産婦人科医河野美代子の更年期ダイアリー

著者 :
  • 高文研
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  • Amazon.co.jp ・本 (303ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784874983539

感想・レビュー・書評

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  • 『Oh!my更年期』と同じ版元から出てる、別の「更年期」タイトルの本を読んでみた。

    今はもうなくなってしまった広島発の「月刊家族」というミニコミ新聞に、著者が「更年期」だった頃(95年から約10年間)に書いた連載を抜粋してまとめたものだそうだ。私は「月刊家族」を5年くらい購読していたことがあり、著者の河野美代子さんは、広島でWeフォーラムやったとき(2006年)に来られたこともあり、そういう懐かしさと、同じ版元の「更年期」タイトルの本という興味とで、借りてみたのだ。

    どれだけ自分の心身がメチャメチャになって大変だったかがたくさん書いてあった『Oh!my更年期』にたいして、河野さんのこの本は婦人科にくる女性たちがいかに男のいいようにされているかを嘆いたり、ジェンダーフリーバッシングのひどさを憤慨したり、「怒り」系という感じだった。

    怒りの合間に、更年期らしい不調(トイレが近くなったとか、知らぬ間の尿漏れ、体重が増えた等々)や、河野さんがくたくたに疲れはてている様子が書かれていて、そこには更年期ゆえのしんどさと、あまりに忙しすぎる疲れがあるようだった。「休みの日は、エイズダイヤルの電話当番以外の日は、あちらこちらに講演に行く」(p.18)というのが、もうずーっと続いている。

    でも、河野さん自身は、休みの日にもあちこちへ出ている疲れより、日々の診療の疲れが大きい、職場で腹の立つことが多すぎると書いている。

    産婦人科にくる人たちの話を聞いていると、「どうして、女はこう、いつまでも変わらないの」「自己主張しない、男のいいなり、自分はいったいどこにいるのよ」「どうしてこんなにダメなのよぉ」(p.19)と叫びたくなってしまうのだと。

    ▼もちろん、実際には決してそんなことは言わない。女をダメにさせ続けているものがあるのだから。刃はそちらに向けなければと分かっている。(略)そんなふうにしか生きられなかった女性たちと共感しあえる部分は多くある。でも、たまには愚痴の一つも言ってみたくなる。
     特に、更年期の人たちの相手はしんどい。(略)延々と続く夫の悪口などを聞いていると、絶望的にすらなってくる。(p.19)

    そんな職場のしんどさを楽にできることにもつながると、河野さんは若い人たちに「自分の体は自分のもの」「性的に自立してこそ」とメッセージを送ることに期待をかけて、あちこちの講演に出かけていくのだ。

    1999年は母体血清マーカーテストについて厚生省が「妊婦に勧めるべきではない」との見解を出した年だが、その99年に書かれた「妊婦を不安に陥れないで!」の箇所を読んで、昨年から臨床研究が始まっている新型出生前診断のことを考えた。新型検査は、ただ妊婦に動揺を与えるだけではないのか、何を知ったら「安心」なのかと思えてならないだけに。

    占い師に「脳に異常のある子が生まれる」と言われてパニックになった妊婦や、超音波検査で胎児の頭径が標準より少し大きかったことについて友だちから「頭の大きい子は脳に異常がある」と言われて不安を訴える妊婦の例、そして河野さん自身が妊娠中に言われたひどい言動を忘れられないという話を引いて、「言ってもどうしようもないこと、ただ妊婦を不安に陥れるだけのことをあれこれ言うんではないよ、と訴えたいのだ」(p.141)と

    ▼きっと、今でも多くの妊婦が、あれこれ言われているのだろうな、と思う。もちろん、子どもが何か病気や障害を持って生まれることは誰にもあり得ることだ。障害があればあった時のこと、全力で育てていけばいい。一つの命を生み出すということは、それらも全てひっくるめて引きうけるということなのだから。(p.141)

