水上バス浅草行き

著者 :
  • ナナロク社
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感想 : 74
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784867320105

作品紹介・あらすじ

【収録短歌より3首】
ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし
3、2、1ぱちんで全部忘れるよって今のは説明だから泣くなよ
平日の明るいうちからビール飲む ごらんよビールこれが夏だよ

感想・レビュー・書評

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  • 「無駄こそがすべてと思う消えていく雲に名前をつける夕暮れ」

     あとがきに書かれているように、『一見無駄のように思える、なくても生きていけるもの』の存在が、自らの人生をより味わい深いものにしていることを知っている、岡本真帆さんの第一歌集は、そんな遊び心のある中にも切実な真摯さを覗かせるといった、人間の持つ複雑であるが故の愛らしさを、いっぱいに感じることの出来た作品です。


     何回か読んでみて、いくつかテーマ性を感じられた中でも、まずは、そんな無駄のように思えるものとも繋がった感のある、思わずクスッと笑ってしまった面白い歌が印象的で、こういう雰囲気の歌は、これまであまり目にしたことが無かったので、尚更、新鮮でした。

    「Yeah! めっちゃポリデントって送ろうと入れ歯の絵文字探してた ない」

     所謂、あの歌のダジャレなんだけど、最初は笑えていたのに、最後の『ない』まで来たときの心境が、あんなにテンション高かっただけに、却って、そのショックには、より計り知れないものがあるように思われて切なくなってしまったという、このような対照的なもの同士が共存している歌の多さは、彼女の一つの特徴に思われました。

    「自動ドア開かないようにひらがなのくの字ですする煮干しラーメン」

     単純にその場面を想像したときの面白さと、その体勢辛そうだな、でも皆の為に気を遣ってくれるいい人だなと感じさせられたのは、食べているものが煮干しラーメンというのも、きっとあるのだろうと思わせる渋さ。

    「どうみても鹿用だそれ 満面の笑みでジョニーが喰らうせんべい」

     これ、ツボにハマって一番好きです(笑) 言葉のチョイスが絶妙で、『どうみても』も『それ』も『満面の笑み』も『喰らう』も、笑いを心得ている人が計算して作ったような完璧さで、ちなみにジョニーは犬だと思います。


     次は一つの歌集に、やけに多いなと思った「犬の歌」で、調べてみたら岡本さんは犬好きだそうで、納得しました。

    「入口で待ってる犬の飼い主が出てくるところまで見てしまう」

     すごく細かいところでありながら、詠み手の犬が好きな思いも、しみじみと伝わってくる、短歌ならではの日常の切り取り方。

    「庭は夏過去になる夏 水たまり飲んじゃだめって言っているのに」

     夏の素敵な思い出と犬への優しさが、哀愁も込めて美しく描かれている。

    「犬だけがただうれしそう脱走の果てに疲れた家族を前に」

     きっとこの家族には訳あって、必死だったのだろう。それなのに、この犬はって・・・でもそれが、とてつもない慰めと癒しになってくれそうな、嬉し泣きの気持ちになれる人情的素晴らしさを、犬が教えてくれた感じが好きです。


     次は、夏がもたらしてくれた、かけがえのない瞬間を切り取った歌。

    「ありえないくらい眩しく笑うから好きのかわりに夏だと言った」

     まるで『好き』と『夏』が同義語であるような解釈に、詠み手の夏への思いを感じさせる。

    「夏の月のたった一度の合奏が終わったあとの無音 今でも」

     岡本さんの歌の素晴らしさは、この効果的な一字空けにあると思い、私の頭の中では、おそらく合奏の上手い下手は関係なくて、その皆が一つになった一体感と、終わってしまったという、何とも言えない無音の余韻に感じさせる、たった一度の思い出が、時を超えて、今も音が鳴っているのではなく、無音の余韻の方に思い出の比重を置いている点に、彼女ならではの感性を感じられました。

    「振り返す手よ生きていくことすべてまぶたの裏の消えない花火」

     振り返す手を目の当たりにしながら、いつまでも鮮やかに何度でも甦る花火は、彼女にとって、人生の全てだったのかもしれない。


     次は、個人的に最も染みた現実的な歌。

    「督促状にぎってあるく散った花ばかり目に付くコンビニの道」

     私が思い出すのは年金関連で、書かれている内容を知ると、ちょっとした絶望感をもたらすものだから、ネガティブになるのもよく分かる。

    「帰りつつ家賃の歌をつくったら楽しくなって払い忘れた」

     一見、笑ってしまうんだけど、どことなく笑ってはいけない雰囲気も醸し出しているような複雑さが垣間見えそうで。

    「口笛も花もだじゃれも潮騒も全部忘れて書いた履歴書」

     去年から今年にかけて、何回履歴書書いたのだろうということを思い出した、私への応援歌のような存在。そうなんですよ、履歴書書いている時の、あの楽しいこと全て追い出したような、やるせない心境は。


