- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784863854727
作品紹介・あらすじ
2019年6月にスタートした韓国文学の源流シリーズは今回、短編選をスタートします。朝鮮文学時代から今の韓国現代文学に続く、古典的作品から現代まで、その時代を代表する短編の名作をセレクトし、韓国文学の源流を俯瞰できる10巻です。現代韓国文学に親しみ始めた読者が、遡って古い時代の文学も読めるようにしたいと考えています。
短編10巻、各巻は6~10編の各時代の主要作品を網羅します。
各巻には小説が書かれた時代がわかるような解説とその時代の地図、簡単な文学史年表が入ります。よりいっそう、韓国文学に親しんでいただければ幸いです。
日本植民地時代の1930年代韓国は、プロレタリア文学とモダニズム文学との相克の時代。揺れ動く時代を背景に、若い男女の交友関係を軸に、社会運動にのめり込んでゆかざるを得ない暗い時代が描かれる。実りのない恋愛を通して強く自立した生き方を模索する愛と葛藤の日々が、読むものの心に深く響いてくる。
2021年8月上旬全国書店にて発売。
感想・レビュー・書評
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「下水道工事」は日本人請負業者の賃金未払に怒りを爆発させる労働者の闘いを描く。公務員の責任逃れ体質が腹立たしい。但し、賃金未払に対する労働者の闘い一辺倒の内容ではない。登場人物の個人的な物語もある。本書の帯には「プロレタリア文学とモダニズム文学の相克の時代」とあるが、出来事の写実だけではないというモダニズム文学の要素がある。
この要素は次の表題作「オリオンと林檎」で一層強まる。ローザ・ルクセンブルクなど活動家を話題にする読書サークルを舞台とするが、真剣に社会問題に取り組むというよりも、運動ごっこを楽しんでいるだけのように見える。何らかのアウトプットを出すことではなく、集まって話すことが楽しいというような。このようなものが運動ならば虚しい。芯に苦しむ人々の救いにならない。
その後の作品は農村を舞台とした作品が多い。帯にはプロレタリア文学とあるが、資本主義以前に封建的な搾取が問題である。ロシア革命も中国革命も封建的搾取に苦しむ農民の支持が原動力であった。封建的な権威主義は公務員の支配という形で再生産されている。資本主義を批判するよりも封建的な搾取に目を向けることが本当の意味で社会問題に目を向けることになるだろう。