- Amazon.co.jp ・雑誌 (190ページ)
- / ISBN・EAN: 9784884184230
感想・レビュー・書評
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創刊号から愛読している柴田元幸責任編集『MONKEY』は、今回も盛りだくさん。
特集は「哲学へ」。いきなりフロイトのヘビー級な文章から始まってどうなることかと思ったが、続く岸田秀の「人間は本能が壊れている」との指摘に、そう考えるといろいろなことの説明がつくなあと強く納得し、内田樹が柴田元幸との対談で語った「『自分探し』ってこの二十年くらいで最も害悪がある言葉じゃないか」に喝采を送った。もうこれだけで十分元は取った気分なのだけれど、まだまだ続く。
本誌の新たなレギュラー執筆者に加わったイッセー尾形のカバー小説、岸本佐知子の連載『死ぬまでに行きたい海』、そして日本文学研究者ジェイ・ルービンによる日本文学アンソロジーの序文として村上春樹が寄せた文章など、良質な読み物が次々と。これで1,400円とは、柴田さんには本当に申し訳なく、そして心から感謝の意を表したい。
そんな盛りだくさんな今号の中で、ひときわ良かったのが本誌全体の1/3強のページ数を占めるブライアン・エヴンソンの「レイモンド・カーヴァーの『愛について語るときに我々の語ること』」。エヴンソンが18歳の時にカーヴァーの短編集『愛について…』に出会って衝撃を受け、その後、この短編集が担当編集者ゴードン・リッシュによって大幅に書き換えられていたという事実を知る。そしてさらに時を経てエヴンソンの担当編集者になったのがリッシュ。まさに「事実は小説より奇なり」を地で行くような展開を、エヴンソンが我々読者の目の前で訥々と語っているかのような筆致で綴る。エヴンソンの胸中は複雑に揺れ動いているに違いないのだが、それを大袈裟に表さないことで、かえってその揺れの大きさが感じられる。エヴンソンの胸中を思いながら『愛について…』を再読することは我々MONKEY読者に課せられた義務だ。
ところで、エヴンソンの上記エッセーの中にこんな一節があった。
「物語が開かれたまま終わり、読み終えたあとも自分のなかで話が展開していくしかないことが好ましかった。」
我が意を得たり。ワタシが好む小説は、まさにこのタイプなのだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
特集:哲学へ
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もはや哲学や内省を受け付けられない齢になっているが、ブライアン・エヴンソンのカーヴァー論だけは面白く読めた。ジェイ・ルービンのペンギンブックス日本短編の選出基準が趣味的すぎてこれは万人向けに出版してはいかんだろうというレベル(少なくともタイトルに偽りあり)