学生よ: 1848年革命前夜の講義録

  • 藤原書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784894340145

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  • 1848年の2月革命前夜、ある歴史学者が行った若者へのアジテーション。「社会を変えるのは、まだ何者でもない君たちである」。とにかく熱く、若さへの無謬の期待がそこにある。

    読めば読むほどに、社会問題というのは当時からあまりカタチを変えていないことがわかる。はびこる拝金主義と、一方で非人間的な管理社会を標榜する共産主義。エリート(=知識人)と市民との遊離。学問分野におけるタコツボ化。社会のなかで個々が分断された、旧政体の黄昏時。まさに現代にそのまま当てはまる構図。

    ミシュレの理想はこうして分断された社会において、各々の断裂した箇所を学生(=若者)が埋め、市民を統合すること。「まだ何者でもない」からこそ、専門分化した社会を繋ぎとめる力を持つ、と。当時、高等教育を受けることのできた若者というのはかなり限られた層であったに違いない。そういう意味ではいささかエリート主義くさいのだが、社会変革を既得権益に染まっていない若者が担う、というのは歴史のなかで証明されてきた(革命後のシステム作りにおいて、概ね上手くいかないという点においても)。

    ミシュレは同時に思想/良識において、フランス全体が統合される必要があると説いた。こういう志向はややもすると全体最適のために、ある部分を切り捨てることのよしとする→ファシズムちっくな誤解を受けるが、そうでもない。ある部分では個人主義(神のミエザル手)への信頼だけでは立ち行かない。

    「物質的面の改善にほとんどもっぱら気を奪われている社会主義者たちが欲する以上に、深いものとならなければなりません。革命はニンゲンの奥底に行き、魂に働きかけ、意思に到達しなければならないのです。革命は欲せられた革命、心の革命、道徳的かつ宗教的な変革とならねばならないのです。その時まで、私たちは何も持たないでしょう。」

    かなり精神論/根性論っぽいが、これが心理なのだろう。いくら社会システムが変っても、そこで暮らす市民の思想/良識が伴っていなければ、どれだけ上手に為政者が取り回しても上手くはいかない。

    社会を形作るのは、やはり下からのチカラ。市民自身の手によるところがもっとも大きい。ミシュレの学生へのアジテーションに込めた希望はそこにあるのだろう。そのために若者が何ができるのか。1848年に突きつけられた課題は、いまだに現代性を持って目の前にそびえている。

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