裁判所の大堕落: 冤罪を続発させ役人のいいなりになる腐敗組織

著者 :
  • コスモの本
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784906380879

作品紹介・あらすじ

役所の腐敗や次々に起こる冤罪は、裁判所の劣化・堕落が原因だ!役所や検察をえこひいきする、ひどい八百長裁判が横行している。20件以上の税金裁判に関わった「闘う税理士」森田義男が、自らの体験をもとに裁判所・裁判官の堕落を告発!裁判所の腐敗の根は想像以上に深い。

感想・レビュー・書評

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  •  本書は病める司法の実態を明らかにすることを目的に記述された本である。著者は税理士・不動産鑑定士であるが、業務上行政訴訟に関わったことがきっかけとなり、司法の実態を垣間見ることになった経験上から裁判所の抱える問題点を文献等の引用と経験を主な手段として描写していく。

     著者の経験した行政訴訟の一つに中間省略登記に関するものがある。これは特に何が問題だったのか、一般読者の中にも少なからず中間省略登記の当事者になる可能性のある人もいるであろうから、若干詳しく述べる。

     (不動産)の中間省略登記とは不動産所有者AさんからBさんが購入、さらにBさんからCさんが購入した場合、A→B→Cと登記所での登記が変遷するはずであるが、Bさんが登記を省略し、直接A→Cへ登記が移転することである。(登録免許税が50万~100万円になる為、省略は経済的メリットになる。)


     著者は中間省略登記の行政訴訟を起こす決心をした経緯を以下のように述べる。
      ①登記所のオンライン化に基づく不動産登記法の改正をし、中間省略登記を実質不可能にする変更を行った。
      ②法務省は改正に際して規定内容の実質的な変更は行ってないと明言。
      ③中間省略登記を禁止するなどという話は、国会の審議過程でも一切でてきていない。

     以上の事に怒りを覚えた著者が、当事者になる為の不動産売買を実行し、関係者の協力を得て中間省略登記になる形で申請、拒否されることで行政訴訟を起こす。

     結論から言うと最高裁まで争って敗訴になるわけだが、特に1審での内容を簡略に記す。
      ①民法第177条によると、登記するかどうかは権利者の自由と解すべきで義務であると解釈することは無理がある。
      ②行政法には、「行政機関は、法律の根拠に基づかないまま、国民の権利を制限してはならない」とする大原則がある。
      ③①、②を元に、原告は法的根拠を被告に求めるも、被告からは各種学説を引用した反論をするが、法的根拠が示されなかった。
      ④判決文では、中間省略登記に関する判断は行わず、手続き上の齟齬等の表面的な点だけに触れて原告敗訴とした。

     この件に関しては巻末に付録として特に詳細が載っている。 

     中間省略登記の問題に関しては、著者は敗訴したとはいえ、行政訴訟に訴えることにより、行政側の法に基づかない(違法な)出鱈目行政をけん制することができた意義を唱えている。 

     その他にも著者の経験に基づく行政訴訟の内容が記述されているが、どれも当事者ならではの非常に説得力のある内容になっている。

     本書後半からは体験談から離れて裁判官・裁判所から警察・検察・弁護士に至るまで一部体験を含め、文献からの引用等で司法関連全般に及ぶ批判から問題点の提起および改善案の提起をする内容となっている。

     著者は本文中で裁判所・裁判官は本来、社会正義と公正を体現する最後の砦たるべきことを何度となく主張しているが、実態はそうではなく行政側の守護神となってしまっている一側面をも指摘する。その原因を裁判官になるまでのシステム、裁判官の業務上のシステム、また裁判官になったあとの日常生活等さまざまな切り口から原因を考察している。その中でも根本的な問題の一つとして、法律とは「やや漠然とした社会通念等を体系化した上で文章化したもの」であると定義した上で、裁判官が若い頃は難関試験の勉強に明け暮れ、裁判官になってからは激務に忙殺され、エリート意識も相まって、社会通念や一般常識が十分涵養されるには困難な環境を生きていることを指摘している。

     様々な問題点が本文中列記されているのであるが、まさに驚くばかりの内容が次から次へと展開されていく。特に目を引いた点を挙げると、(検察・警察の出鱈目と冤罪を見抜けない裁判官(P164))で取り上げられている事項だが、日本の刑事事件の有罪率は99・9%であるという。これは日本の検察が非常に優秀であるということではない。実態は、「本来、刑事裁判においては、検察側に犯罪の証明を行うべき立証責任が課せられている。しかし、実際の裁判では、あいまいな証拠しかなくても、ほとんどそのまま有罪になってしまう。つまり、被疑者・被告人側が無罪の証明を求められているのが実態なのだ。むろん、警察に勾留されている被疑者・被告人に、そんなことできるはずがない」と指摘する。まさに驚きの実態である。これでは、検察に睨まれたら最後、有罪にされてしまうしかないのではないだろうか。この検察びいきになっている一因に判検交流があることをも著者は指摘している。これは裁判官が一定期間法務省に出向して訟務検事役を勤めまた裁判所に戻ってくることを指す(司法と行政が癒着している)。

     また、司法修習生が裁判所や検察での修習の際に、憲法や法律の規定とまったく異なる取調べや裁判がなされているのを目の当たりにして、その疑問を裁判官にぶつけると、ほとんどの場合「法律と実務は違う」という答えが返ってくるという。端的にいうと、違法ではないか?

     本書を読んでいると、司法界がいかに問題が山積しているかということが痛感させられるが、結局なぜそれだけ多くの問題点が長年にわたって放置・維持されてきたのか?という疑問にぶつかる。少なからず私利私欲保身からでたであろう悪しき慣習が少なからず存在するであろうことは推察されるのであるが、中には必要悪(その問題を解消すると、さらに大きな問題が発生するが、それの解決が困難等。)も混じっているのではないかと感じる点も無いではなかった。本書は様々な問題があることを認識するには十分な実例が多々述べられているが、それは問題の認識というまさに入り口に立った状態になるだけである。本当の問題解決には考慮すべき事柄が膨大で、にわかには結論めいたものは述べにくいのが実感であった。

     著者は最後に問題改善の提案として以下の点を挙げている
      ①司法試験のペーパー試験(識見)の難易度を下げ、新たに人格を評価する二次試験を導入すること。
      ②中央省庁キャリアの採用に関して1つの大学からの採用人数の上限を設ける
      ③不当と思われる行政訴訟等を分析・批判して、要旨を一般人の人に分かりやすく大マスコミに意見広告を出す委員会の設立
       
     本書は裁判所の現状を認識したいと思う読者には最良の一冊になるのではなかろうか。

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著者プロフィール

昭和23年埼玉県生まれ。昭和47年東京教育大学卒業。同年三井信託銀行入社。
16年間の在籍中10年間にわたって不動産業務を担当ののち、昭和63年、同社退社。
同年、森田税務会計事務所開設。税理士、不動産鑑定士。

「2018年 『はじめての不動産実務入門 三訂版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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