ことばの本質に迫る理論言語学

  • くろしお出版
3.75
  • (1)
  • (1)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 64
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784874246146

作品紹介・あらすじ

言語研究は日常の素朴な疑問から始まる。ことばのおもしろさ・奥深さの発見と研究テーマの発掘をこの一冊で。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  6人の先生で書いた統語論、意味論の分野の本。日本語文法、認知文法、機能文法、生成文法。「1つの項目は4ページで完結されており、最後に『解くべき問題』という『おまけ』がついている。よって、読書は、1つの項目を読み終えるごとに研究ネタというか論文ネタを最低でも1つはゲットできるようになっている。本書は全部で80ケの項目からなっているので、読者は、本書を完読すれば、最低でも80ケの研究ネタなり論文ネタをゲットできるようになっている。また、実際に本書を読んでいただけるとわかるように、1つの章を読み終えると、当該の章が扱っている分野を、かなり高いレベルで理解することができるようになっている。その意味では、本書は、本編も『おまけ』とともに垂涎物ということもあり、本当の意味で『ハッピーセット』な本になっている。将来、言語の研究をやりながら生計を立てていきたいという人には、マジで、願ったり叶ったりの本に仕上がっている」(pp.iv-v)ということだそうで、確かに学部の時にこんな本あればよかったよなと思う。
     やっぱり言葉の本は面白いと思うのだけど、特に英語の教員をやっているおれにとっては、例えば、日本語文法の「間接受け身」(「(必ずしも)対応する能動分をつくることができない」(p.47)ような文)の項目のところで、「日本語の『焼け出す』や英語のrumorは受け身でしかしようできない(能動形が存在しない)特殊な動詞」(p.49)ということには気づかなかった。あとは、「コンピュータが熱をもった」とか「お鍋がぐつぐついっている」のような文は「英語に直訳しても自然な英語にならない(むしろ非文法的であると判断される)。それでは、通常、無生物の主語を許さないはずの日本語で、なぜ(10)のような表現が許されるのであろうか」(p.73)とか、日本語と英語を対照させるネタに興味をもった。2章の認知文法のところでは「time-away構文」(p.119)って知らなかった。意味論といえばメタファーの話だけど、「月見うどん」や「目玉焼き」は「その出現当時には比喩らしい表現であったかもしれないが、長くしようされるにつれて比喩らしさを失い、あたかもその表現の文字どおりの意味であるかのように定着してしまったのである。こうしたものを『慣習的比喩』あるいは『死んだメタファー』という。」(p.130)とかも面白いなあ。章ごとに「おすすめの本と論文」が載っているところも「ハッピーセット」感があるのだけど、『ことばは味を超える』って本は面白そうだなあ。機能文法は実は学部の時は本で読んだだけで授業がなかった気がするのだけど、日本語の指示詞と英語のthisとthatの話(pp.194-7)は初学者がひっかかるところなので、こういうのをうまいこと学校文法に入れられないのかなあと思う。でも「なわ張り」とか「会話空間」とかやっぱり難しい。会話空間内(話し手に心理的に近い空間)で話し手のなわ張り内はコ、なわ張り外はソ、会話空間外がア、英語は話し手のなわ張り内はthis、なわ張り外は全部that、だからソとアが英語のthatに対応する、というのはやっぱりある程度の用例に触れた後じゃないと演繹的に言っても難しいよなと思う。そして、この会話空間内にあるかないかで、あるものをまとめる指示詞は現代日本語にも英語にもないけど、これは「偶然の空白(accidental gap)である可能性が高い」(p.197)、「江戸期の日本語にはコ・ソ・アに加えてカという指示詞があった」(同)というのは面白い。その後の項目はいよいよitとthatの英語での違いが出てくるが、「itが使えるのは、話し手がitの指す内容をいわれる前からすでに知っている場合」(p.199)ということで、逆に知ってたら"It's amazing!"って言えるのか、と思った。他にも色々あるが、生成文法のところはやっぱり難しい。c統御とか例外的格付与とか、学部の時に結構勉強した気がするが、全然定着しなかった。
     最後にこの編者は英語教育について物申しているが、これについてはつい最近読んだ『英文法の教え方』という本の著者と一緒。そして「言語学界と英語教育を変えてみせろ!」(p.356)と豪語するこの人は一体何様なのだろうか。この人の本は他の本もバブル感満載のオジさんの感じがすぐに出るので、素直に読めなくなってしまう。(23/08/12)

