- Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
- / ISBN・EAN: 9784888880497
感想・レビュー・書評
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経済学、法学、歴史学、、、我々が生きる現実世界において関連しあっているこれらの学問は、19世紀以降その専門性を追求したが故に相互の関連を失い、あたかも独立したものであるかのようになってしまった。また、高度に学問的になってしまったが故に実際にそこにいた人々が何を感じ行動したかといったような人間性をも失ってしまった。「社会史」を考えるためには諸学問を総合し、具体的に考えることが必要である。そうすることで初めてその時代、その場所にいた集団の生き生きとした「画像」は感じられてくる。
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ヨーロッパ中世の社会史を専門とする著者が、みずからの研究を振り返りながら、著者自身の構想する「社会史」の全体像を素描しようと試みた本です。現代的な観点を先取りしていると思われる点と、やや古い問題意識に捕らわれていると思われる点が、混在しているという印象を受けました。
著者は、ヨーロッパ中心の単線的な発展史観を批判し、社会史研究を通して「ヨーロッパ」の内にさまざまな伝統が重層的に堆積していることを明らかにします。この点で著者の研究は、アナール派以降の新しい歴史学の潮流と共振するところがあるのですが、他方で著者は、アナール派に対する批判も語っています。著者の批判は、アナール派の研究が、「ヨーロッパ」をトータルなかたちで把握しようとする「綜合」の努力を怠っているという点に向けられています。
たしかにそうした批判には耳を傾けるべきところもあるのですが、著者の「綜合」の試みは、「ヨーロッパ」というものをトータルに把握しようとする歴史家の意欲に発しており、しかもそれが、日本の近代化の偏倚を浮き彫りにしようとする意図に裏打ちされているように感じることもなくはありません。
たとえば著者は、『都市』(ちくま学芸文庫)という著作を書いたときの自身の問題意識について語っています。それによると、「ヨーロッパには十八世紀的意味での市民社会や市民革命の概念とは別個に、十二、三世紀以来日常生活に即してはぐくまれた「市民」意識の伝統があること、……その伝統をもちあわさず、「国民」と「個人」だけで近代国家の諸制度をつくったわが国としては、その諸制度の運営に新しい市民の意識を、何らかのかたちでとりいれるのでなければ、デモクラシーの真髄を活かしえないのではなかろうかということ」が、この本を執筆した意図にあったとされています。こうした問題設定に、やや大時代的な印象を感じるところがあります。 -
『読書の軌跡』阿部謹也より