ずるい!? なぜ欧米人は平気でルールを変えるのか (ディスカヴァー携書)

著者 :
  • ディスカヴァー・トゥエンティワン
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784887597792

作品紹介・あらすじ

1998年長野オリンピック、日本のスキージャンプ陣はビッグジャンプを連発し、輝かしい結果をおさめた。その直後、欧米人が主導する国際競技委員会は新ルールを導入、日本人ジャンパー達は不振の時代を迎えた…。「ずるい!」「またかよ!!」なぜ欧米人は平気でルールを変えるのか?この苦々しい思いから脱却するにはどうすればよいのか。

感想・レビュー・書評

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  •  著者の青木さんは本田技研にお勤めで、世界をまたにかけた活躍をされているとのこと。その実体験などを元にされるお話に、非常に説得力を感じました。実は読書会で知り合った方の旦那様でもあります。訳者として出版された『想定外』と併せていただいてしまいました、、感謝!<(_ _)>

     「ルールとプリンシプルの違いを理解したうえで、ルール作りへの参画を闘いの範囲に加える」

     日本人はとかくプリンシプル(原理・原則)とルール(手段・手続)を混同しがちですが、本来は、プリンシプルに基づいてルール策定を行っていくべき、とは、なるほどと。

     例えば、具体例として上がっている、1998年直後のスキージャンプルール改正ですが、当時、なんとも後味の悪い感想を持ったのを今でも覚えています。ただ、その後の結果を中長期的に俯瞰すると、体系的にも日本人と変わらない方が結構勝利しているとは、かなり意外でした。

     「1チームが勝ちを独走しては面白みがなくなってビジネスとして成り立たなくなる」

     身近な例で言えば、、日本のプロ野球(特にセ・リーグ)がつまらなくなった理由などを思い浮かべてしまいました。確かここ十年くらい、大リーグはいつ観てもそれなりに面白く見れるのですが、日本の野球はオールスターも含めてなんとも見る気がおきません、、

     「公益と社益が一致してこそ、企業の存在意義もある」

     個人的には、暴力団と癒着している人間が監督であり続けられる時点で、公益(社会的責任)への意識も希薄なんだろうなぁ、とも感じてしまいますが、、閑話休題。で、「企業の社会的責任」との意識、この辺りはさすが、欧米との折衝の最前線におられる方です、本書は2009年出版ですので「ISO26000」が策定される前のはずで、、ふむふむ。

     「勝ちすぎは社会を豊かにしない」

     ルールを変えたからといって誰かが独占的に得をしているわけでもなく、勝利の「機会」を均等に、とは納得で、独占的な勝ちすぎはその「社会」の成長の阻害要因にもなると、この辺り、ストンと入ってきました。欧米での文化的背景も影響してそうで、多様性と機会均等のバランスを模索していく必要は確かになぁ、と。

     「ルールなどの制約は、成長の糧になりうる」

     固定化された概念は停滞にもつながり、それ以上の成長はのぞめなくなる一方、ある種の制約が設けられることで、それまでの概念では行き着けなかった段階への成長が期待できる、と。それ故に、常に変化していく環境下で勝てなくなっていくのは、相手が「ズルイ」からではなく、自分の勝つための努力が足りてないからではないかと。そして「自身を含む社会が成長していくために」、「ルールは"守るもの"であるだけでなく、"自分たちで作っていく"」必要があるのではないかと述べられています。

     ここで大事なのは「自身を含む社会の成長」で、これはプリンシプル(原理・原則)であって、おいそれと変えるものでもない。しかし、この原理を最大限に実現していくためのルール(手段・手続)は、適宜変えていくべきだろうと、この辺り「法」の理念とも通じるのかな、とも感じます。

     個人的には、ようやく道筋が見えてきた憲法改正を見据えて、いろいろと考えるきっかけになりました。一度決めたものに縛られがちなのは、日本人の傾向のひとつで、メリット・デメリットがそれぞれあると思いますが、それに縛られすぎて本質を見失ってしまうのは、よくはないだろうなぁ、、とは考えています。

