モダン都市の読書空間

著者 :
  • 日本エディタースクール出版部
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784888883108

作品紹介・あらすじ

活字メディアと読者の関係を媒介する書店や図書館といった読書装置。これらの読書装置が集中し、濃密な読書空間を形成していったのが、大正から昭和初期にかけてのモダン都市・東京であった。大衆化しはじめた円本や雑誌メディアの動態学を、サラリーマンや労働者読者の日常生活に即して描く本書は、「読書の都市」東京をフィールドとする読書史の試みである。

感想・レビュー・書評

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  •  図書館より

     大正から昭和にかけ読書をする層がどのように移り変わってきたのか、読書の社会的意味合いがどのように変わってきたかが非常に分かりやすく書かれていました。
    読書文化の歴史を調べる上では同じ著者の方が書いた『読書国民の誕生 明治30年代の活字メディアと読書文化』と並んでとても良書だと思います。
    この二冊を読めば明治以降の読書文化の変遷の概要はだいたい抑えられると思います。

     この本内での大きなテーマの一つとして挙がっているのが「読書の大衆化・娯楽化」です。当時は「キング」や「文藝春秋」といった総合雑誌の登場や、円本や文庫など安価な書籍の登場がそれを進めていったみたいですが、現代はその傾向がさらに進んでいっているように思います。

     円本で売られていた本は「日本文学全集」だとか「世界文学全集」「夏目漱石集」といったものだったそうですが、これらの作品は現代では娯楽の対象という感じは全くしないと思います。当時は本の値段が高いものが多かったことに加え、出版業界も現代と比べると、まだ量が充実していなかったこともあって、娯楽のための書籍は少なかったのでしょう。
    だから数少ない安価な書籍が娯楽として捉えれていたのではないでしょうか。
    現にこうした全集は”文化の解放”(エリート層から労働者層への書籍の解放)という意味合いもあったそうです。

     その解放が果たされた現代を象徴しているのがライトノベルの席巻ではないでしょうか。有川浩さん桜庭一樹さんのライトノベル出身作家さんの活躍然り、最近では出版社の老舗新潮社が新たに”新潮文庫nex”というライトノベル出身作家を中心としたレーベルを立ち上げたりと、そうした動きはますます盛り上がってきているように思います。
    それもまた書籍という文化が解放されて、作者たちの自由度が増し、また読者の趣味の多様性も広がっていった、という事ではないでしょうか。

     電子書籍も登場したりとさらなる変化が予想される読書文化ですが、自分もその波に乗り遅れないよう色々とアンテナを張りつつさらにいろんな本に手を出していきたいと思います。

  • 2013 2/18読了。筑波大学図書館情報学図書館で借りた。
    図書館系勉強会向けに借りてきたもの。
    大正後期~昭和初期にかけての東京の読書史を扱う本。
    読書の大衆化の詳細に踏み込んでいく内容。
    読書を支える構成要素として
     1.活字メディアの普及
     2.流通機構="読書装置":メディアと読者の間に介在するもの/読書生活に決定的に作用するもの(この中に図書館も含む)
     3.読者のリテラシー(メディア需要能力)
    を想定し、特に読書装置に着目して論じていくものである。

    以下、各章のメモ。

    ○1章:
     ・p.3-4に出版業の東京一極集中への言及あり
      ・徐々にそれが進んでいることを示す表もある。これは良い
     ・p.25- 図書館の話・・・大正~昭和初期東京の図書館では閲覧席の座席待ちが1,500人以上という例も!
     ←・これ授業で使えそうな写真だな・・・
     ・流通が広がり大衆得書が生まれたとえはいえ、読むものが共通なわけではない・・・東京下町(やわからい本)/山の手(かたい本)の格差

     ・大正10年・都市部の小学生・・・「社会主義」「デモクラシー」「普通選挙」等の言葉を知っているものが7~8割で、多くは「新聞・雑誌で知った」(p.37より)。一方、農村では知っているものは1割程度。