  • 【目次】

    第1章 日本語文法
    1. 1
    「八百屋が2人話している」とも「この町に八百屋が2軒できた」ともいえるのはなぜか?(名詞の多義性)
    1. 2
    「黄色い本棚」は本棚が黄色であることを指すが,本棚の本は黄色でなくてもよいのはなぜか?(統語操作の領域)
    1. 3
    「白装束」は白くなければならないのに「白タク」は白くなくてもよいのはなぜか?(複合語の意味関係)
    1. 4
    「神社に御神輿がある」と「神社で御神輿がある」が異なる意味を表すのはなぜか?(モノと出来事の区別)
    1. 5
    「彼はとても幸せ者だ」とはいえても「彼はとても若者だ」といえないのはなぜか?(名詞の程度性)
    1. 6
    「今日は宿題が多い」とはいえても「今日の多い宿題」といえないのはなぜか?(名詞修飾と叙述)
    1. 7
    「服は着る」「ズボンははく」ものなのに「ネクタイやベルトはする」ものなのはなぜか?(着用表現の使い分け)
    1. 8
    「恐竜は絶滅した」といえるのに「うちのペットは絶滅した」といえないのはなぜか?(述語の意味タイプ)
    1. 9
    「私はたくさんのパンを買った」と「私はパンをたくさん買った」で意味が同じなのはなぜか?(非対格性の由来)
    1.10
    「泥棒が警官に捕まった」が「泥棒が警官に捕まえられた」と似た意味を表すのはなぜか?(自動詞の多面性)
    1.11
    「子供に服を買ってあげた」と「子供に服を買ってもらった」が逆転した関係を表すのはなぜか?(授受表現の謎)
    1.12
    「彼は赤ちゃんに泣かれた」とはいえても「赤ちゃんが彼を泣いた」といえないのはなぜか?(受け身の用法)
    1.13
    「彼は1回もこなかった」がいえて「彼は1回もきた」といえないのはなぜか?(否定極性表現の由来)
    1.14
    「お酒しか飲めなかった」とはいえても「お酒しか飲み損ねた」といえないのはなぜか?(否定呼応表現の謎)
    1.15
    「ジョッキを飲み干した」とはいえても「ジョッキを飲んだ」といえないのはなぜか?(場所格交替の意味)
    1.16
    「男の子が好きな女の子」に異なる2つの解釈があるのはなぜか?(2つの項をとる状態述語)
    1.17
    「山田さんが奥さんが怖い」に異なる2通りの意味があるのはなぜか? (状態述語の文法関係)
    1.18
    「この拳銃が彼の体を撃ち抜いた」とはいえても「この拳銃が彼の体を撃った」といえないのはなぜか?(道具主語をとる動詞)
    1.19
    「部屋を掃除する」とはいえても「部屋の掃除する」といえないのはなぜか?(動詞的名詞の用法)
    1.20
    「キリンの首は長いだけだ」が「キリンの首だけが長い」という意味を持ちうるのはなぜか?(取り立て助詞の機能)
    ・おすすめの本と論文

