超エネルギー地政学 アメリカ・ロシア・中東編

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  • エネルギーフォーラム
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784885554957

感想・レビュー・書評

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  • 複雑なエネルギー問題を理解するには、まず石油のことを知らねばならない。
    三井物産で原油を取り扱う仕事を長年経験してきた岩瀬さんの経験と幅広い知見と優れた情報収集力が明快な日本語で書かれている。
    ウクライナでのロシアとの戦争に関して知るべくこの本を手に取りました。アメリカ、中東に関する部分も非常に興味深い。(2018年9月の出版だが古い情報は無い)

  • 序章 地政学とは(地図から見えてくること/古典地政学 ほか)/第1章 予測不可能なトランプ大統領を生んだアメリカ(526ドル8セントの調査費/灯油からガソリンへ ほか)/第2章 石油価格や天然ガス価格で強気・弱気が交錯するロシア(かつては世界一の石油生産国だった/「風の街」バクー ほか)/第3章 中東「百年の呪縛」からの脱却を目指す?(二大産油国サウド王家、イラン・アヤトラ支配は永遠か/「最高指導者」という新たな重石 ほか)

  • ふむ

  • アメリカ、ロシア、そして中東の石油開発の歴史と、現在の石油市場におけるポジションや将来性が分かりやすく解説されていた。

    シェール革命により、アメリカの「埋蔵量」が増加しているようには見えるが、基本的には採掘可能な原油の量は市場価格により変動する。採算性のない「埋蔵量」は、実際には採掘されない。また、新ピークオイル論により、生産よりも消費が先にピークを迎えるとされる石油市場において、「埋蔵量」多寡は、競争量の第一の源にはなり得ない。アメリカにとって重要なのは、隣接するカナダ、メキシコとの連携によりエネルギー供給の自立を高めることであるとのことである。

    一方、ロシアは、90年代の衰退の時期から石油の輸出により国力を立ち直らせてきたが、パイプライン、港湾共に、通過国の政情不安や外交関係など、輸出のロジスティックスの面では困難を抱えている。また、プーチンにより推し進められた石油産業の国有化により、石油価格の下落や国際社会からの経済制裁といった動きを通じて、国家の安定性と石油産業の動向が連動して推移するような状態を作り上げている。このことがロシアの石油産業を一筋縄ではいかない状況においている。

    中東諸国、とくに本書で主に採り上げられているイランとサウジアラビアは、政情との関係性がさらに深い。イランにおいては、イスラム革命以降、イスラム教の宗教指導者が権力を握る国家として歩んできたが、経済の面では十分な成長をとげられていない。このことによる市民の不満は高まっており、また核開発に伴う経済制裁などにより、石油の輸出についても決して順調に推移はしていない。サウジアラビアは、石油収入を軸とした超福祉国家として国家を運営していきたが、この政策は石油市場の動向を見てもサウジアラビア自体の石油埋蔵量を見ても、持続可能なものではない。一方で、サウジアラビアが石油収入に依存しない「普通の国家」になるには、国民の意識から国の制度まで幅広い分野における抜本的な変化が求められる。このような大きな変化は通常はかなり深刻な危機を迎えなければ生じ得ないものであり、この国がそのような危機を乗り越えられるのかは予断を許さない。

    以上のように、各国のエネルギーの状況は、政治、経済の情勢やこれまでの歴史と複雑に絡み合っており、これらの状況を把握しながら、日本としてどのようなエネルギー調達の戦略を構築するのかということが、大きな課題である。本書のあとがきに述べられていたが、エネルギー政策というと「原発か再生可能エネルギーか」といった議論ばかりになっている現状は、問題の主要な部分を素通りした議論になっていると思う。日本の長期的な一次エネルギー需要に対応した実効性のある戦略を立てられるよう、国際的な動向を分析していく必要があるように感じた。

  • 「エネルギー地政学について書いてみませんか」と誘いを受けた岩瀬氏の最初の疑問はそもそも地政学とは何かだった。チコちゃん風に言えば地政学の定義も曖昧なままにやれ地政学リスクがどうしたとかのたまっている日本人のなんて多いことかってことだ。筆者が参考にしたのは「地政学入門 外交政略の政治学 増村著 1984」いつも地球儀を手にして世界のあらゆる地方の相対的な距離感覚をつかむこと、「常に地球をひとつの単位とみて、その動向をできるだけリアルタイムでつかみ、そこから現在の政策に必要な判断の材料を引き出す」もの、「常に動態力学的な見地から見ようとするもの」で一種の国際政治学だ。