     次は上記した、対照的なものを共存させた点に、人の複雑さが見える歌を集めました。

    「地下鉄はぼんやり光る住んでいた街にもうすぐ雨雲が着く」

     本来暗いイメージの地下鉄を光として、かつて自分がいた街を闇のイメージとした点に、様々な思いが見え隠れする。

    「泣きたくない、鼻詰まるから その声がもう鼻声で笑ってしまう」

     泣くのをこらえる心境と笑ってしまう心境とが、見事な対照性を為した様には、何をきっかけに人生好転するか分からないような、人生の複雑な面白さがあるようで、却って、励まされる。

    「ほんとうの愛のことばをでたらめな花の言葉として贈るから」

     たとえ不器用でも、心からの気持ちは下手な知識よりも、確かな形となって伝わるような、そんな人間の美意識や心意気を教えてくれる。


     最後は、岡本さん自らを大切にしたような自己愛に満ちた歌。

    「冷蔵庫唸ってくれてありがとう明かりの前で引き裂くチーズ」

     これ、好きです。冷蔵庫の音が、この歌の彼女にとっては、間違いなく側についていてくれるような安心感を覚えているのが、ひしひしと伝わってくるようで。

    「花言葉どころか花の名前すら知らないけれどもらってくれる?」

     とても不安を抱えながらも、自分の心の中の感性を強く信じている点に、グッときました。

    「すやすやと唱えたあとのおやすみのことだま眠るまでそこにいて」

     一人眠ろうとする時に、どうしてもそれが辛い時ってあると思うのですが、それに対する自分なりの答えを歌人らしく歌で出したような、そんなささやかさが切なくも美しい。


     しかし、そんな岡本さんだからこそ、人に対しても、同じ気持ちで寄り添えるのかもしれない。

    「教室じゃ地味で静かな山本の水切り石がまだ止まらない」

     そう、人には様々な可能性だってあるんだということを、改めて教えてくれた、岡本さんの人柄は、奥付のこんな一文からも感じられた。

    『第七刷発行 2023年3月27日 四万十川の菜の花が見頃です』

     こうした細かいところまで楽しませようとする、岡本さんの第一歌集に描かれた、鈴木千佳子さんの挿画の、ちょっとゆるい日常風景の色の無い様には、まるで読み手それぞれが好きなように色を付けてくれればいい、そんな自由さがありながら、普段着のままでいることの素晴らしさも教えてくれるようで、それはまさに、岡本さんの人懐こさが、短歌の敷居を下げてくれそうでありながら、対照的なものの共存による、人の複雑さも垣間見せる、そんな人間の奥深さに岡本さんの奥深さを感じられたことから、ひとりの人間の生き様が記されているようにも、私には思われたのです。


     最後の最後は例によって、私の拙い歌を・・・。

    「好きになること嫌いになることから遥か隔てた ここまで来たよ」

    • Macomi55さん
      たださん
      ↑めっちゃいい歌ですね。
      自分を応援する気持ちとあきらめの気持ちととってもひんやりした感じと温かいかい感じの境目の透き通ったところ...
      たださん
      ↑めっちゃいい歌ですね。
      自分を応援する気持ちとあきらめの気持ちととってもひんやりした感じと温かいかい感じの境目の透き通ったところにいる感じです。何言ってるか分からないかな^^
      最近、自分の生き方がつくづく「傲慢だったな」とと反省するようになりました。傲慢でさえなけりゃもっと豊かな人生を送れたのにと。でももう、取り返しがつかない。と悟れただけ、私も「ここまで来たよ」^^
      2024/03/28
    • たださん
      まこみさん
      コメントありがとうございます(๑'ᴗ'๑)
      いえ、仰りたいことは分かりますよ。
      寧ろ、私の思い描いていたものよりも美しい情景が浮...
      まこみさん
      コメントありがとうございます(๑'ᴗ'๑)
      いえ、仰りたいことは分かりますよ。
      寧ろ、私の思い描いていたものよりも美しい情景が浮かぶような、素敵なお言葉に励まされました(^-^)