    第2章 認知文法
    2. 1 The door openedとはいえてもThe door hitといえないのはなぜか?(認知文法)
    2. 2 The glass was broken by JohnとはいえてもThe glass broke by Johnといえないのはなぜか?(認知文法での受け身)
    2. 3 Mary was rushed to by JohnとはいえてもThe countryside was rushed to by Johnといえないのはなぜか?(参与者とセッティング(1)) 
    2. 4 John loaded the truck with hayとはいえてもJohn poured the glass with waterといえないのはなぜか?(参与者とセッティング(2))
    2. 5 This book sells wellとはいえてもThis book buys wellといえないのはなぜか?(認知文法と構文研究(1))
    2. 6 He gave me a headacheとはいえてもHe gave a headache to meといえないのはなぜか?(認知文法と構文研究(2))
    2. 7 I expected it to rainとはいえてもI persuaded it to rainといえないのはなぜか?(認知文法と構文研究(3))
    2. 8 They sang their baby asleepとはいえてもThey sang their babyといえないのはなぜか?(構文文法(1))
    2. 9 He cleared me a space to sleep on the floorとはいえてもHe cleared me the floorといえないのはなぜか?(構文文法(2))
    2.10 The path runs along the riverとはいえてもThe path walks along the riverといえないのはなぜか?(構文と主観性)
    2.11 「太郎はチーターだ」は理解できても「太郎はタスマニアンデビルだ」は理解できないのはなぜか?(認知意味論とメタファー)
    2.12 「村上春樹を読む」とはいえても「海辺のカフカのサインをもらう」といえないのはなぜか?(認知意味論とメトニミー)
    2.13 「親の顔が見てみたい」といわれて親の写真をみせてはいけないのはなぜか?(メタファーとメトニミーの相互作用)
    2.14 「やわらかい声」とはいえても「静かな手ざわり」といえないのはなぜか?(共感覚とメタファー)
    2.15 The hottest day in twenty yearsとはいえてもThe hottest day on twenty yearsといえないのはなぜか?(前置詞の多義性とイメージ・スキーマ)
    2.16 He came out of the carとはいえてもIt came out of the car that he was killed in an accidentといえないのはなぜか?(句動詞の意味とイメージ・スキーマ)
    2.17 Two weeks ahead of usとはいえてもTwo weeks following usといえないのはなぜか?(概念メタファー)
    2.18 It’s going to rainとはいえてもIt’s coming to rainといえないのはなぜか?(文法化とメタファー)
    2.19 The milk went badとはいえてもThe milk came badといえないのはなぜか?(空間化メタファー)
    2.20 怒りは爆発しても悲しみは爆発しないのはなぜか?(感情とメタファー)
    ・おすすめの本と論文

    第3章 機能文法
    3. 1 「きみ,最近太ったね」とはいえても「きみ,最近太った」といえないのはなぜか?(情報のなわ張り理論(1))
    3. 2 「きみは気分が悪いようだね」とはいえても「ぼくは気分が悪いようだね」といえないのはなぜか?(情報のなわ張り理論(2))
    3. 3 作曲家が自分でつくった曲を他人に「この曲,いい曲だね」といえないのはなぜか?(情報のなわ張り理論(3))
    3. 4 夫の帰宅時間を尋ねられた妻が「わかりません」ではなく「知りません」と答えると冷淡に聞こえるのはなぜか?(「わからない」と「知らない」)
    3. 5 「優麻に会ったよ」といわれ,「それ,誰?」と聞き返すことはできるが,「彼女,誰?」と聞き返せないのはなぜか?(代名詞)
    3. 6 日本語には指示詞がコ・ソ・アの3種類あるのに英語ではthisとthatの2種類だけなのはなぜか? (指示詞)
    3. 7 「宝くじに当たったよ」に対してThat's amazing!とはいえてもIt's amazing!といえないのはなぜか?(ItとThat)
    3. 8 知り得たばかりの情報を英語では直接形で他人に伝えられるのに,日本語では間接形でしか伝えられないのはなぜか?(新規獲得情報)
    3. 9 「水戸は昔から多くの観光客に訪れられている」とはいえても「水戸は3人の客に訪れられている」といえないのはなぜか?(受け身文)
    3.10 「川の土手で遊んでいる」とはいえても「川の土手に遊んでいる」といえないのはなぜか?(「に」と「で」)
    3.11 A man came yesterday with blond hairはいいがA man came by taxi with blond hairはダメなのはなぜか?(外置)
    3.12 「足を滑らせた」には使役の意味がないが「鏡を光らせた」には使役の意味があるのはなぜか?(使役と経験)
    3.13 He smiled a silly grinとはいえないがHe smiled a sunny grinといえるのはなぜか? (同族目的語構文)
    3.14 the student of physics with long hairはいいがthe student with long hair of physicsはダメなのはなぜか?(項と付加詞)
    3.15 This bed is comfortable to sleep underはダメだがThis ladder is dangerous to walk underはいいのはなぜか?(tough構文)
    3.16 He was crawled on by a bugはダメだがHe was stepped on by an elephantはいいのはなぜか?(擬似受け身文)
    3.17 There is the leftover apple pie from last nightでは定名詞句がthere構文の後置主語になれるのはなぜか?(定性効果)
    3.18 There ruled a king with an iron hand はダメだが There once ruled a king who had no ears はいいのはなぜか?(there構文)
    3.19 「揺れている」には1つの意味しかないのに「動いている」には2つの意味があるのはなぜか?(「ている」の解釈)
    3.20 「太郎が弟にお金をやった」はいいが「太郎が弟にお金をくれた」はダメなのはなぜか?(視点)
    ・おすすめの本と論文

