- Amazon.co.jp ・本 (406ページ)
- / ISBN・EAN: 9784905425496
感想・レビュー・書評
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発売されたての新しい本。著者は浄土真宗の僧侶です。
誰もが驚くようなタイトルで、さまざまな仏教宗派の中でも、浄土真宗は日本一宗徒が多いとされているだけに、(仏教かとはこれ如何に?)と、内容が気になりました。
仏教系の大学の博士課程まで出た著者の書く内容は専門的で、もともと浄土真宗について学校で習った程度の知識しか持っていない私にとって、かなり高度でしたが、やさしい言葉で説明してくれようとする配慮を感じます。
専門用語も多々登場し、重要なキーワードである「預流果」さえも知らなかった私は、一読しただけでは頭に入らなかったため、再読しました。
教義を理解している真宗の人に比べて遥かに理解度が低いものの、一般的な一読者として感想をまとめてみました。
浄土真宗は、僧侶が剃髪しない、清めの塩を使わない、御朱印を配布しない等の、他宗教とは異なる特徴があります。
その辺りに着目するのかと思いましたが、もっと大きな、初期仏教と大乗仏教との差異の明確化から始まりました。
日本の仏教は、伝来されてからずっと大乗仏教で、歴史の授業では「大乗仏教の方が小乗仏教よりもすばらしい」というように教わりましたが、著者は大乗仏教に批判的。
日本の仏教にはサンガや戒がないため、本当の仏教ではないという意見に驚きましたが、大乗経典が釈迦の教えではないという指摘に、さらに混乱ました。
『法華経』『観音経』『維摩経』『般若経』『華厳経』などといった有名な経典は、どれもすべて仏が滅してから数百年後のインド各地で作られたものだとのこと。
実際にはお釈迦様が説いた教えではないために、著者は「偽経」と言い放っています。
キリスト教でいう、聖人たちによる福音書のようなものかと思いますが、ブッダによるものではないとわかっていながら事実を有耶無耶にしているという点で、著者は仏教界全体を批判しているようです。
たしかに、ショッキングな事実なので、もっと広く知られてもよいことではないかと思います。
また、浄土真宗が最尊仏とする阿弥陀如来は、ブッダではないというもっともな指摘も加わります。
仏教の中のさまざまな仏の区別について、正直よくわかっていませんが、浄土世界にいるという阿弥陀如来を釈迦のイメージとダブらせた結果ではないかという考察が下されています。
もともと極楽浄土での幸せを説く浄土宗ですが、ブッダは生前、死後の世界について一切語っていなかったというところに、そもそもの矛盾が発生します。
ここを突いてしまうと、浄土宗や浄土真宗といった浄土系の宗派は、ぐうの音も出なくなります。
浄土系の信者たちは日本仏教徒の半数近くを占めており、誕生から今までずっと民衆に支えられ、信仰されてきた教義なのですから、その存在意義は絶対的。
たとえ正確にはブッダの教えではないとしても、あってしかるべきものだと思いますが、著者は追及の手を緩めません。
「日本仏教の最大の弱みは、僧侶がこれらの古傷を認めたがらないこと」「嘘やごまかしや騙しや隠し事が、心の一番の弱みである」と、厳しく追い詰めます。
その毅然とした追い込み方に、読んでいてかなりはらはらします。
親鸞の説く「悪人正機説」が、いまひとつよくわかっていませんでしたが、世間一般の意味の犯罪者という意味ではなく、自分の内面が悪人だと自覚した人という意味だという解説に納得しました。
人間の持つ原罪を意識している人という意味でしょう。
ただ「法然上人も親鸞聖人も、そのような心の本質を一般用語とまったく同じ『悪人』と表現したのは、ちょっと軽率」と、宗祖にまで批判の矛先を向けていることには、驚きました。
「お釈迦様が明らかにされた正確な功徳回向の法則を親鸞聖人や当時の日本仏教の祖師たちがどの程度把握していたか、心もとありません」という文章も見られます。
教義への深い知識があるだけに、単なる言葉のあげつらいではない、批判の重さを感じます。
真宗教徒ではない私でさえ、読みながら戸惑いを感じてしまったので、熱心な信徒の方のショックは大きいのではないでしょうか。
宗教にはタブー的な側面も多く、どの宗教においてもこれまで曖昧なままにしてきた矛盾点は数多いものでしょう。
それをクリアに問題提起をしたという意味では、非常に意味深い、勇気ある内容となっています。
それだけに、この本を出してからの著者への風当たりの強さも予想できます。
あとがきに、著者が本著執筆に至った過程が丁寧に記されていました。
浄土真宗の大学を出た著者は、学部に「仏教学」と「真宗学」のコースが別になっており、互いのコースにあまり交流がないということに疑問を抱いていたとのこと。
小乗仏教の僧侶との交流を重ねたことが教義に反していると見做され、本願寺派から僧籍削除と破門の勧告を受けたとのこと。
そのため単立寺院になったのだそうです。
それで歯に衣着せぬ舌鋒鋭い文章となっているのでしょう。
浄土真宗、広くは日本仏教の矛盾を突き、問題提起を投げかけた本書。
著者の意見に賛同するにせよ批判するにせよ、教義を詳しく知る人にとって、非常に読みごたえのある内容となっています。詳細をみるコメント0件をすべて表示