  • 日本人と欧米人の、ルールに対する考え方の違いをまず取り上げてます。それによると、日本人はあくまでルールには準拠するのが当たり前と考えており、それが美徳にも繋がっている。一方で欧米人は、ルールは自分たちにとって都合のよいように解釈し、必要があれば変更・修正して、より好いものにしていくものと考えている、らしい。

    これだけ聞くと欧米人は酷いな、という風にも思えますが、そこはきちんとフォローされてます。著者いわく、「欧米人は相手とケンカをしてでも、その世界全体のバランスを取り、全体としての魅力を保つことを考える視点がある」とされています。この論に対しても是非はあるだろうけど、首肯できる部分もあります。

    そんな背景を踏まえ、ルール作りに積極的に参加し、「自分の利益だけを追求せずに、その世界全体にとってプラスとなるようなルールを自分たちで作り、守っていく」ことが大事だというのが著者の結論。ただただ利己的にルールを作ればいい、と言っている訳ではないところは共感できました。

    誰かが一人勝ちするようなルール(もしくは偏った戦力、独占的な市場など)では、スポーツでも経済でも政治でも他のアクターが不満を持ち、その世界の魅力が落ちていくという指摘は納得でした。だから、最近の野球は面白くないんですね。

  • ルールとプリンシプルの違いって、いい切り口ですね。

     ルール/プリンシプル
     考え方の違う人・組織間の決め事/考え方の同じや組織の中に発生
     状況にあわせて変える/状況に左右されない
     他律的/自立的

    ルールとプリンシプルを混同している企業って多いように思います。
    だいたいプリンシプルのほうに解釈が傾いているので、原理主義っぽくなっちゃっているような気がします。
    ルールを議論しようとすると、自分のアイデンティティを否定されるように感じて反発しちゃう。
    ルールが上記の意味でのルールと解釈できれば、もっと柔軟な立場をとれるだろうに。

    ルールを自分に都合の良い方向(私益)に変えたらどうだ、という議論に対して、公益中心の立場を示しているのは興味深いですね。
    ルールを変えて本当に勝てるのか、という検証は「なるほどそのとおり」と感じました。(勝てた例と負けた例の、ルール変更に関するスタンスというか背景というか認識のところをビジネスの実例で述べていて大変興味深かったです)

    新しいルールに対する会社のスタンスとして以下の内容が示されています

     ステップ1 ルールの理解と遵守度の点検 社益を念頭
     ステップ2 ビジネスチャンスの模索 社益を念頭
     ステップ3 ルール作りに参画 公益を念頭

    会社で、ステップ2やステップ3について議論してみたいものです。

    2010/03/31

  • ・ルール変更は一人勝ちを防ぐため
    ・ルールが決まっているからと言って、必ずしもすべて受け入れる必要はない
    ・ルール作りも勝負の場である
    などルールに対する見方が変わります。

  • 納得させられること多し。ルールとプリンシパルの違いとか、今まで深く考えてなくて無意識で思っていた事柄に、予想以上に「感情」が絡んでいることが分かってなるほどと思わされた。

  •  「欧米諸国は、ルールが自分たちに不利になると、ルール自体を有利なものに作り変えてしまい、ずるい」という感覚をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。僕も本書を読むまでそう思ってました。

     しかし、本書を読んでその意識は変わりました。本書では、スキージャンプのルール改正や柔道のルール改正、そしてアメリカの自動車産業のルール改正とその結果をつぶさに検証しています。その結果わかったことは、ルール改正によって必ずしも有利になるとは限らず、逆に当該ルール改正により不利になると思われていた側が勝つケースもある、ということでした。
     やっぱり印象論で言うのではなく、きちんと事実・データに当たって検証してみなきゃいけないなぁ、と改めて思わされました。