    でも、新型検査などのチェックは、「全てひっくるめて引きうける」ことをさせない。こういう子ならOK、こういう子はいらない、という線引きが暗黙のうちになされていると思える。7/12に、『揺れる心と向き合いながら』の著者・大木聖子さんの話を聞きにいったとき、ある参加者がこう言っていた。「健康な子がほしい」ということは、「健康な子でなければいらない」ということと同じではないはずだ、それなのに、まるでその2つがイコールであるかのように新型検査は前提していると。

    10年間の連載のあいだには、河野さんの父上が老い、そして亡くなったことも書かれている。そのあたりは、『父の生きる』に似たところがあった。亡くなられた父上は、原爆が落とされた8月6日の当時、広島二中の教師だった。勤労動員で爆心地近くで作業をしていた生徒のほとんどを死なせてしまったこと、父上自身は他の学年が動員されている工場へ自転車で伝令に走っていて偶然助かったことが、その慰霊祭のもようとともに書かれている。

    「被爆しながらも父は偶然に助かり、だから私も生まれることができた」(p.162)というところに、生きのびることの奇跡を感じた。勤労動員中に原爆で多くの生徒が亡くなった広島第二県女については『広島第二県女二年西組』の本があって、これは読んだことがある。広島二中の一年生全滅の記録は『いしぶみ』という本があるそうだ。こんど読んでみたい。

    2003年に書かれた「命をかけた一養護教諭の性教育授業」のところには、亡くなった山田泉さん(山ちゃん、『「いのちの授業」をもう一度』や『いのちの恩返し』の著者)の授業のことが書かれていた。山ちゃんの生前に私も一度だけ話を聞きにいったことがあるが、授業そのものがどんなだったかはあまり分からなかったので、この河野さんの記録で山ちゃんの授業の様子がみえて、とてもよかった。

    河野さんは、中学生や高校生が産んだ「育てられない子」の養子縁組も手がけてきて、ハワイの日系家族にひきとられた子どもたちに会いにいった話が書かれている。そこで私が結構気になったのは、河野さんから子どもたちへ、「一人ずつへのお土産はキティーちゃんグッズと男の子にはポケモングッズ」(p.167)というところで、ジェンダーフリーバッシングや性教育バッシングに怒る河野さんも、そのお土産の選択はジェンダーフリーとは言いがたいな~と思ってしまった。

    ヘビースモーカーだった河野さんがなかなかタバコがやめられない話や、医者の不養生みたいな話、患者には検査を受けるようにと言いながら、何か見つかったらと思うとなかなか行けずにいるというエピソードなど、譲れないところは絶対譲れなくて怒りまくりの河野さんにも、テキトーなゆるいところがあって、そういう面が見えるのが私にはおもしろかった。

    (7/11了)

    *高文研のサイトで、やはり「立ち読み」できる、この本のあとがき
    http://www.koubunken.co.jp/0375/0353sr.html

  • 更年期についてのダイアリーではなく、更年期のときに書いたダイアリー。
    10年以上前ですら普通に「この子たちの大半は将来セックスするんだから、隠すのではなく安全な方法を教えなければ」といえる(その子たちのことを考える・セックスしない人も排除しない)のが本当、すごい。
    女性や女の子や子どもの幸せを願う気持ちの強さに圧倒される。

    でも老い・ボケにはちょっと厳しいかな。
    大変なことを、自分が大変だと気づかずに進んじゃう感じがして、だからこそすごい人なんだけどちょっと心配。

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著者プロフィール

72年、広島大学医学部卒業後、産婦人科学教室に入局。81年から広島市内の総合病院に勤務し産婦人科部長として活躍。90年11月、河野産婦人科クリニックを開設。休診日には講演活動で全国に飛ぶなど活躍中。89年には第11回エイボン女性教育賞を受賞。ボランティア団体「広島エイズ・ダイヤル」代表、日本思春期学会理事。主な著書に『さらば、悲しみの性』(高文研/集英社文庫)『ティーンズ・ボディQ&A』(東山書房/学陽文庫)『いのち・からだ・性』『更年期ダイアリー』(高文研)など多数。共著に『思春期ガイド』(十月舎)『初めてのSEX』(集英社文庫)などがある。

「2014年 『産婦人科の窓口から』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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