが、使い方によってはインターネットはマイノリティ同士の結束や、本来なら分断されるかもしれない人同士の架け橋になる側面もある(P243)
    ●子どもが公園で学ぶ民主主義(P195)

    社会的インフラの例
    ・図書館、学校、公園、教会、地下鉄
    ・学校、託児所の送り迎えの保護者やりとり
    ・ビアガーデン(ドイツ)、カフェ(フランス)、居酒屋、カラオケバー(日本)、温泉(アイスランド)
    ・サッカーの少年クラブなど家族ぐるみ
    ・様々な市民活動のコミュニティ

  • 人と繋がることよってもたらされる様々な利点と、それを可能にする社会的インフラとはどのようなものなのか書かれた本

    時には図書館、時には地域の農園、時には医療施設

    ただ、そこで人の繋がりが生まれるために必要な具体的な活動や形についてはまだここから明らかにしていくところといった感じかな。

  • 主張はわりと明快で、コミュニケーションがコミュニティをレ理事遠渡にするから、仕掛けとして集まる場所を整備せよ、図書館とかちょっとした溜まりとか。こすとてきにみあいますよ。だそうで。なんだけど。なんか続かなくてつまみ読みになってしまった。文章との相性なんだろうか。たまに起きる。こちら側の問題か。

  • 1995年7月に発生し多数の死者を出した「シカゴ熱波」の発生時、著者はカリフォルニアで学生生活を送っていた。
    生まれ故郷で発生した大惨事に衝撃を受け、フィールドワークを開始する。
    そこでわかったのは、人種や格差など社会学者が扱う一般的な変数と死者の分布図に明らかな相関が見られなかったこと。
    つまり、暴力が蔓延する貧しいマイノリティーの居住地区であっても、シカゴでもトップクラスの高級住宅街と同じくらい死亡率が低い地域があったのだ。
    なぜ大きな被害を受けると思われた地区で、それを回避できたのか?
    その謎が頭から離れず、解明にのめり込んでいく。

    コンピューターを閉じ現場を訪れてはじめて見えてきたのは、数字ではわからない実態だった。
    統計上は同じ貧しいマイノリティー地区なのに、一方では空き家やシャッターが閉まった店ばかりの地区と、もう一方では多くの人が道を行き交い、手入れの行き届いた公園のある地区というように違っている。
    「こうしたローカルな条件が、日常生活でも災害時でも、重要な違いをもたらすことがわかってきた」。
    条件とはすなわち、私たちの交流の形や暮らしの質を左右する物理的な場、図書館や公園、市民農園などの社会的インフラのことである。

    社会的インフラこそが、日常生活の質を高めるだけでなく、天災による被害を小さくし、ひいては犯罪を削減するしくみのカギにもなっている。

    "物理的な場所"が重要だと強調するのは、住民の交流意欲や価値観、文化的背景など、道徳的警告だけでは連帯が生まれないためだ。
    特別な努力ではなく、公園での憩いや食料雑貨店での買い物など、継続的で反復的な、気軽な交流が日常生活の一部になっていたことが重要だった。
    こうした社会的インフラのある地区に住んでいることは、「エアコンがあるのと同じくらい命を守る効果」があった。 

    面白いのは「インターネットは社会的インフラではない」と断言しているところ。
    対面交流につながらないオンラインでの結びつきは、真のつながりとは程遠く、我々の間の分断や断絶を解決するためには、物理的環境を共有できる場所、つまり社会的インフラが必要なのだ。
    「ソーシャルメディアにはたしかに大きなパワーがあるが、教会や組合やスポーツチームや福祉国家がもたらすようなものを与えることはできない。また、ソーシャルメディアはセーフティネットでもなければ、集会所でもない」

    社会的インフラは、都市や郊外における、見ず知らずの人や友達や近隣住民と交流する機会など、一見なにげないけれど、実は重大なパターンに影響を与えている。
    なかでも図書館は、もっとも過小評価されている社会的インフラの1つあると指摘している。
    近年ではアメリカにおいて、図書館を住民にとって必要な施設ではなく、贅沢のための施設とみなしている。
    書籍などコンテンツはデジタル化され、なんならインターネットで無料で利用できる。
    そのため、財政が悪化すると、真っ先にその予算を削られてしまう。

