石油の呪い――国家の発展経路はいかに決定されるか

  • 吉田書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784905497493

作品紹介・あらすじ

中東地域ではなぜ民主化が進展しないのか――。
石油は政治、経済、社会にいかなる影響を及ぼすのか、その深刻さを計測し処方箋を提示する画期的な一冊。

感想・レビュー・書評

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  • ここ10年でマイベスト3に入る内容の本。
    能力・努力を必要とする産業が支配的な社会では、個々の人間開発のインセンティブが高まり、それゆえ人権も尊重される。
    能力・努力をさほど必要としない産業が支配的な社会では、地縁・血縁が重要になり、人々は忖度に明け暮れ、自ら人権を投げ出すようになる。
    経済と人権はリンクする変数であろう。人権に天賦の絶対価値などなく、あぐらをかいていれば失われる。
    色々気付かされた一冊であった。

  • この一冊石油の呪い マイケル・L・ロス著 資源国が繁栄できない理由
    2017/4/1付日本経済新聞 朝刊
     資源保有国は資源に呪縛され、貧困から抜け出すことができない。資源を梃子(てこ)に経済開発を行おうとすると往々にして政治改革や社会変革が阻害されてしまう。これらが石油の呪いといわれる産油国特有の現象であるが、どうすれば、こうした呪縛から逃れることができるか。本書はそれを分析する。
     著者はUCLAの政治学の教授である。本書は7章から構成される。第1章の概要に続き、第2章は石油の呪いの発生機構を分析している。第3~6章はモデル分析で、第3章は旧ソ連経済の停滞原因と1980年代の油価下落の影響、第4章は石油収入の女性の地位への影響、第5章は石油を原因とする紛争、第6章では石油収入の経済的効果を扱った後、第7章は石油の呪いからの脱却法を提示している。
     歴史的には無資源国の方が、資源国よりも経済的にうまくやってきた事例が目に留まる。17世紀のスペインは新世界で確保した金・銀という大きな資源を手に入れたが、実際はむしろオランダの方が経済的繁栄を手にした。19世紀から20世紀にかけては資源小国の日本やスイスが資源大国のソ連を上回る経済的成功を収めた。産油国の中には資源収入を賢明に使っている国もあるが、多くの産油国にとって石油は恵みを与えず、開発を呪縛している。
     資源国が健全な経済開発を進められない理由の一つに著者は資源価格の変動を挙げる。資源価格は工業製品価格に比べて変動が大きいため、資源輸出に依存する国は不確実性とリスクに常に曝(さら)される。本書には様々な統計分析がある。開発経済を学ぶ読者には、様々なモデル分析に接することができる好著といえる。
     最後に本書が扱っていない産油国の今日的課題を指摘したい。原書が出版された2012年以後、地球温暖化対策がエネルギー問題の前面に登場した。15年12月のパリ合意はその到達点であり、こうした流れは化石燃料への投資抑制、化石燃料資源の座礁資産化の流れを生んでいる。その流れの中で資源保有国に求められるのは、ガバナンスの確立である。石油の呪いから逃れる方途として、産油国には統治の確立が求められる局面に時代は既に突入している。

    原題=THE OIL CURSE
    (松尾昌樹・浜中新吾訳、吉田書店・3600円)

    ▼著者は米UCLA政治学部教授。著書に『レント、レント・シージング、制度崩壊』など。
    《評》帝京平成大学教授
    須藤 繁

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