- Amazon.co.jp ・マンガ (204ページ)
- / ISBN・EAN: 9784909899002
感想・レビュー・書評
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序盤気になった古臭さも設定が見事で払拭、後はキャラか
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作者が真に望むなら、それを読者も望む、そんな時代がやってくる。
電子の海をたゆたうネット社会が産声を上げてから早二十年以上を数えました。
光あるところに影あり。
電子複製がたやすい漫画が勝手にネット上にアップロードされることにより、本来その利益を得るべき人々から詐取される――そんなことも現在進行形で続いています。
著作権と言う無形の財産が改めて人々に認識されつつあるこの御時勢。
他者の画像を勝手に利用して利益を貪る者へ警句を告げ、また知らず知らずのうちにその悪の片棒を担いでしまっている無辜の方々への警鐘を鳴らす。
そんな闘いの日々を綴った「パクツイBOTスレイヤー」なる漫画がありました。
この漫画『勇者のクズ』は、そんな時代の最先端を行く活動をしているフリーランス漫画家「ナカシマ723(-なつみ)」先生が自身の創作物を勝手に無断転載することで不当な利益を得た各種まとめサイトを相手に訴訟取ったこともひとつのはじまりでした。
ナカシマ先生は勝ち取った賠償金を元手に「ニコニコ静画」などのWEB漫画サイト上で連載を開始、この単行本一巻を自費出版で4700部作ってしまったという伝説を現在進行形で作っています。
(電子書籍も発売、こちらも表紙裏おまけを含め完全収録)
原作は「ロケット商会」の同名小説『勇者のクズ』。
インディーズ時代からナカシマ先生はこの小説のファンであったらしく、許諾を得て作品序盤の内容を追体験できるフリーゲームを制作、配布などもしていました。
そのため、このコミカライズでもカドカワBOOKSレーベルで書籍化されたものとは異なる独自にデザインされたキャラクターデザインを引き継いだものとなっています。
輪郭をグッと描いたビビッドでシャープな絵柄がとてもいいのです。
腕利きだけど、微妙にくたびれ気味な主人公とその腐れ縁たちと、ヒロイン三人娘の描き分けも上手いですね。
漫画としても三次元空間を活かし、その中の一瞬を切り取ることで、動きを魅せてくれているなあと思うのです。
作者は西洋剣術の取材も行われたようで、その動きもしっかり剣戟に反映されているようです。
焦燥と恐怖が睫毛を焦がすように、本当に伝わってきます。
加えて漫画ならでは吹き出しの仕掛けには驚かせてもらいました。
小説でもないのに叙述トリックをしてくるとは、脱帽としか言いようがありません。
表紙を飾っているヒロイン筆頭「城ヶ峰亜希」は可愛くて、ふしぎちゃんを思わせる瞳の描き方が結構目を引きますよね。
微妙にデフォルメ入っているんですけど、本作の世界観と先に触れた種明かしを踏まえるとかなり納得いただけると思います。
本作は「勇者と魔王」というレトロでRPGなワードから連想される世界観そのものではないんです。
現代のアングラな抗争に皮肉めいたネーミングと演出として、そのガワをかぶせたといいますか。
ヤクザとヒットマンと言えば、趣がなくなるところを「魔王と勇者」ですよ。
主人公「ヤシロ」はそんなお偉い方が決めたネーミングに憎まれ口を叩きながら殺伐な仕事に糧を得つつ、軽口を飛ばしあう仲間内での「ピザとビールとカードゲーム」に日常を得る。
そんなわけでアウトローな隠れ家のような路地裏と空気感が本当によく伝わってくるのですよ。
この一巻は導入となる巻なのですが、ベテラン勇者と問題児三人組なひよっこ勇者が師弟関係を結ぶまでの流れが実にスムーズです。
オリジナルの繋ぎも入ることで、チュートリアルとして完全に機能しているかと。
そんなわけで売り上げによって決まる二巻以降の連載にいささかハラハラしていますが、市井の一ファンとして応援・注視していきたいですね。
総じてこれからのビジネスモデルとしても、ファンとクリエイターの垣根を低くする創作のならいとしても、もちろん一個の作品としても非常に面白いと感じました。