    しかし図書館ほど、良質な社会環境を提供している施設はない。
    老若男女を問わず、誰にも開かれたこの公共の場所は、ティーンエージャーにとって、人生の基礎をつくる重要な環境でもある。
    「図書館は、周囲の人を無視しつつ、ひとりぼっちではないと感じられる場所だった。そこは、特定の方向に私を励ます場所ではなくて、自分の興味を探ることができる場所だった。誰かに見られているとか、許可が必要だとか感じることなく、好きなことを自由に追求できると感じられた」
    図書館職員が利用者に対してとる程よい距離感と中立性は、好奇心と自立心を育む得難い経験となるのだろう。

    環境を整備すれば、犯罪を減少させることができる。
    犯罪対策の議論になると「割れ窓」理論が有名だが、「割れ窓」の前に「空き家」があることを多くの人は忘れている。
    窓が叩き割られるまえには、雑草が伸び放題の空き家があることを忘れてはいけない。
    アメリカでは長年、刑務所をつくることが最大の犯罪対策とされてきたが、荒廃した空き地や空き家対策にこそ重点を置くべきだ。
    廃屋を修繕したり、空き地は市民農園にするなど緑化することで、犯罪は劇的に減らせることが社会実験で明らかになっている。
    「きちんと手入れされた緑地は、住民に頻繁に利用されるため、"街の目"によるさりげない監視が行き届くほか、当事者意識と管理意識が高くなるのだ」

    伝統的な対策が行き詰まり、逆転の発想によって道を開いていくのは、薬物問題も同様だ。
    薬物乱用者を徹底的に取り締まり、公共の場から排除するだけでは問題は解決しない。
    だからといって違法薬物を合法化するのも、あまり有効ではないだろう。
    それより乱用者の命を救うことを第一に考え、きちんとした監督下で、安全な場所で適切な量を摂取させる方針に切り替える。
    これによりスイスでは、薬物の過剰摂取による死者が半減し、新規利用者も8割削減することができた。
    合法的な投与場所(社会的インフラ)を政府が用意するというスイス独自のアプローチは、現在では世界中でモデルとされ、アメリカで深刻な社会問題となっているオピオイド対策にも活用されようとしている。

  • 社会的インフラ=人々の交流を生む物理的な場や組織の重要性を説く本。

    社会的インフラは、電力や水道等の基幹インフラに対するソフトなインフラを指す。図書館、学校、公園、プール、運動場等。いわゆるサードプレイス機能を果たす店舗等も含む。
    1995年、シカゴの熱波による被害の分析から、死者が多かった地域では社会的インフラが脆弱だったと判明。ハードインフラがの破綻時、ソフトインフラの有無が生死を分ける可能性がある。

    第1章:図書館という宮殿
    イーストニューヨークの図書館によるXboxボウリング大会開催の事例紹介。他にも、子育て中の親同士が顔を合わせることで交流が生まれる例や、多様な人種の人々が集まるティータイム等。利用者同士の揉め事等のトラブル(p73)にも言及しつつ、それでも図書館が民主主義の実験場となり、地域社会の要になっているとする。
    ただしこの機能はアメリカでさえ十分に評価されている訳ではない。たとえば有名なニューヨーク公共図書館は全米の図書館の中で飛び抜けて活発なわけでではなく、住民1人あたりの図書館予算も少ない(p56)。またティータイムを企画した職員の給与は良くない(学位がないため)という記述もある。

    第2章:犯罪を減らすインフラ
    団地の設計により、コミュニティが荒廃した例とそうでない例。放置された土地や空き家の存在が、地域の犯罪発生率を高める。犯罪学者のジョン・マクドナルドと疫学者チャールズ・ブラナスの調査で、空き家を手入れすることで銃犯罪が減ると判明。関わったのが疫学者というのが少し面白い。
    店舗の存在も犯罪発生率に関わる。バーと酒場は発生率を高めるが、一般的にカフェや商店街は犯罪を減らす効果がある。ただそれは定期的に客が来るからで、客の来ない店や、元の地域住民を追い出して新たに作られたカフェの場合はマイナスの影響もある。

    第3章:学びを促すデザイン
    小学校を小規模化し、お互いの目の届きやすい状態にすることで、成績や生徒の行動が好ましい方向に変化する。
    大学キャンパスが学生や地域に与える影響。学生がキャンパス内に住み、自由に交流することでコミュニティが活性化する。オンライン大学が一時もてはやされたがその後難航しているのは、社会的インフラの欠如による。
    ただし学生内コミュニティ=フラタニティは発達に伴って閉鎖的になり、コミュニティ内でのしごきやいじめが問題になる他、地域社会との分断を起こすインフラともなっている。
    ミネルバ大学の試み。学生を寮やホステルに住まわせ、交流を促す。近隣の市立図書館が学びの拠点になっている。