    ○2章
    ・p.51 雑誌の定価販売確立について・・・
     ⇒・業界団体の活動について等
     ⇒・大正3年に値引き販売防止等が本格化
     ⇒・「東京雑誌販売業組合」の確立(大正8年)

    ・雑誌への需要の高まり⇔価格は高くて何誌も買えない
     ⇒・「雑誌回読会」+月遅れ雑誌
     ←・ここ図書館の根拠にも使えるかもな・・・

    ・回読会は地方には(貸すのではなく)雑誌を販売(月遅れなど)
    ・昭和初期の雑誌価格・・・『中央公論』80銭(今の3,000-4,000円?)
     ⇒・雑誌も本も高い・・・そこに図書館の役割も?

    ・「東京巡回図書館」・・・「図書館」と名乗っているが営利的な回読会
     ⇒・値段自体を出版業側が下げる動きも
     ⇒・大正末期:文藝春秋と円本

    ○2部:活字メディアの大衆化
    ○3章:初期文藝春秋

    ・p.118・・・キングは小学校卒くらいが対象、文藝春秋は中学校卒が対象、といったイメージ
     ⇒・都市の新中間層がメイン/農民は視野にない
      ⇔・後に農村へも拡大路線

    ・p.122・・・文藝春秋は移動時に読まれることを企図している
     ⇒・むずかしすぎないが、人前で読んでも恥ずかしくないもの
      ⇔・言い換えればキングは人前で読むのは恥ずかしいものとの認識

    ・『キング』が非読者を読者にすることを狙う雑誌なら、『文藝春秋』は知識人の開拓を目指すもの


    ○4章:円本ブームと~
    ・書物・・・雑誌/新聞に比べ普及が遅れる
     ⇔・大正末期までに新聞/雑誌により読書能力は備わっている
      ⇒・書物の大衆化が望まれるとき
      ⇒・円本/文庫本の登場

    ・円本・・・最大読者の獲得を目的にあらゆるネタを探す
     ⇒・大衆化しうるあらゆる要素が詰め込まれる(p.133)
     ⇒・「累計数千万の書物の洪水」(p.134)

    ⇔・従来考えられていたほど農民層等には普及していない?
     ⇒・都市中間層や地主層が購読者の中心
      ⇒・月1円は安くない
     ⇔・それでも労働者・農民が本に手を出せる契機なのは確か

    ・雑誌と違い円本はブーム後も残る
     ⇒・家庭における図書館的機能
     ⇒・青少年への体系的読書材料
     +価格低下で貧しくても買えるものに!

    ・円本により日常的な読み物が講談本⇒世界の文学に!

    ○3部:労働階級と読書階級
    ・5章:労働者も本を読む⇒購買力はない
     ・古本/雑誌回読会/公共図書館/工場図書室
     ・最大の入手経路は「知人に借りる」(日本図書館協会昭和10年の調査) 

    ・「労働者読者」の誕生と従来からの「知識人読者」層との対立

    ○6章:読書の大衆化に対する旧来からの読書階級=知識人の対応
     ⇒・サラリーマン読者層について、書物を拠り所とする知識階級

  • 2009/11/7図書館で借りる 中央   019 ナ [5F総記]

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著者プロフィール

1955年、鹿児島県生まれ。九州大学文学部卒業、出版文化・大衆文化研究。日本出版学会、日本マス・コミュニケーション学会、メディア史研究会、日本ポピュラー音楽学会会員。著書に『「リンゴの唄」の真実――戦後初めての流行歌を追う』(青弓社)、『オッペケペー節と明治』(文藝春秋)、『流行歌の誕生――「カチューシャの唄」とその時代』(吉川弘文館)、『怪盗ジゴマと活動写真の時代』(新潮社)など。

「2019年 『歌う大衆と関東大震災』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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