私の顔は誰も知らない

  • 人々舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784910553016

作品紹介・あらすじ

"なぜ多くの女性は、これほどまでに偽りの姿で生きているのだろう"
膨大な数の女性の「個」に迫りポートレートを撮影してきた写真家の、初エッセイ&インタビュー集。抑圧的な社会構造について、そしてそのなかで生きる女性の、人間の幸福について考える。

『私の顔は誰も知らない』とは、社会に適応することを最優先するあまり、本来のパーソナリティが完全に隠れてしまったかつての私であり、似たような経験を持つ、多くの女性たちを表した言葉だ。(中略)学校教育では異端が排除され、社会に出れば、ルールに適応することを求められる。外から入ってくる価値観に振り回され、偽りの自分でしか生きることができなくなってしまう。自分の発言を黙殺し、まったく違う人間を演じることが当たり前になってしまうのだ。
ーー本文より

写真集『やっぱ月帰るわ、私。』『理想の猫じゃない』(共に赤々舎)、ノンフィクション『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』(KADOKAWA)など、写真と文筆を横断する作家、インベカヲリ★。両者の仕事に共通することは、対象の表面をなぞるのではなく、あくまでも「心」を捉えることにある。

こと写真においては、男性用グラビアにありがちな鑑賞的、消費的ではないポートレートが、写真業界および女性から圧倒的な支持を得て、今もなお撮影オファーが絶えない(2018年には第43回伊奈信男賞を、2019年には日本写真協会新人賞をそれぞれ受賞)。その理由は、撮影前に被写体から時間をかけて話を聞きとることで、その人自身の個人的な経験や考え方に焦点を合わせて、存在そのものを浮かび上がらせるからだ。

ただし撮影された写真には、普段とはまったく違う姿が写し出される。それは何故なのか、その落差には一体何が隠されているのか。

本書では、被写体や女性たちへのインタビューと、インべ自身の語りを通して、多くの女性が偽りの姿で生きざるを得ない、歪な社会構造を炙り出し、女性にとっての、ひいては人間にとっての幸福とは何なのかを考える。

このテーマ(偽りの姿)を体現したブックデザイン(セプテンバーカウボーイ/吉岡秀典による)にも注目。ぜひ手にとって確かめてほしい。

"抑圧、世間体、感情労働、そしてジェンダーとフェミニズム。うまく社会適応しているように見えるけれど、本当はしていないし、するつもりもない。たぶん理解されないから言わないだけ。そんな私たちの肖像"

感想・レビュー・書評

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  • <女性の擬態>をテーマにしたエッセイ。
    著者のインベカヲリ★さんの語りと、女性たちのインタビュー、ポートレートで構成されている。

    <擬態>に、ドキッとした方も少なからずいらっしゃると思う。
    <私>は、いったいどこまでが<私>なのだろうか、と、悩むのは男女関係ないと私は思うが、女性は特に「女性であれ」という抑圧を社会から受けている場合が多い。

    インベさんに写真を撮られにくる女性は「優しくあれ」「慎ましくあれ」などの社会から要請される<女性らしさ>を、<擬態>して生きている人が多いと感じるのだそう。
    本来の自分を隠し<擬態>して生きている女性が、本当はどんな人で、どんな思考をしているのかを、せきを切ったように語っている。

    とても興味深く、面白い。
    ストーカー加害者の女性、自分を『百万回生きた猫』のようだと思う女性、ネットで「あなたを殺してあげます」と、書いていた相手に会いに行った女性、安定剤を飲まないと人と会えない女性…

    「あなたを殺してあげます」と書いている人に会いに行った女性の顛末は、まるでドラマ、いや、ドラマだとリアリティがない、と言われてしまいそうな展開で、リアルの不可思議さを思った。

    彼女たちを見るインベさんのフラットな視線が安心する。

    自分が出会ったことのない方たちばかり(いや、ほんとの姿を私が知らないだけかも)で、最初はこんなひともいるのだな、と驚いたりしてたのだが、彼女たちの語りが深まるにつれ、深く共感したり、好意を感じたりするようになった。
    人って、社会性の皮を剥くと、すんごく面白い、と、思ってしまう自分は悪趣味なんだろうか。

    インベさんは女性のポートレートの他に事件ルポも書かれている。
    そうか、この人は自分の目で、上っ面だけじゃない人間の本当の姿を見たい欲が強い人なのか。

  • 「普通の人」に見られたい...。なぜ女性たちは「偽りの姿」で生きるのか。 『私の顔は誰も知らない』 | BOOKウォッチ
    https://books.j-cast.com/topics/2022/05/25018154.html

    私の顔は誰も知らない インベカヲリ★(著) - 人々舎 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784910553016

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      同調圧力が生む「擬態」暴く インベカヲリ著『私の顔は誰も知らない』|【西日本新聞me】会員限定
      https://www.nishinippo...
      同調圧力が生む「擬態」暴く インベカヲリ著『私の顔は誰も知らない』|【西日本新聞me】会員限定
      https://www.nishinippon.co.jp/item/n/934715/
      2022/08/25
  • 10代の頃から感じた やってらんねえ という自己の中のモンスターをセルフポートレート、のちに他者の撮影であぶりだし続けた写真家さんのエッセイです。
    女性だけをとりあげて組み立てているので、いやいや男も抑圧されてんのよ、とインベ氏に心中語りながら読みました。