    第4章:健康なコミュニティ
    オピオイドやヘロイン依存に対する、乱用者更生施設の取組み。
    シカゴのイングルウッドは新鮮で健康的な食べ物が手に入らない「食の砂漠」と言われる。そこに都市農場を作ることで、近隣住民の生活向上に役立った事例。
    適切に手入れされ、日常的に親しめる自然がない状態を環境剥奪という。環境剥奪がひどい地域は健康状態が低く、さらにこれは富裕層であっても当てはまるとする調査。

    第5章:違いを忘れられる場所
    シカゴでの移民混合コミュニティの発達と、70-90年代の工業衰退に伴ってそれが崩壊していった様子。対人的・身体的つきあいのできる場所の必要性。
    アイスランドでは温水プールが住民交流のインフラとなっている(p214)。裸のつきあいをするプールが人種差別と深く関わっている事実にも触れられる。理髪店での議論や、運動場での交流。

    第6章:次の嵐が来る前に
    2017年ヒューストンでの熱帯低気圧被害。地元の教会を中心としたコミュニティによる共助活動が行われた。気候変動により、大規模な水害は今後も発生頻度が高まるだろう。社会的インフラの有無が生死を分ける可能性がある。
    ハードインフラと社会的インフラを兼ねることもできる。たとえば水害防止のための堤防を、普段は交流の場となるように整備するなど。

    終章:
    社会インフラの多くは公的資金により成り立つが、理解はまだ不十分である。
    カーネギーの図書館建設や、ビル・ゲイツのインターネット接続提供等の事例。2008年にオハイオ州コロンバスで、図書館サービス維持のための財産税導入が、住民投票により可決された事例。

  • 必然的に未来の伸びしろが大きい子どもたちに対して、本書で提言されている社会インフラの拡大と利活用の広まりはやはり重要だと感じた。

    図書館に関する話題については自分も大半はAgreeなのだが、時代の移ろいと共に既存の形で非常に厳しいのではないだろうかと強く感じた。
    だからこそ…とも思うが、とにかく新しいイノベーションでそうしたところも新時代的なものになって、重要な社会インフラの復権となると意義は大きいと思う。

  • 集まる場所を求めてるからこの本を読みました。
    最初に取り扱ってる研究が地域比較研究で、調査方法も結果もきっぱりしていてよかった。
    孤立と災害のときの生存率とか精神的/身体的な健康とか犯罪率とかと比べられることは多くて、人と会うことが大事っていう結論にだいたいなるけど、この本は誰もが孤立せず集まるために必要な地域の施設(=社会的インフラ)が大事って言ってる。
    図書館とか公園とか河川敷とか、私も社会的インフラの恩恵を受けてるなって思いました。
    自分でも何かそういう場所を作ったり運営したりできないかな。

  • 日本は遅れていると感じる社会的インフラの整備。
    社会的孤独は言葉では表しにく、数値にしにくいために、論じにくい。作者は非常事態や極度の貧困層がターゲットであるが、うまく言葉にして述べている点で、この本は素晴らしいと思う。
    日本ではどのような社会的インフラの整備が進められるべきか。考えるきっかけになった。

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著者プロフィール

ニューヨーク大学の社会学教授、パブリック・ナレッジ研究所所長/一橋ビジネススクール特任教授/慶應義塾大学経済学部特任教授
慶應義塾高校・大学(経済学部)卒業後、東京銀行に入行。フランスのビジネススクールINSEAD(欧州経営大学院)でMBA、グランゼコールHEC(パリ)で統計学の修士号を最優秀賞で取得。筑波大学で最適化と極値論の研究を行い博士号取得。2000年世界最大の資産運用会社バークレイズ・グローバル・インベスターズでAIを利用したモデル運用に携わる。35歳にして最年少マネージングダイレクター、日本法人取締役に就任。2010年に、「人を幸せにする評価で、幸せをつくる人を、つくる」ことをヴィジョンにIGSを設立。ビッグデータとAI、そして脳科学の知見を基にした、科学的かつデータドリブンなDX組織改革コンサルティングを大企業中心に行っている。主な著書に『ハーバード、オックスフォード…世界のトップスクールが実践する考える力の磨き方』(大和書房)、『AI×ビッグデータが「人事」を変える』(朝日新聞出版社)、『なぜ、日本では本物のエリートが育たないのか?』(ダイヤモンド社)などがある。

「2021年 『集まる場所が必要だ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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