勇者のクズ 3巻 同人誌版(ランチャーコミックス)

  • 陰陽社
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  • Amazon.co.jp ・マンガ
  • / ISBN・EAN: 9784909899033

感想・レビュー・書評

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  • 踊れ、踊らない、殺されるな、戦え!

    まず、本編の内容に触れる前に、本商品を取り巻く環境を軽く突っ込んでおきたいので言っておきます。
    二巻、三巻と紙の本が893(ヤクザ)円で、電子書籍が777(スリーセブン)円という価格設定は狙ってますね(2021年9月現在)。いずれを取っても一目瞭然として。ちなみに一巻の電子書籍は555円でした。
    ふふ、と忍び笑いが漏れるのはそこそこに。一方で正規ルートなら無料で読めたりもするのも粋ですね。

    一般的な商業販路や原稿収入に頼らずとも「Kindle Unlimited」を介したPV収入などで独自のビジネスモデルに乗った本作ですが、やはり連載が継続し、本が出続けるためには応援と売上が不可欠でしょう。
    ここで言う売上は出版社を説得するための材料ではなく、利益を個人事業主に直接届けるためです。

    事実、一巻刊行に前後した筆者「ナカシマ723(‐なつみ)」先生のインタビューでは、リアルな数字が飛び交い、シビアなコスト計算を前に私個人の感情ですが身を引き締める思いを抱いたと記憶しています。

    漫画本編が古き良きゲームを楽しむ日常を送りつつ、刹那の時が生死を分かつリアルの怖さに飛び込むように。作者が漫画を描き流通させていく上でのコストとリターンの綱引きに通じるかもしれません。
    とは言え本当の鉄火場は茶化せないとしてもそういった遊び心を忘れず、時に不敵な笑みを浮かべながら挑んでいく姿勢、それもまた現実に通じる「勇者」という理想像のひとつだなんてうそぶいてみますか。

    そういったわけで今回のハイライトはパーティを組んでパーティーに乗り込む話(洒落のつもりです)。
    ところで、これまでの主人公とトリプルヒロインが一人ずつ輪番制を務める表紙を見てみましょう。
    ついでに言えば、ここからのレビューにはネタバレも少々織り交ぜるのでご容赦ください。

    一巻の表紙で、主人公「ヤシロ」はトラブルメーカー「城ヶ峰亜希」に振り回される予兆か、困惑顔。
    二巻の表紙で、同じくヤシロは命を預けるに足る相手と認めたか、「印堂雪音」を背中を不敵な横顔。
    三巻の表紙で、ややあってヤシロは「カシワギ・セーラ(以下略)」相手には悪ガキじみた大人の顔。

    三人のヒロインが一人ずつ、毎回主人公と等分された構図と表情からみえてくる関係性が面白いですね。
    ついでに、三人娘の間の関係性も、主人公という窓口を介して段々と見えてきたりで、だったら主人公との間に殺伐とした軽口を叩き合う友人たちは……? 回り道が過ぎました。一言言えば衝撃でした。

    原作時点からして前触れがないか、極々注意して読めばわかる程度の唐突な終わり方だったので気取れなかったということもあります。友人たちが三対三でイーブンだなんて諧謔にもなりやしない。
    ともあれ、仮にも友人を殺されたヤシロたちが黙っているはずもなく、物語はここまで撒かれてきた伏線を結ぶべく、拷問や殺害も視野に入れた容赦のない裏のやり方で情報を揃えていきます。

    その過程の中、三人娘になにかあるという見込みも兼ねて連れてきたのが先に申し上げましたはパーティー会場、彼女たちの特訓から実践への移行も兼ねており、ひとまず鞘当てのつもりが……。
    まさかの生死を賭けた実戦への移行、大ピンチというところでここ三巻は引きとなっています。

    三者三様のドレス姿に見惚れる暇がないのは鉄火場に向かうシナリオか、きっとヤシロのキャラゆえか。
    けれども、こういったところで各人に見せ場を作っていただけるのは嬉しい限りです。

    まぁ、それはそれ。
    三人娘がいったん出尽くしになってしまった以上は四巻の表紙が誰かという予想が立てられそうにないですね。いいえ、この巻でいよいよご登場相成った《嵐の棺》卿にお出ましいただけるかもしれません。

    元々ヤシロと、先に挙げたヒロインたちは年齢層が隔たっているのでロマンスという意味でも、色気という意味でも望むべくもないわけですが、ここで真打登場とばかりに妙齢の女性が現れたわけですから。
    懸想か執着か、謎めいた女のヴェールで真意を隠しつつ、大物の魔王としての風格を漂わせながらヤシロを自陣営に引き込もうとする様に、何とも惹かれてしまいますね。今後どう転ぶかわからないにせよ。

    女性魔王も珍しくなくなった昨今ですが、裏社会の大物という浮世離れした肩書も相まってファンタジックな世界の魔王という実感は大きく、リアルの洪水にロマンが流され気味な本作では貴重な存在です。
    まぁ、そんな彼女も今回は顔見せでヴェールの奥に身を隠したわけですが、いずれにせよ乞うご期待。

    では、最後にまとめを申し上げ四巻への展開に向けた一助にしたいと思います。
    三巻はアクションシーンを軸としつつ劇的な転換を盛り立てていく、いままでの巻の構成に忠実です。
    城ヶ峰たち、ひよっこ勇者の成長譚としては、着実に進歩がみられることがあって絶望的な状況に置かれようとも、まず先が気になり、引き続き先を読ませる作りをしています。素晴らしい。

    あとは漫画的な観点に立てば、視覚を活かした演出もいいですね。
    具体的には、絵的な符合。この巻では一連の事態の裏に一個の組織がいると言及されたのですが、言外に個々の事例がつながっていることを悟らせることで、物語の像が次第に結ばれていく快感が生まれます。

    主人公チームが情報系と戦闘(加速)系で「2:2」のイーブンというパーティ構成もいいですね。
    視覚に訴えかける力が強い。前者が「字」で後者が「絵」主体、ならば両方を含む漫画との相性もいい。 文字情報を変化球で伝えることで叙述トリックを行った一巻の例もありますが、この巻では到底文字情報に変換できない、複雑な表情をヤシロが見せたことで媒体としての漫画の強さを実証した感があります。

    作品の内容としては以上です。作品外への言及が多くなりましたが、これもインターネットの発展によってコンテンツの送り手と受け手が双方向でコミュニケーションを取る今の時代らしいのかもしれません。
    四巻が実現した暁には、色々な意味で商業の壁を乗り越えること、私にとっても未知の領域に踏み込むものかと存じますが今はただ過不足なく希うものとします。

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