    第4章 生成文法
    4. 1 生成文法が生物学の一分野であるとされるのはなぜか?(生物言語学の企て)
    4. 2 シンタクスが自律的であるとされるのはなぜか?(言語能力のモジュール性)
    4. 3 生成文法が普遍文法の最小化を目指すのはなぜか?(ミニマリスト・プログラムの思考法)
    4. 4 統語操作が併合のみに統合されたのはなぜか?(回帰的併合と最小句構造理論)
    4. 5 統語構造の関係として構成素統御が重要なのはなぜか?(派生が生み出す構造情報とその解釈的機能)
    4. 6 This student of physics is taller than that one of mathとはいえないのはなぜか(?併合による句構造理論の記述的卓越性)
    4. 7 John gave Mary a car againが多義的なのはなぜか?(多層vP構造と使役事象解釈)
    4. 8 否定文はYou are not lazyなのに否定命令文はDon’t be lazyになるのはなぜか?(命令と否定)
    4. 9 He never drank wineでdo助動詞が使われないのはなぜか?(動詞屈折と副詞)
    4.10 With no job would Mary be happyとWith no job, Mary would be happyが異なる意味をもつのはなぜか?(否定と倒置)
    4.11 Why don’t you think John came?が多義的でないのはなぜか?(否定の作用域と移動)
    4.12 John thinks Mary saw himselfといえないのはなぜか?(照応形束縛の構造条件)
    4.13 Which pictures of himself does John think Bill likes?でhimselfの先行詞がJohnでもBillでもよいのはなぜか?(移動がもたらす可変的解釈)
    4.14 How many stories about Diana is she likely to invent?でDianaとsheが同一指示的に解釈できないのはなぜか?(前提の有無と同一指示解釈の可否)
    4.15 John is wanted to be a good studentといえないのはなぜか?(不定詞補文の構造的相違)
    4.16 John is said to be a geniusとはいえてもThey say John to be a geniusといえないのはなぜか?(例外的格付与と主語解釈)
    4.17 There seems someone to be hereといえないのはなぜか?(seemの不定詞補文の主語と虚辞)
    4.18 Only John thinks he is a geniusが多義的なのはなぜか?(束縛変項として機能する代名詞)
    4.19 John persuaded Mary to singとJohn promised Mary to singでは歌う人物が異なるのはなぜか? (コントロール構文の分析)
    4.20 生成文法が言語進化の問題に取り組むようになったのはなぜか?(進化的妥当性の探求)
    ・おすすめの本と論文

  • こういう本を待っていました。英語教育の構造的問題点に対する警笛となる一冊。豪華執筆陣を組織し、継続的にシリーズを通して社会へ、そして将来を担う若手へメッセージを放っていく編者の地道な努力に敬意を示すべき。応えるべきは、そう、我々であり読者の貴方なのである。熱い。前書き、あとがきを読んで胸が熱くなったのはここだけの秘密だよ☆必携の書なのでどの学校にも1冊ずつ置くべき。内容に関してはネタバレのため避けますが、理解を深めたい人向けのフォロー体制も抜群で、きめ細やかな配慮がなされており◎真心がこもった1冊です(140808)。

  • 「情報のなわばり理論」は非常にわかりやすい。言語ってほんとに不思議だ。

全4件中 1 - 4件を表示

著者プロフィール

1966年 浜松生まれ。東北大学大学院情報科学研究科博士課程修了。博士(情報科学)。現在、東京農工大学 准教授。専門は理論言語学。NHKラジオ講座でタケカワユキヒデ氏(ゴダイゴ)と秀島史香氏の3人で『短期集中!3か月英会話 洋楽で学ぶ英文法』を担当。

「2019年 『英文徹底解読 ボブ・ディランのノーベル文学賞受賞スピーチ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

畠山雄二の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
三浦 しをん
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×