歴史家の仕事―人はなぜ歴史を研究するのか

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  • 高文研
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784874982419

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  • 「右往左往の研究生活でしたが、その試行錯誤の体験から、歴史学とはどういう学問か、どうしたら自分の研究テーマを見つけることができるのか、史料を読むにはどんな注意が必要か…これから歴史を研究してみようと思っている若い人たちに、少しは役に立つ本が書けるかもしれない…そうしてできたのがこの本です」(p.269)

    中塚は1929年生まれ。ちょうど研究をはじめたとき、戦後歴史学のまっただ中に居た世代といってよいだろう。そのことが非常によく出た内容だと感じた。近代天皇制による社会統合、日本の資本主義化・帝国主義化による他国侵略、地主制を基軸とする村落構造の分析…。ただ、それがゆえにか、「統合される側」「侵略される側」「都市」といったいわゆる「現代歴史学」的観点についてはほとんど触れられない。中塚がある意味で徹底して「戦後歴史学」にこだわって研究を続けてきたのだなということがよくわかる。自分の「研究生活」について書かれた本なので、それはしょうがないのかもしれない。でも、「現実に対する批判的な考えを持つことから研究は始まる」(p.13)のならば、学問潮流の変化だって「現実」なのだし、それが自分の研究がどのように切り結んできたのかという観点から研究生活が位置づけられなくてよいのかなあという気はする。

    ある意味でそれを象徴するのが「国民」という言葉の使用。第1章では「国民のための歴史学」、終章に「日本国民の史学史を」というタイトルがあるように、「歴史学は国民のためのもの」として「国民」がほぼ無前提に用いられている。「国民的歴史学運動」をこの本が書かれた2000年の段階でも評価し、「国民のため」という目的を標榜しつづけるその継続性というか徹底ぶりには、驚いてしまった。しかし「国民」の作為性を暴き続けた現代歴史学をくぐり抜けた世代からすれば、「その”国民”とは誰なのか」という問いがどうしてもひっかかってこざるをえないのである。

  • 師曰く、歴史の真実は史料にあり、と。

    科学的・批判的な態度で史料に基づく歴史叙述を徹底する。ゆえに「自由主義史観」、この本では具体的に西尾幹二『国民の歴史』は「怠惰な文筆家」の著作という。なるほど。

    陸奥宗光『蹇蹇録』の史料比較や、『戦史叢書』の「機密保持」に基づく編集方針と記述の変更、公刊史料集の編纂過程での作為性など、一般人は目の前にある資史料を基に考えてしまうけど、まずその資史料自体を疑ってみる態度、というのがやはり専門の「歴史家」だなぁ、と感嘆。

    長年の思いが少しすっきりしたのが、「ミクロとマクロの往復」という考え方。自分の関わる分野では、科学の厳密性を求めるあまり限定的な特殊研究=断片ばかりで、現実はそうじゃないでしょ?と言いたかったけど、「マクロ(全体)との関係を問題意識として持ち続ける」ことが大事、と著者はいう。そうですよね。

    ところが、これらが逆に弱みにもなっているのが、何と言うか…。

    第1章で戦後の「国民的歴史学運動」というものに触れて、運動は頓挫してしまったが未だ総括はされていないという。学問には批判的態度を取っても、それを基にした自分たちの運動には何十年経っても批判的になれない弱さ。

    西尾を批判し、科学的な態度を歴史学に求めながら、史料編纂では作為性があることを明らかにする。これ、自然科学の実験だったら大問題ですよね。この甘さを甘受しつつの科学的、という弱さ。

    もう一つ何かあったけど忘れた。

  • 分類=歴史学(日本)。00年6月。

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著者プロフィール

1929年、大阪府に生まれる。日本近代史、特に近代の日朝関係の歴史を主に研究。奈良女子大学名誉教授。
主な著書に『日清戦争の研究』(青木書店)、『近代日本と朝鮮』(三省堂)、『蹇蹇録の世界』(みすず書房)、『近代日本の朝鮮認識』(研文出版)、『歴史の偽造をただす』『歴史家の仕事』『これだけは知っておきたい日本と韓国・朝鮮の歴史』『現代日本の歴史認識』『司馬遼太郎の歴史観』『歴史家 山辺健太郎と現代』(以上、高文研)など。
共著書に『NHKドラマ「坂の上の雲」の歴史認識を問う』『東学農民戦争と日本』(以上、高文研)がある。

「2022年 『増補改訂版 これだけは知っておきたい日本と韓国・朝鮮の歴史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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