王の奇跡: 王権の超自然的性格に関する研究特にフランスとイギリスの場合

  • 刀水書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (617ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784887082311

作品紹介・あらすじ

原題は「奇跡を行なう王たち」ないし「奇跡をもって病気を癒す王たち」の意。「王の奇跡」とは、王にさわってもらえば病気、それも瘰癧が治癒するという俗信のことである。中世、王の権威は必ずしも不動のものではなかった。特に、フランスの場合、カペー朝初期の王の実勢力など到底大諸侯に及ばなかった。にもかかわらず、この種の呪術的な権威は王のみが保持するところであった。この一見取るに足りない慣習を手がかりに、「宗教的なものから魔術的なものに至るまで何段階にもわたる王の観念」、「他の一切の権力に優越するだけでなく、全く別個の次元に属する権力」を解明した。

感想・レビュー・書評

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  • ようやく読了。
    マルク・ブロックはアナール学派初期の泰斗。本書はストラスブール大学から1924年に刊行された。ドイツとフランスで取り合いをしていたアルザス・ロレーヌが、第一次世界大戦後、フランス統治下におかれた頃である。

    中世期、フランスとイギリスの王は、瘰癧患者に触れると治癒するという奇跡を起こせるとされてきた。実際、多い年には数千人も触ったらしい。
    この奇跡の源泉は王権にもとづくのか、キリストにもとづく(王は塗油によって聖別された)のか、世俗権力と教会権力の力関係によってさまざまに解釈されてきた。たとえば、グレゴリウス改革期は教会権力を世俗権力の上に位置づけるためにもちろん後者の解釈が喧伝されたし、プロテスタントサイドは、カトリックの儀式の価値を認めない。

    フランスとイギリス以外の国では見られないというのと、イギリスでは指輪や貨幣を奇跡の媒介にするケースが多いというのも興味深い。王が奉納した癲癇指輪(クランプリング)という指輪が癲癇を治療すると言う信仰もあったらしい。トールキンの指輪物語の国にはこういう下地があったのだ。

    起源はイギリスよりフランスの方が早く、メロヴィング朝やカロリング朝では記録が見られず、カペー朝になってはじまったというが、これは感覚的には違和感がある。カペー朝の正統性を補強するために奇跡の力を借りた、と言う解釈だが、フレイザーじゃないが、むしろ古代の方が「王」のもつ超自然的な力に対する信仰は強かったのではないかと思うのだ。

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著者プロフィール

1886-1944年。フランスの歴史家。リュシアン・フェーヴルとともに『社会経済史年報』誌を創刊し、アナール派を代表する人物。代表作に『封建社会』(1939-40年)、『歴史のための弁明』(1959年)など。

「2017年 『比較史の方法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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