- Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
- / ISBN・EAN: 9784907654290
作品紹介・あらすじ
本書は、日本人と日本社会が直面している現実的諸問題に、何らかの具体的処方箋を提示しようとするものではない。丸山真男という思想家の残した思想との対話を通じて、こうした現実的諸問題に備える視座と、思想的な「かまえ」とを求めたものである。
感想・レビュー・書評
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丸山眞男にかんする著者の論文を収録しています。
丸山は「近代主義者」とみなされ、大衆から遊離した啓蒙の立場を脱することがなかったとして、吉本隆明のような論者からの批判を受けてきました。また現代では、ポストモダン思想の立場から丸山を「国民主義者」として批判する議論も多くなされています。著者はこれらの批判に対して、丸山の思想的営為の内実を明らかにすることでこたえるとともに、その現代的意義を論じています。
とくに著者は、笹倉秀夫の『丸山眞男論ノート』(みすず書房)を高く評価しており、自由主義的原理と民主主義的原理のアンチノミーの自覚にもとづく緊張的な内面的精神を、丸山が一貫して追及していたことを明らかにします。ただし著者は、笹倉の議論が主として自由主義的原理に偏っていることを指摘し、自発的結社において成員がこうしたアンチノミーに不断にさらされることで近代的意識を獲得するチャネルが開かれるという可能性を強調しています。
また著者は、「自由」という概念が近代以降の日本において「欲望自然主義的自由」として受け取られがちであったという事実を指摘し、丸山の「古層」論のもつ意義について考察しています。さらに西洋近代における「啓蒙」の精神を告発するポストモダン思想と、それに依拠する日本の論者たちによる丸山批判に検討を加え、近代批判が日本の伝統への回帰へと直結してしまうこの国の思想的風土の問題を乗り越える可能性は、むしろ丸山の思想のうちに求められるのではないかと論じられています。
著者の丸山理解は明確に語られていて読みやすいのですが、ポストモダン思想の提出している問題が、やや表層的なレヴェルでしか受け止められていないのではないかという疑問を感じました。詳細をみるコメント0件をすべて表示