    個人的には地政学といえば高校生の頃に読んだ倉前盛通の悪の論理だったので、地政学は学問というよりはイデオロギーなんだというすりこみが残っている。地政学リスクについては政情が不安定な地域の政治的、軍事的なリスクくらいの認識だ。

    岩瀬氏も学問的な意味では「地政学」という言葉を安易に使うことは妥当ではないとし、地理は国家の行動の重要な制約要因であり扇動要因であるという前提に立ってアメリカ、ロシア、中東のエネルギー政策を述べている。

    トランプのアメリカ第一エネルギー計画はアメリカには資源が膨大にあるというスタートの認識が間違っている。特にシェールオイル・ガスの活用と石炭産業の復興はどうやっても両立しない。雇用に繋がりそうなうまい話を並べているだけだ。エネルギーの自立を目指すのであれば原油と天然ガスの調達先であるカナダ、メキシコは一体と考えNAFTAを維持すべきとなる。地政学という意味でも長い国境線のある隣国は少なくとも敵対するのは得策とは思えない。

    かつて世界一の産油国だったロシアの油田開発は才能に恵まれず、弟の会社の資金を黙って流用したノーベル兄弟の長男ロベルトのバクチから始まった。ノーベル兄弟の課題は輸送コストの低減と冬の半年は閉鎖しなければならないという自然条件の克服だった。最初は樽詰され船で運ばれた原油は次に鉄道とタンカーにそして現在はパイプラインに置き換わった。プーチンは経済発展と安全保障の確保の為石油、天然ガスを最大限に有効活用するため国家の管理のもとにおいた。強いロシア復活の基礎になる部分だ。ロシアにとってのウクライナの重要性は、クリミアの黒海艦隊基地の支配とヨーロッパ向け天然ガスのメインのパイプラインが通ることにある。ロシアの課題は国家予算の2割を占める軍事費の削減だ。弱点であるエネルギー価格の下落を避けながら産業構造の転換をはかるということになる。

    中東の二大産油国サウジとイラン、供給より先に需要がピークを迎えるという新・ピークオイル論が定説となりこの二国はどう適応して行くのか。石油により支えられてきたサウジの家産性福祉国家は人口増の為終わりを迎える。労働人口の7割が1日に1時間しか働かない公務員の国をサルマーン国王の息子、MBSと呼ばれるムハンマド・ビン・サルマーンが変えようとしている。皇太子、副皇太子を次々と更迭する宮廷内クーデターによりこれまでの王族長老の集団統治からサルマーン家のサウジへと権力を集中させた。サウジ(サウド家の)アラビアではなくサルマーニアラビアだ。足元では記者殺害事件が世間を騒がし、300万人の公務員と数千人いるサウド家の王子を養うことはできず、ロシア以上に負担の重い軍事費の削減もある石油の純輸入国になるという予測もある。痛みを伴う改革は避けられないがそれは世界にどんな混乱を与えるのだろうか。イランは宗教上の最高指導者ハメネイ師が選挙で選ばれた大統領の政策に拒否権を持つ。革命後に生まれた39歳未満が人口の70%を超え、欧米の経済制裁は緩んでも改善されない政府の経済政策に対する不満は溜まっている。高齢のハメネイ師の跡をどういう人が継ぐのか。それぞれ内政に問題を抱える二大国の地域派遣争いはどうなるのか。こちらも原油価格の維持が安定をなんとか支えていることになる。

    さて日本には明確なエネルギー政策が見当たらない。エネルギー基本計画の中核は電源燃料のベストミックスだった。だが電源に使用されているのは1次エネルギーの1/4だ。エネルギーの自給率は僅か7%、ではこれからどうするかだ。

  • 東2法経図・6F開架 501.6A/I96c//K

  • 週刊東洋経済20181027掲載

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著者プロフィール

エネルギーアナリスト。1948年、埼玉県生まれ。埼玉県立浦和高等学校、東京大学法学部卒業。1971年、三井物産に入社後、2002年より三井石油開発に出向、2010年より常務執行役員、2012年より顧問、2014年6月に退任。三井物産に入社以来、香港、台湾、二度のロンドン、ニューヨーク、テヘラン、バンコクでの延べ21年間にわたる海外勤務を含め、一貫してエネルギー関連業務に従事。現在は、新興国・エネルギー関連の勉強会「金曜懇話会」の代表世話人として後進の育成、講演・執筆活動を続ける。
著書に『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?』『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』『原油暴落の謎を解く』(以上、文春新書)など。

「2022年 『武器としてのエネルギー地政学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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