- Amazon.co.jp ・本 (335ページ)
- / ISBN・EAN: 9784901998147
作品紹介・あらすじ
紀州の旧家の土蔵に眠っていた膨大な文書。それは、皇帝溥儀と関東軍司令官らとの496回にもおよぶ密室での会談記録だった。満州国崩壊から60年を経て、極秘文書が浮彫りにする「人造国家」の驚くべき内実。
感想・レビュー・書評
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【化かし化かされ,隠し隠され】満州国皇帝・溥儀と要人の会見記録を克明に残した『厳秘会見録』。公にされてこなかったこの第一次資料を基に,溥儀とは,そして満州国とはいったい何だったのかという問いに切り込んだ作品です。著者は,『ドクター・ハック』や『トレイシー』といった昭和史に関する一級の著作を世に送り出している中田整一。
自分にとって,「この人の作品は読んで絶対に間違いがないな」と思う人の一人が中田整一氏なんですが,本作もその(身勝手な)期待をまったく裏切らない作品でした。溥儀と日本関係者の生のやり取りから,満州国政府の運営が,極めて繊細な政治的駆け引きの上に成り立っていたことがよくわかりました。
〜「私たちは,清朝復辟のために関東軍を利用し,関東軍もまた私たちを政治目的のために利用しただけです。そのための仕組みが私たちにとっての『満州国』でした」〜
後半に進むにつれて次第にのめりこんだ一冊☆5つ -
満州国皇帝・溥儀の日本語通訳を務め、溥儀の信頼厚かった外交官・林出賢次郎。
彼が残した皇帝と関東軍司令官との膨大な会談記録をもとに、「満州国」の実像に迫る。
強硬路線を進む軍部と、戦火の拡大を阻止しようとする外務省。
清朝復活を願う溥儀と、満州のみの独立を狙う日本。
その余波として皇弟・溥傑を"帝族"と見なすか否か?
満州の扱いを巡って、様々な対立や二律背反が見られます。
関東軍司令官が駐満州国大使を兼任していた状況で、外交官である林出が外務省に送り続けた「厳秘会見録」は、軍部と外務省の暗闘の産物でした。
そしてその暗闘の結果としての林出の解任劇も・・・
この本を読んでもう一つ気が付いたのは、当時の軍部高官、とりわけ陸軍大将たちは、何か問題が起きると潔く責任を取って辞任していましたが、その後は陸軍大臣・参謀総長・教育総監・関東軍司令官・朝鮮軍司令官・台湾軍司令官・朝鮮総督といった高級ポストを転々とするだけで、実際にはなんの処罰にもなってませんね。
中には数年で同じポストに返り咲く人もいたし。
なるほど、こんな無反省な連中が牛耳っていたから、帝国陸軍は無責任にも戦争おっ始めたんだなw
ニン、トン♪ -
「阿片王」に続き、満州モノ。ここのところ読み漁っている本は第二次大戦に関するものが多い。まぁ、あきるまで続けます。
さてこの本、溥儀と日本人高官との会談において長年にわたり通訳をされていた林出氏が密かに軍部の動きを外務省に伝えるために作成した会談録をまとめたものである。本書の中でも書かれているが、溥儀は林出が通訳する限り、会談は絶対に漏れないと信じきっていた。しかし、外務省の高官には筒抜けになっていたわけで…林出氏はなかなかのやり手である。
会談録は満州国建国から終戦までの全てがあるわけではない。なぜなら林出氏が途中で解任されてしまったからだ。しかし、満州国にとっての重大事件は数多く載っていた。組閣、2度にわたる溥儀の訪日、関東軍の動き・思考過程・戦略などであるが、自分にとっては初めて知ることばかりであった。
やはり、日本の中国進出は最初から無理があったと改めて考えさせられる。
シビリアンコントロールも重要。
トップの責任の所在を前もって確定することも重要。
それと、本書では溥儀の精神的な弱さも露呈している。
以上、なかなか興味深く読ませてもらった。
星を4つにしたのは、もう少し満州国の実態(特に一般民衆の様子)を掘り下げてもよかったのでないかとの思いから。