      私の中では、自分も他人も含めて、好きか嫌いかの二択で決めてしまうよりは、そのどちらでもない位置付けで捉えられるようになった方が良いのかなといった思いが、年をたくさん重ねてから、ようやく(ちょっとだけ)思い至ることが出来たのかなといった気持ちを詠んだつもりでして、そこには、自然とそう思えたことと、無理に自分の本音を押し殺したものも込みにして、なんとかやっていたら、思っていたよりも遠いところに来ていたなという実感がありまして、楽じゃ無いけれど、これでいいのかなと思えたことには、自分で自分のこと、少し誉めてあげたくなりました。

      それから、まこみさんが、そのような気持ちを抱いていることには驚きましたが、反面、嬉しい気持ちもありまして、と書いたら語弊がありますかね。
      ただ、「私と同じこと考えてる」という気持ちになれたことに、心が少し軽くなったといいますか、私も昔は勿論のこと、今でも傲慢だなと思うことは度々ありますし、殊に自分の事になると、人間、良いところも悪いところもあって当然といった部分が当て嵌まるのか、自信が無いんですよね。

      それでも、ずっと気付かないでいる人よりは、遥かにマシですよね。
      そして、これから人生がまだまだ続く中で、今の自分の思いがどのように変わっていくのかは、楽しみにしていきたいですし、まこみさんにもそうした変化が訪れるといいなと思います。
      拙い歌へのお誉めの言葉、とても嬉しかったです。
      それを読んで、辛い仕事もいつも以上に頑張れました。
      ありがとうございます(^∇^)
      2024/03/28
  • 本当に理解してるのかはともかく、身近でわかる気がする歌が多かったのが嬉しい。気持ちをぎゅっと込めないといけないと思ってた短歌が、こんなにほどよく身軽な感じに表現されていることに驚く。装画も歌と合っていて柔らかくて優しい。

    • 111108さん
      好きな歌

      3、2、1、ぱちんでぜんぶ忘れるよって今のは説明だから泣くなよ

      働いて眠って起きて働いて擦り減るここは安全な場所

      親友は誰か...
      好きな歌

      3、2、1、ぱちんでぜんぶ忘れるよって今のは説明だから泣くなよ

      働いて眠って起きて働いて擦り減るここは安全な場所

      親友は誰かと訊かれ透けてゆく体 廃村の春になりたい

      針山を竹馬でいく真夜中に出会ってしまう詩のおだやかさ

      シルバニア家族が肩を寄せ合ってメルカリに出るための一枚

      花束はパンのかわりになりますか辿って会いに来てくれますか
      2023/04/23
  • 昨年売れた歌集は木下龍也『オールアラウンドユー』、岡野大嗣『音楽』、そして、こちらの本著だったらしい(令和5年角川短歌年鑑より)。
    2022年3月初版で2022年4月第3刷直筆サイン入りをゲット。色鉛筆で丸く優しい字、友人が多そうな印象。スピッツのファンというのがわかるような気がする。
    元広告業界勤務だったようで言葉を扱うのは上手。Twitterでずぼら歌が注目されてのちに歌集出版へと至ったとのこと。上坂あゆ美さんとのトークイベントで、上坂さんは一つの読みたい場面をじっくり推敲してつくりあげるらしいが、岡本さんはブレストでいろんな言葉を組み合わせていくうちに歌ができると話されていた。

    小テーマが35もある。日常を切り取ったほっこりする歌ばかりで選びきれない。誰も傷つけない歌でちょっと元気がないときに癒される歌。鼻歌スキップしたくなる感じ。お腹がすいちゃうような食べ物歌も多い。

    いつ何が別つのだろうエリンギは身を寄せ合って収まっている
    冷蔵庫唸ってくれてありがとう明かりの前で引き裂くチーズ
    おやすみと唱えたあとのおやすみのことだま眠るまでそこにいて
    おばちゃんに取り囲まれて髪色をちやほやされる8時、脱衣所
    落ち着いた声のあなたがうれしくて思わず話しかけた留守電
    番組に夢中になると開く口に差し込んでみるかっぱえびせん
    地下鉄はぼんやり光る住んでいた街にもうすぐ雨雲が着く
    ポニーテールをキャップの穴に通すときわたしも帽子もしっぽも嬉しい

  • 岡本真帆さんといえば、
    「ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし」
    の方。
    素直で真っ直ぐで、語弊を恐れずに言うなら、分かりやすい歌が多かったように思う。

    横書きのもくじ、ゆるっと力の抜けたイラスト、"見返し"の部分から短歌が始まる楽しいデザインだ。
    地の紙質は画用紙のような触り心地で手に馴染む。
    そして1つ目から、もう素敵。
    「廊下から渡り廊下へ移るとききみは季節をたしかめている」

