「海は誰のものか 東日本大震災と水産業の新生プラン」

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  • マガジンランド
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784905054290

作品紹介・あらすじ

海の所有権・漁業権とは、漁協とはどんなものか、海の資源をどうやったら守れるのかについて一般の読者向けに解説する。

感想・レビュー・書評

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  • 漁業者の平均所得。日本、251万円。ノルウェー、580万円、数か月の労働で、800万から1.000万円稼ぐこともできる。

  • 現在の水産業のままでは衰退の一途をたどる。
    筆者は東日本大震災は水産業の一大転機であり、東北水産業の復興は日本の水産業のモデルになるといえる。

    ・現状インフラの再興したといえども、産業政策が立案されていないと結局インフラ投資は無駄になる。
    ・水産業=漁業+水産加工業の二輪であり、双方が欠けても再生は難しい。

    ・日本の水産業
    →燃料高、漁獲量の減少
    →漁港の整備以上に他の事業にお金が使われていない

    *漁業権の拡大が不可欠
    (こうした閉鎖的な状態が漁業の不振をつなげている)
    →県知事vs.県漁協

    *国、地方自治体は将来的な国益を見据えて被災地復興にあたる必要がある(pp.113)
    *コンパクトな水産都市を造る必要がある

    *加布里水産組合と福岡県水産局の強力なバックアップの下にIQ(個別割当)を実施。

  • 著者の小松氏は、水産庁出身の元官僚ですが、水産庁時代には国際捕鯨委員会等多くの国際会議に出席し、水産業の発展に従事されました。2005年には米ニューズウイクーク誌「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれています。
    また2008年9月に「世界の食料危機と水産資源に」ついてと題しRadixの会セミナーで講演していただき、当時も舌鋒鋭く漁業の未来について語っていただきました。
     今回の著書は岩手県陸前高田市広田町でお生まれになった著者が、幼少から疑問に感じていた"海は誰のものか"をテーマに海の所有権・漁業権とは、漁協とはどんなものか、海の資源をどうやったら守れるのかについて詳述し、東北、東日本を含め日本の海と水産業の新生のために漁業だけではなく、陸の産業も含めて総合的に熱く持論を展開されています。

    「漁業権は土地の所有のように水面を支配する権利ではなく、漁業免許によって特定された内容の漁業を営む権利である。漁業権が一般の人たちに排他性を持つのは、漁業行為を妨害されたときだけで、漁業行為を行っていないときは漁業権の効力はないのである。」
     
    「長い漁業の歴史の中で生まれた「漁場の所持」の感覚は、今も漁民の中に流れており、これが漁業権の開放への根強い抵抗へとつながっている」
     
    「魚は漁業者の物ではなく、国民共有の財産」「漁業者は国民の負託を受けて共有財産を漁獲する権利を得ている」「そしてその権利には資源を守る義務もともなう」

    加工業と漁業は表裏一体であり、漁獲量が上がらない⇒収入が上がらない⇒労働環境が悪化する⇒人が集まらないという負の連鎖反応を起こしている日本の漁業の現状は水産物の加工業にも及んでいる。「漁業の生産量を持続的に管理して上げるに、その受け皿である加工業のほうも同時に整備したり、増やしたりしなければいけないのである」
     
    本書は日本の水産業の衰退を危惧しながらも、再び活性化すべき、また再生可能な新生水産業の在り方を展開され感動する一冊。(Radix事務局 伊藤進)

  •  漁業については、東日本大震災の復興にあたって、大事な論点だと思う。基盤ができたり、住宅ができるだけでなく、かせぎの場、東北の場合は漁業が復活することがとても重要だと思う。

    (1)漁業の復活のためには、ノルウェーなどの北欧だけでなく、アメリカや韓国でも始めた、漁業資源の管理、そのための乱獲の防止が必要。(p159)

     日本だけが、オリンピック方式といって、一定の期間に先を争って、各漁船が稚魚も含めて根こそぎ魚をとってしまう。これを個々の船ごとに漁獲量をわりあて、小型の魚をとることを禁止する措置をとることが重要という。

    (2)定置網漁業や区画漁業権は、漁協が優先されている。漁協が後継者不足に悩んでいるときに、実績や経営能力を評価の判断にしないのは差別的だ。(p103)

    (3)官庁はリーダーシップが不足している。役所が合議制で、大局的かつ中長期的な視点を持つリーダーの顔が見えない。(p177)

     30年間、農林水産省に勤めた小林さんの言葉は痛い。社会のため、国民のためになるかという視点を常にもって、自らを戒めていきたい。

     是非、漁業も農業も地場産業も一緒に復活しているような、復興計画を立てたいと思う。専門家のアドバイスを仰ぎたい。

  • 大船渡の漁師から薦められて。

  • 漁業・既得権としての漁業権への問題言及がメインです。震災を一つの大きな大前提として書かれてはいますが、主張としては震災復興というよりも、マズイ状態だったのだから元に戻すのではなくて、別の方向に舵を切ろうよという内容です。
    魚の種類ではなく、漁業者に対して漁獲量を割り当てようとすると反対が出るようですが、妻が夫に酒を控えるようにいうのと同じだ、という例えにドッキリ。
    この場合、誰が妻なんだろうね。漁業者に対しての漁協? 漁協に対しての水産庁? 農水省? 日本政府? 大きな利害が一致する関係での枠組みでないと、結局オリンピック方式に戻っちゃう気もします。

  • 日本の漁業の中心地である東北の漁業を復興させるのは至難の業。幾ら金を掛けようとも現状の乱獲による漁獲資源の減少、漁獲高の低迷、新規資本の参入規制、漁業従事者の高齢化と後継者難を考えると、そのまま現状追認で復旧することに意味は無いとする。復興予算も旧来の踏襲となると、大半の水産関係予算は現在ある漁港の復旧に使用されることが予想されるが、今こそ小規模漁港を集約し、その分下流である水産加工業の整備も考えるべきであろうとも指摘している。

    まずは時間が掛かろうとも、漁業資源回復のために漁獲量個別割当制度を導入して資源量(魚体)の回復と魚価の回復を目指すことが第一義で、更には企業の資本を引き込むことも大事と結論つけるのは既刊「日本の魚は大丈夫か―漁業は三陸から生まれ変わる」(勝川俊雄著・NHK出版新書)と全く同じ結論である。恐らくこれらの結論に間違いはないのであろうが、本当に漁業者だけの問題だけなのだろうか?

    一方で、大手スーパー等の直接買付けにより漁業は(農業もだが)既に市場での価格決定機能は失っており、価格決定権は大手流通業者に握られている。更には魚にも規格化も進んでいる。自然の恵みにも関わらず、「安定供給」を求め「サイズはこれで毎日何トン」とまるで工業製品を買うかのような方法も、乱獲に拍車を掛けている。また漁獲量が小さい魚種に価格が付かないことに結びついているのだが、漁業の現場だけではなく消費者もまた考える必要があろう。

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著者プロフィール

農学博士。独立行政法人水産総合研究センター理事。
東北大学卒。77年農林省入省。米国エール大学院卒。農学博士(東京大学)。
IWC日本政府代表代理、FAO水産委員会議長、水産庁漁場資源課長等を経て、05年より現職。
[主要著書]
さかなはいつまで食べられる

「2007年 『さかなはいつまで食べられる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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