仕切られた女: ウラジオストク花暦

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  • 藤田印刷エクセレントブックス
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  • Amazon.co.jp ・本 (305ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784865381061

感想・レビュー・書評

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  •  これまで誰も書かなかった世界を描いた川越宗一『熱源』もそうだったが、維新以降の日本における北海道の国際的位置は、個人的にとても興味深い。高城高は北海タイムズ(現北海道新聞)の記者、日本ハードボイルド作家という二つの顔を持った昭和の作家である。北の国のブン屋、そして日本ハードボイルドの嚆矢という二つの顔を持った極めて珍しい書き手の眼差しが、その人生の円熟期になって探っているテーマが実に、面白みに満ちているのである。

     仙台と釧路での記者経験を元に、シリーズものを初めとしたハードボイルド短編で、光るものを見せてきたこの作者。生まれは函館だと言う。その函館の開港間もない明治の時期の警察官を描いた『函館水上警察』からこっち、国際的状況に置かれ日本が果たしてきた歴史的に重要な役割を背景にし、その時代の生き生きと魅力的な男女を活写しているのが近年の高城高なのである。

     『函館水上警察 ウラジオストックから来た女』で主人公が一瞬の恋に落ちる女・浦潮お吟。そのお吟を主人公に新たな地平を描いてみたいという作者は、日露戦争を迎えんとするウラジオストックという港町に魅せられてゆく。函館に似た港と山と国際都市としての歴史的拠点。様々な人種が街に作ってゆく陰影に魅せられてゆく作者の姿が、浦潮お吟、ロシア名エリスは徐々に作者により肉付けされ、生き生きとした個性を物語の中で纏ってゆき、次第にとても魅力的な存在として、街の歴史的時間を駆け抜けてゆく。

     ウラジオストックシリーズの前編となる『ミリオンカの女 うらじおすとく花暦』ですっかり魅せられてしまったぼくは、版元を換えてますますインディーズ化した本書を見つけ出し狂喜する。このような独自性と品格と、小説としての起伏を持った面白い作品に出会うことは稀である。

     本書では、ウラジオストックの街を襲う日露戦争という大掛かりな歴史の中で、敢えて歴史小説には進まず、たくましく荒々しい愛と暴力の時間を乗り越えてゆくお吟=エリス、そしてその周囲のこれまた魅力的な脇役たちの姿を活写してゆくことで、冒険小説でありハードボイルドであり続けようとする物語の方向性が明確である。

     作者がこの街やこの時代に魅せられた気持ちがそのまま直接的に伝わってくる物語や題材や人物の魅力が、なんとも言えない。戦後の暴力の激しさを淡々と描きつつ、そんな多くの屍や廃墟の上を、一歩も引かず、恨み節の一つも口にせず、生きることへのタフさを見せる主人公らの表情に心打たれるばかりである。

     本シリーズは凄い掘り出し物なので、興味のある方は是非文庫シリーズの『函館水上警察』二冊から順に時間軸に沿って読んでこの作品まで辿り着いて頂きたい。函館の最終章に辿り着く頃には、お吟=エリスの生き様が、実にリアルに重たく、そしてたまらなく魅力的に感じられるに違いない。

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著者プロフィール

1931年1月17日、北海道生まれ。本名・乳井洋一。幼少時に宮城県仙台市へ移住し、以降は宮城県在住。進駐軍や米軍人、英語教師だった父から入手したペーパーバックで海外小説を読み漁り、特にハードボイルド小説を愛読した。東北大学文学部英文科在学中に執筆した「X橋附近」は江戸川乱歩に絶賛され、55年に『増刊宝石』へ掲載されている。57年に北海道新聞社へ入社してからも兼業作家として短編を書き続け、70年で断筆するが、2007年から再び創作活動を再開した。主な著書に『微かなる弔鐘』(光文社)、『墓標なき墓場』 (光風社)、『函館水上警察』(東京創元社)、『眠りなき夜明け』(寿郎社)など。

「2022年 『フェンシング・マエストロ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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