    楽しい気持ちも悲しい気持ちも、キラキラした短歌が続いていたけれど、印象的だったのは始めの方に載っていた、
    「ていねいなくらしにすがりつくように、私は鍋に昆布を入れる」
    静かに沈んでゆく昆布が見えるようだった。
    すがり付くと表現されて、ちょっぴりドキリとする。


    お気に入りを幾つかここへ。

    「締めていたはずのキャップを炭酸は抜けて潮風いつか忘れる」

    「動物を模したビスケットの中に見慣れぬかたち humanとある」

    「平日の明るいうちからビール飲む ごらんよビールこれが夏だよ」

    「まぼろしのマトリョーシカを開け放ちあなたと会った日の花ふぶき」

    「安物の花火まぶしい 最後かな 虫鳴いてるね 遠い星だね」

    「Yeah!めっちゃポリデントって送ろうと入れ歯の絵文字探してた ない」

    「ぴかぴかの米をにぎって「お」をつけてきみはおにぎり愛のかたまり」


    あとがきでタイトルの意味を知ったとき、この歌集全ての短歌を愛おしく思えた。

  • 娘の強い推し(笑
    借りて読んだ

    お若い歌人の鋭くてやわらかな感性
    それを掬いとる力量
    うむむ
    まいったな

    どのうたもみずみずしくて……
    心に弱炭酸を注いだ気分

    返さないといけないんだけど、
    枕元に置いておこう

    ≪ 無駄なもの そういうものに 生かされて ≫

  • まるで手帳のような小さくてかわいいサイズ感!
    手描きの味のある線で描かれたのんびりした表紙が、ほっこりする。
    調べたら本のサイズはB6変形サイズという版で、実測してみたところ縦17.5センチ、横11.5センチだった。
    うん、どこへでも持ち歩きたくなるサイズ感。

    わたしは川柳しか詠まないのだけれど、Twitterのフォロワーさんのなかには短歌も詠まれる方もいる。
    そうしたフォロワーさんの短歌を読んでいると、その世界観がいいなあ…と思い始め、もっと他の短歌を読んでみたくなったので本書を手に取ってみた。

    短歌は五・七・五・七・七の三十一音の世界。
    小説や詞と比べると音数はとても少ないので、サラサラ読み進められそうなイメージがあるとおもうが、実は読むのには結構時間がかかる。
    というのも、それぞれの短歌の情景をイメージして(実際は読むと自然とイメージが湧く)、それを味わう時間が必要だからだ。
    短歌が違えば、情景も全然違ってくる。
    だから、一首読んですぐ次の一首へ行ってしまうと、全く情景が違うので、頭のなかが混乱してしまう。
    だから短歌を読むときは「時間をかけて、ゆっくりと」をおすすめしたい。

    岡本真帆さんの短歌は、この本ではじめて読んだが、どの短歌も「いま」の日常を思いもよらない方向から眺めている感じが、すごくよかった。
    以下、特に好きな短歌を三首紹介!

    ・ていねいなくらしにすがりつくように、
    私は鍋に昆布を入れる(14ページ)

    「ていねいなくらし」と「すがりつく」が合わさったとき、そこにはていねいなくらしを失わないように必死にしがみつきながら、けれど表向きはゆったりとした動作でダシをとる動作をしている人の姿が、みえてくる。
    ていねいなのに心はあせっていて、ていねいなくらしを失うことへの怖さを必死にぬぐいながら、「ていねいなくらし」とされているものを、必死になって実現しようとしている感じに、おもえてしまうのだ。

    ・平日の明るいうちからビール飲む
    ごらんよビールこれが夏だよ(39ページ)

    夏という「感じるしかないもの」に向かって、呼びかけて、ビールを見せている感じが、なんだかすごく好きだ。
    ビールをもったわたしの隣に「夏」がいるような気がして、ふと横を見てしまう。
    いまは夏じゃないのに。
    わたしはビール、飲めないのに。

    ・この秋にわたしが三人いたとして
    それでも余るほどの秋服(130ページ)

    おもわず笑ってしまった。
    三人いたとして、それでも余るもの??なんだろう??
    とおもいながらのオチ。
    一体、どれだけの数の秋服なんだろう…と、ちょっと恐ろしくなってしまう。ホラーみたいだ。

  • SNSで話題の岡本真帆氏が第一歌集発売 31文字で表す“幸せ”への思い|NEWSポストセブン
    https://www.news-postseven.com/archives/20220412_1743079.html?DETAIL

