「間にある都市」の思想 拡散する生活域のデザイン (文化とまちづくり叢書)

  • 水曜社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784880654355

作品紹介・あらすじ

大都市、中小の都市が規模に応じて機能分担をし、ネットワークをつくる。中心部と郊外がありその狭間に農地や山林が介在する。このような歴史的に形成されてきた都市のイメージが崩れ中心部はシャッター街、自動車の利用が街を拡散し、郊外を貫く幹線道路沿いに都市機能が展開する現在、人口減少と進む高齢化から「都市をたたむ」ことが差し迫った課題となっている。

技術革新により、産業構造もライフスタイルも大きく変化し、従来の認識の枠組みでは、現代の広域生活圏を捉えきれなくなり、そのため質を高めることもできなくなってきている。本書はドイツの豊富な都市計画の事例を基に、今までとはまったく違った広域空間イメージ、 Zwischenstadt (間にある都市)という概念により、この事態に対応し、空間デザインに焦点を当てることによって、新しい広域計画、地区の計画の可能性を引き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 新しい都市田園風景文化のビジョンを考えることを促す本

    ビジョンのポイント
    ・自然生態系システムが取り込まれた人工系世界(中道性がカギ、二項対立とは違う世界)
    ・歴史的な時間を可視化する記憶装置(連続性の評価)
    ・集団の無意識な願望を夢としてはぐくむインキュベーター(創発性の評価)

    →生物としての欲求や、社会生物としての欲求を超えて
     地質学的な変化を地球に刻み込んでいる
     いわば「人新世生物」の立場を意識して考える

    → 相対立するものや矛盾するものを敢えて排除せず、共存しうる可能性をもつ

    ビジョンを考え導く人の職能イメージ
    ・幅広い歴史哲学的なものの見方
    ・社会の改革者としての意識と行動
    ・政治、社会、経済、文化の枠組みを変えつつ対応する姿勢

    以下、読書メモ

    「Anthropocene」(アントロポセン)

    人類の時代という意味。日本語では「人新世」と書き、「じんしんせい」または「ひとしんせい」と読む。
    人類の活動が、かつての小惑星の衝突や火山の大噴火に匹敵するような地質学的な変化を地球に刻み込んでいることを表わす新造語。

    都市を考えるうえで重要な5つの概念

    「都会性」「中心性」「密度」「用途混合」「エコロジー」

    「都会性」
     外向的な都市住民の態度、世界市民的雰囲気、開かれた寛容性、知的な軽快さと好奇心
     居住労働環境の過度な改善が都会性の喪失につながる
     自由で自己開発につながる開かれた空間の獲得はエコで社会的な環境に大きな代償を与えた

    「中心性」

     ツリー上のヒエラルキーで存在するセンターはもはや存在せず、
     相互に補完し合って機能面や象徴面で多様なセンターが
     ネットワーク上につながっているなかに必要とされて存在する。

    「密度」
     物理的密度:ボリューム、容積率
     社会的密度:社会的接触の質と量
     社会の質は物理的な密度より中庭や住宅の面する街路など空間的な配置と深く結びついていた
     いったん勝ち取った居住水準をあきらめることは難しく、空地、田園といった環境配慮のお題目もある
     香港のような高密な都市は海や山といった周辺環境とセットだから成立する
     アジア特有の都市空間像であることを意識して考える。

    「用途混合」
     交通負荷から考えて小規模街区での混合が望まれるが、開発需要に合わない
     職住遊近接街区で生活できる人は現在の就労環境では少数
     将来的にはシェアリングエコノミーで設備共同利用の複合用途街区のほうが低所得者にはなじむ

    「エコロジー」
     何をして持続可能な都市とするか。都市も自然の一部。
     建物はいずれ自然とともに語られる文化的価値のあるものとしてとらえる。
     田園風景はノスタルジーで語らずに、都市との関係性の中で文化的田園として能動的に考える。

    間にある都市
     切れ目なく広がる生活域「ハビタット」
     型と生活の匂いがない
     デザイン評価に経済と機能を持ち込まない
     文化と環境を前面に押し出すことが将来の経済的価値につながる
     新しく生まれる文化的風景として「開発エコロジー」

    「広域都市圏」
     1 相互補完的な一つのまとまり。現時点ではあまりない。
     2 新しい社会的な絆と家。専門的で差異化した教育と文化的な機会を設ける
     3 場との新たな関係。映像による現実認識の喪失を実際の認知経験や社会政治的な実践経験で中和する
     4 環境問題、特にゴミ、排水、エネルギー生産、交通などは広域都市圏を生活空間として認識することが必要
     5 利己的で競争主義的な都市の断片化を阻止する。
     6 圏域への外部アクセスで豊かさを引出し、内部アクセス向上で場所の特質をつなぎ豊かさを醸成する。
     7 帰属感覚。好奇心の醸成と共に成長する

    「システムとアゴラ」
     システム:生産、社会、文化的なサービス付与と消費に関するグローバル化
     アゴラ:生活のための文化や場所。いわばローカルプレイス。実空間。
     これらのつながりが決定的に重要。ほっておくと分離する性格のもの。自覚的に。

    「良い都市計画の質」ケビン・リンチ
     1 バイタリティ:生活を維持、増進、生き生きと
     2 センス:知性による理解、読解、体験可能性
     3 フィット:環境と行動のバランス
     4 アクセス:アクセスできることを表現するコンセプト
     5 コントロール:必要な環境が手に入り、与えられ、利用者の手によって変えられること

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著者プロフィール

ベルリン工科大学で都市計画をフリッツ・エッゲリングに学ぶ。ハノーバーの都市計画で知られるハンス・アドリアンやルールのヴルフェン・ニュータウン公社社長を務めドイツ統合後のベルリン建設大臣を務めたゲオルグ・ヴィットバーなど、第一世代の都市計画家に続く第二世代の建築家。ダルムシュタット工科大学教授を経て、現在は名誉教授。スカット都市計画事務所所長を務めながら、欧米各地で新都市計画について講演。

「2017年 『「間にある都市」の思想』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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