- Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
- / ISBN・EAN: 9784864882682
作品紹介・あらすじ
斬新な構成、独特な心理描写で、彫刻家である主人公の、三代にわたる女性への愛情が赤裸に描かれる――唯美主義、ダーウィニズムの思想を取り込み、〈性愛と芸術〉の関係を探究し続けた英国ヴィクトリア朝の詩人・小説家トマス・ハーディが最後に著したロマンス・ファンタジー。
感想・レビュー・書評
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”ハーディアン“を自称するようになって久しいが、この作品は今まで全く手に取る機会がなかった。ハーディ文学の最高峰「ダーバヴィル家のテス」、「日陰者ジュード」と同時期の小説作品である。
しかし実際に読んでみると、「テス」や「ジュード」とは取り組み方が異なる、小説の執筆から離れようとするハーディの最後の挑戦のように感じられた。
「恋の霊」の主人公ピアストンは、簡単に言うと移り気で一目惚れ体質である。テスやジュードのように内面に葛藤を抱え、一途に運命の人を愛し、破滅する主人公を期待して読むと、早い段階から腹が立ってくる。この小説は唯美主義を取り入れており、芸術家である主人公のそれは、プラトンのイデア論になぞった「恋の霊」の憑依によるものらしい。女性の美を追い求める主人公には、“存在の中で望ましく入手したいすべての典型でしかも精髄であるものが見える”らしいのだ。(作者は“この男の奇妙な空想”とも表現しているが)
またハーディは、そこに自然主義も取り入れ、この時代に学説化された「遺伝」を強調し、それを三世代の女性に恋する理由ともしている。
ハーディはこのような仕掛けをこの小説に施している。好むか好まないかは別として、それを理解して読まねばならない。
20代、40代、60代の三部構成で主人公を定点観測する形となり、そこに3世代のアヴィシー(母子孫)が絡むのだが、ピアストンは、いつまでたっても“青年”である。まあ、各章のタイトル自体、「⚫⚫代の青年」なので、そういう人物設定なのだが、少しは人間として深みを持ってはくれないかと、嘆きたくもなる。解説にもあるように「ジュード」と執筆時期が重なることから、テーマの軸足がそちらに置かれ、本作の方は芸術的試みに終わったのかもしれない。
ハーディ小説の定番である“運命に翻弄される男女の愛”を読みたいのに!と思いながら結末を迎えたが、主人公が老いを受け入れた結末のエピソードにはなかなかにほっこりさせられ、読後感はよかった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
親子丼ならぬ…