    『水上バス浅草行き』はここにある|ナナロク社|note
    https://note.com/nanarokusha/n/n517fc736d435

    Creator's file アイデアの扉 読者の心の揺らぎに、 寄り添うブックデザイン| Topics | Pen Online
    https://www.pen-online.jp/news/design/creators-file_chikako-suzuki/1

    水上バス浅草行き 岡本真帆 | ナナロク社の店
    https://www.nanarokusha.shop/items/623289cebfe68b69ea51d5d1

  • 歌集を読んだのって…
    俵万智さんの歌集以来だと思う。
    衝撃的だった『サラダ記念日』
    ー「この味がいいね」と君がいったから〇月〇日はサラダ記念日ー
    あれ?いつだったっけ?
    調べてみたら7月6日だった。
    『サラダ記念日』の初版は1987年だから…、37年。
    時の流れがひしひしと…

    岡本さんの歌集を読むきっかけになった短歌がある。

    ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし

    この短歌はフリーペーパー『うたらば』が出した題詠「傘」を受けて読まれ
    「ネットプリント毎月歌壇」にも投稿された。
    それが2016年のこと。

    2018年に岡本さん自身がTwitterに↑の短歌をあげたことでバズッたそうで…

    <SNSで「ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし」の下の句に自分のずぼらエピソードを明かす人が続出>
    というニュースを私が知ったのは昨年。

    私もずぼらなことは自覚しているので
    下の句にチャレンジ~
    と、思ったけど、無謀だった(笑)

    『水上バス浅草行き』は
    キュンとする短歌あり
    ジーンとする短歌あり
    しみじみする短歌あり
    そして、思わず声を出して笑ってしまった短歌あり。
    楽しい時間だった。
    『水上バス浅草行き』を読んだ人それぞれにお気に入りの短歌があるだろう。
    最後に私のお気に入り3首

    Yeah!めっちゃポリデントって送ろうと入れ歯の絵文字探してた ない

    シルバニア家族が肩を寄せ合ってメルカリに出るための一枚

    間違えて犬の名で呼ぶ間違えて呼ばれたきみがわんと答える

    あっ、3首と言っておきながらなんですが
    しみじみ系も紹介しておかなければ!
    岡本さんのため(?)にも、私のためにも

  • またもや、波長の合わない短歌に。

    その短歌を読んでわかるの部分が4割、そしてもう一度詠み直すとわかる部分が5割、6割と膨らんでいく歌が好きです。たとえ10割まで到達しなくても、どこか気になるそんな歌にあこがれます。

    でも、最初から1割、2割の歌ならとっつきにくく、どうしても置き去りにしたくなります、そんな歌が続く、岡本真帆さんの歌、どこか住んでいる、生活している場面がちがうのか・・そんな思いで読み進んでしまいました。

    気になったの歌は、

    ・廊下から渡り廊下へ移るとききみは季節をたしかめている
    ・ほんとうにわたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし
    ・ていねいなくらしにすがりつくように、私は鍋に昆布を入れる
    ・金木犀わからないまま生きていく星のかたちで出るマヨネーズ
    ・沈黙の石焼き芋をゆっくりと割れば世界にあふれる光
    ・何度でもめぐる真夏のいちにちよまたカルピスの比率教えて
    ・うんまいときみが唸った うんまいの「ん」はおそらくバターの部分

    ・こぼれてくものがあまりに多すぎて抱きしめていい犬をください
    ・犬の名はむくといいますむくおいで、無垢は鯨の目をして笑う
    ・犬 朝食 同級生の愛娘 犬 丁寧な暮らし 犬 犬
    ・待てと言う私が待てをされているきみがゆるされるのを待っている

  • 「夢くらいうまく話がしたいのに分け入っても分け入っても向日葵」

    ずぼらだし、の歌の方なのは知っていたけれど、他にも聞いたことのある歌がちらほら。
    夢の話が多いのが印象的。
    その中でガツンと殴られたのが冒頭の引用だった。
    怖さともどかしさと、夢特有の妙な明るさが伝わる。
    「ていねいなくらしにすがりつくように、私は鍋に昆布を入れる」
    も好き。

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著者プロフィール

歌人。1989年生まれ。高知県、四万十川のほとりで育つ。未来短歌会「陸から海へ」出身。2022年3月に刊行した、第一歌集『水上バス浅草行き』で各方面からの注目を集めている。

「2022年 『ココロギミック 異人と同人3』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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