    そんなことより、とにかく
    登場する女性たちのエピソードが
    興味をひくものばかりでした。

    隣にいると想像したら、
    キツい女性もいました。
    素直な感想。

    インベ氏の文章は、
    平素で、何より正直な言葉が選んであって、
    好きでした。インタビューで起きていることは、
    生きにくい女性のカウンセリングではなく
    受容です。そこがまた
    この本の訴えてくるポイントです。

  • 「擬態」という言葉が何度もでてきて、あぁ、言葉にすることがなかった違和感や生きにくさを、こう表現するんだ、と思った。

    なんの予備知識もなく、たまたま手に取って目にした最初のエッセー「私の顔は誰も知らない」、続く「理想の猫とは?」を読んで、この人は、いままで実体がみえず存在もよくわかっていなかった感覚を形にしてみせてくれるひとなんだな、と思った。

    彼女の本業は写真家で、彼女の写真をいいと思うかは、まだ見ていないので、わからないけれど、このエッセー集の中には共感したり、はっとしたりすることたくさん。

    どれもそれぞれに味がある中で、一つだけ備忘で書いておくとしたら、私としては「「ふあふあa」を辿る」かな?

    「ふあふあa」、それを手に入れれば、自分は"人間“(自分の姿)になれる。
    そして、それは、わかりやすい社会的承認に限られない、って、結構いいな、と思う。

  • 生きづらさを感じる女性に響く作品ではないでしょうか。

    筆者はカメラマン兼作家である。
    自分を撮って欲しいと依頼があれば、インタビューを交えつつ、被写体の方のストーリーを綴っていく。

    日本社会が求めている普通を演じるのが辛い人、
    何者かになるために高価なブランドを身に着けて擬態する人、
    アダルトチルドレンで社会でもがき続ける人、
    自分とは誰かわからなくて求められる女に擬態する人、など様々な日本の女性の写真と人生ストーリーがセットの短編のエッセイ集となっている。


    “過剰にシステム化された社会に適応できない人が、薬を必要とするようになったのかもしれない。もしも日本に生まれていなかったら、おもちちゃんは病気になっていなかったのだろうか。

    「なっていないかもしれません。だってインドみたいに電車の上に人が乗っていたり、遅刻が当たり前の国だってあるわけじゃないですか」”
    p.116より

    日本社会に適合しなければ病名をつけられラベルを貼られる。当初は自分が何者かわからないから、他の人もいるんだという安心感に包まれる。

    しかしそのラベルは“普通ではない”扱いづらい人としてレッテルを貼られてしまい、徐々に差別に悩まされることになる。


    わたしは幼少期から、“女だから”、“長女だから”と役割を押し付けられ、それに反発していくうちに性自認は女で女性が好きなことに気づいた。所謂レズビアンである。

    何人か男性と付き合ったけれどもそれは社会の当たり前に合わせていただけかと思う。

    男性と付き合っても“女らしさ”を求められた。
    それが苦痛だった。

    男性が9割の職場では“女だから”と当たり前のようにネガティブにその言葉を利用される。
    すると更に男性嫌悪が始まるのである。

    こういったわたしの社会での生きづらさを感じている女性も沢山いて、日本の社会のシステムに適合するように擬態して、自分が何者かわからなくなってしまった結果、精神障害を発症するのだと思う。

    lgbtは精神障害が多いと軽蔑されるが、
    逆になにも精神障害を持たない普通と呼ばれる人間がマイノリティなのではと思う。

    所謂普通の人生を歩んでゆく人は
    そもそも生きづらさなど感じないため
    少し心の調子が悪くても気づかない
    わたしはおかしいんじゃないか!?という発想に至らないからであると思う。

    最近、“普通”であると自覚している友人達に、
    適応障害とパニック障害発症していま仕事は休職中と伝えた。
    仕事のストレスによってメンタルを崩したのである。

    すると、「わたしもそうだったわ!あれってそういう病名だったんだ」
    と複数の人からその返答を貰った。

    この本を読んで各々インタビューから
    こうすればいいといった対応策などは提示されない。

    むしろそれでいいのだと思う。
    ただわたしは共感を得たかったのだと思う。
    普通じゃないけど生きていてもいいのだと気が楽になった。




  • ここに登場する女性たちが異常だとか、生きづらいだなんて私は微塵にも思わない。みんな何処かで抱えているものを表現しているかしていないか、だと感じた。素直すぎるが故に日本の社会では羽を伸ばせない、そんな人が沢山いると思う。

  • めちゃくちゃ面白かった。
    表紙かっこいい。

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著者プロフィール

1980年、東京都生まれ。写真家。短大卒業後、独学で写真を始める。編集プロダクション、映像制作会社勤務等を経て2006年よりフリーとして活動。13年に出版の写真集『やっぱ月帰るわ、私。』(赤々舎)で第39回木村伊兵衛写真賞最終候補に。18年第43回伊奈信男賞を受賞、19年日本写真協会新人賞受賞。写真集に、『理想の猫じゃない』(赤々舎/2018)、『ふあふあの隙間』(①②③のシリーズ/赤々舎/2018)がある。ノンフィクションライターとしても活動しており、「新潮45」に事件ルポなどを寄稿してきた。著書に『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』(KADOKAWA/2021)がある。本書は初のエッセイとなる。

「2022年 『私の顔は誰も知らない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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