涙を売られた少女

  • 未知谷
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  • Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784896421767

作品紹介・あらすじ

第二次大戦終戦後十年余のある日のこと。語り手のボーイはハンブルクに向かう船上で、奇妙な男に「ネレの物語」を書かないようにと忠告される。だが遠縁のネレはランゲ・ライエ通りに住むごく平凡な十一歳の少女。幼いころ両親が離婚し今は母方のソーニャ叔母さんの居酒屋が家庭代わりで、教員の父親と二人暮らし。久しぶりにその居酒屋を訪れたボーイは「彼女は私と同じで泣くことができない。時代に合っているんだ」と電話で話す黒ずくめの痺せた紳士を目撃する。同じ日ネレの天才的な歌声と踊りに驚嘆した音楽プロデューサーがネレの父親と契約を交わすと、ネレは世界的な大スターへの道を歩み始める。有名になるにつれて、ネレの心は不安定になりしばしば爆発する。『笑いを売った少年』を執筆中のボーイは黒ずくめの紳士が気になりネレが心配でたまらない。ティム・ターラーは良い知恵を授けてくれるのか。ネレの涙を売ったのは誰?痩せた紳士の目的は?何より、ネレは笑ったり泣いたり出来るようになるのだろうか。

感想・レビュー・書評

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  • 作者クリュスは、ケストナー、エンデと共にドイツ三大児童文学作家に数えられる。著作『笑いを売った少年』(未知谷刊。講談社刊の『わらいを売った少年』は児童向けの抄訳)では、不遇な少年がある日出会った不思議な紳士に自分の笑いを売る。引き換えにどんな賭けにも勝つ力を得るが、やがて笑いの真の価値に気づき、それを取り戻す旅に出る、という物語が展開した。本書はその続編。
    主人公ネレは歌と踊りの才能に恵まれた少女。そんな彼女に目をつけたのが、前作にも登場する不思議な紳士だ。彼はネレの両親に金を積み、契約を取り交わす。ネレを国際的な歌手にする代わり、彼女が泣くことを禁じた契約だ。幼い頃から泣くことのできない子だったネレに、敢えて涙を禁じた紳士の意図とは……。
    物語の語り手「ボーイ」、その良き友人にして前作の主人公であるティムを始め、『笑いを売った少年』の登場人物たちが脇を固める。敵役の紳士は人智を超えた力を持つ恐るべき存在だ。ところがいつも何かしら的を外した振る舞いをするので憎みきれない。
    前作では普通の人間のようにうっかり車の前に飛び出してはねられた。今回は契約から逃れようとするネレの気を引こうと、アザラシの姿で話しかけたり、補虫網を被せてみたり、その奮闘ぶりが笑いを誘う。子どもたちに寛容と共生を教えたい、という作者の願いが、悪役の性格の上にも現れているようだ。
    物語自体はさながら少女スターのバイオグラフィー。ヒット曲が生まれる経緯や、華やかで空しいショービジネス界の描き込みに力が入れられ、細部にこだわった描写が多い。有名になっていく過程でネレが陥るヒステリカルな破壊衝動にはどきりとさせられる。
    子どもの能力を金で売り買いする大人への批判も随所に読み取れる。邦題はその意を組んだものだろう(原題は『Nele oder Das Wunderkind』。直訳なら『奇跡の子ネレ』となる)。
    芸能活動に邁進する少女を追って坦々と進む話なので、前作にあったような波乱万丈のストーリーやファンタジー要素を期待して読むとやや意外。涙と笑いは表裏一体であるということ、それらが人間を動物から区別し、内面を自由にする、という件が興味深い。

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