     これは本書に限らず以前から指摘されていたことですが、日本人はルールを遵守する意識は高いが、ルールをより良いものに作り替えたり、ルール作りに参画していく意識が希薄だ、ということです。これはTPPを巡る議論において賛成派の主張の中にも見られたものだと思います。
     そしてこの話は、民法の債権法改正にもつながってきます。詳細は内田貴『民法改正』(ちくま新書)をお読み頂きたいのですが、一般市民が読んで分かりやすい民法を作る、時代に合わせて改めるという事以外にも、民法改正には狙いがあります。それは、国際商取引における準拠法として日本民法が用いられるようにすることです。ただし、これを「自分たちに有利なルールを相手に押しつける」とセコい次元で解釈すると、準拠法化(法の輸出)は上手くいかないでしょう。むしろ、相手にも喜んで使って良いルールを作り、みんなでシェアする、という思いで作った民法でないとおそらく準拠法として採択されないと思います。

     ちょっと民法改正に話が逸れましたが、ルール改正というのは、なにも自分たちの有利になるような覇権争いというだけの話ではありません。例えば、柔道のルール改正で言えば、日本選手が勝てるかどうかではなく、「本当の柔道の魅力ってこうですよ。それをそのように変えてしまったら、柔道着を着たコスプレレスリングになってしまい、柔道という競技の魅力が死んでしまいますよ」と、柔道本来の魅力を伝え、理解してもらう方向でルール改正にアプローチしていった方が諸外国の理解も得られやすいと思うのです。
     実は、日本のルール改正参画のまずさって、こういう目的・ビジョンがしっかりしてないことが大きな一因なのではないか。そんなことを本書を読んでいて感じました。

     欧米人はずるい! と思っている方にこそ一読して欲しい本です。

  • スポーツの世界で日本人が勝つとなぜルールが変わるのか?そこから欧米人と日本人とのルールに対する考え方を面白い観点で論じている。
    「欧米人はルールは変えるもの。日本人はルールは守るもの」その決定的な考え方の違いが、ビジネス上にも大きく影響しており、技術の国際標準化など国際的なルール作りに日本自身が積極的に参画することの重要性を説いている。

  • ルールとは誰のために存在するのか - 読んだものまとめブログ http://t.co/WWgJjNJ via @sadadad54

    本当に安心する場所を作るためにすべきこと - 読んだものまとめブログ http://t.co/XttifMC

  • HONDAに勤める著者のリアルなルールに関する考察とエピソードが楽しい。

  • 日本選手が大活躍した長野五輪の翌年、ジャンプ
    のルールが改定。
    ホンダがターボ・エンジンでF1連勝を果たした
    翌シーズン、同エンジンが禁止。

    こんな実例を挙げながら、ルール変更について
    分析を試みた一冊。

    少し論理付けが足りないと感じる部分もあるが、
    主旨は明快で、展開も分かりやすい。
    しかも、いたずらにルール変更に関して憤ったり
    批判したりするだけでなく、それに対する日本の
    対応や、結局長い目で見たときの勝者は誰だった
    のか、というところまで掘り下げてあって納得感
    も十分。


    ところで、この本、内田樹の『日本辺境論』と
    合わせて読むのが俄然面白い。

    欧米がルールを変更し、それに対応してゆく日本
    という構図には、内田さんご指摘の日本人の辺境性
    が明確に表れている。

    「辺境人たる日本人の面目躍如」というサブタイトル
    をこの本に冠したい。

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著者プロフィール

1956年、東京都生まれ。自動車メーカーにて海外勤務を経たのち、渉外部長、総務部長を務め、現在は社長付。海外では販社開発、国内では政官財界との折衝、リスクマネジメント対応、株主対応などを管轄した。ビジネス研究の傍ら、マーケティングやマネジメントに関する書籍の執筆、欧米の関連書籍の翻訳を行うほか、都内の大学院で教鞭にも立っている。著書には「なぜ欧米人は平気でルールを変えるのか」「日本国憲法はどう生まれたか」(以上はディスカヴァー携書)、「白洲次郎に学ぶビジネスの教科書」(講談社)、翻訳書には「想定外」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「成功のタネを蒔く人」(幻冬舎)、「ストア・ウォーズ」(同友館)など多数がある。

「2017年 『NO BAGGAGE 心の「荷物」を捨てる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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